欧米のみならず、世界中の子供たちが今日にいたるまで熱狂し続けているファンタジー小説の金字塔、「指輪物語(ロード・オブ・ザ・リング)」。常に物語の中心にある指輪は、圧倒的な力を封じ込めた、全能の存在として描かれた。
指輪などたかが装飾品のひとつ、などと思ってはならない。古代ローマ帝国は言わずもがな、数多の先史文明の装飾品としても世界から出土する。このように、いくつもの起源を持つ指輪は、文明世界において、常に特別の意味を持っていた。そのイメージをファンタジーの世界で描き切ったのがトールキンだったとも言える。
そんな特別な装飾品を現代の紳士が身に着けるなら、世代も時代も超えて意味を持ち続ける名品を手にしたい。時々の流行に左右されるファッションアイテムとは違う価値が、そこにあるからだ。
ピンク、イエロー、ホワイト。3色の18Kゴールドリングが絡み合うカルティエの傑作、トリニティ ドゥ カルティエは、紳士が身につけるべきアクセサリーに必要な美と哲学を兼ね備える、まさしく次世代へとつなぐ逸品だ。ジャン・コクトーが愛用したことでも有名である。
伝えゆくアクセサリー
Cartier カルティエ
これだけAI技術が進化すると人間は仮想空間のなかで永遠の命を得ることができるかもしれない。そうではあるが、持ち主の声や体温が感じられるようなリアルの「形見」の価値が損なわれることはこれから先もないだろう。
その意味でも、ジュエリーやアクセサリー、時計などはちょっと値段が張っても〈これしかない〉と思えるものを手に入れることを強く勧めたいのである。愛する人に自分の愛用品が伝わっていく。モノに命の継承がある─。
買っては捨て、捨てては買うというような「使い捨て人生」をジェントルマンは選択しないと信じたい。
- TEXT :
- 林 信朗 服飾評論家
- BY :
- MEN'S Precious2016年春号『東京ジェントルマン50の極意』より
- クレジット :
- 撮影/川田有二 スタイリスト/櫻井賢之 ヘア&メーク/YOBOON(coccina)モデル/Trayko