カシミアを着て森に行かず

 ものには「ふさわしさ」というものがある。 風呂は裸で入るものだし、西洋料理はナイフとフォークで食べる。水着で風呂に入ってはいけないというのではない。箸でパスタを食べるのを禁ずという法はない。ただ少々「ふさわしくない」。

 服についても同じことだ。カシミアは暖かく、肌触りは最高だが、弱い。そのニットを着て森に入ったらボロボロになってしまう。森に「ふさわしくない」のである。 先人たちが気づき、守ってきたそういう規範を愚直に実践してしまうところが紳士にはある

男の服選びのために覚えておきたい、8種の生地

  • ソラーロ生地
    光の当たり方で玉虫色に彩りを変化させる、エレガントで芳醇な夏素材の代表。品よく傾かぶける絶妙な生地である。
  • ツイード生地
    スコットランドの片田舎で生まれたワイルドなウール織物だが、今や洗練された 紳士にとって欠かせない素材である。
  • モヘア生地
    オンでも使用できる夏のスーツがほしければモヘアを選ぶしかない。シャリッとした生地感は見た目もクール。
  • フランネル生地
    フェルト化させたウール織物の総称であり、スーツ生地のスタンダード。紳士にとって最も重要な素材のひとつ。
  • ブークレ生地
    近年欠かせない素材となったブークレは、輪状のウールを表面に搔きだした表情のある素材感が特徴。
  • カシミア生地
    コートにおける最高峰はカシミア100%で仕立てたものだろう。当然森ではなく、社交場ではおるのが正解だ。
  • ドビー生地
    ドビー織機で織った複雑で凹凸感のある生地は近年、春夏服に新たな魅力を付加している注目すべき存在。
  • シアサッカー生地
    さらっとして涼しいサッカー生地は、雰囲気こそはリゾート風だがヒートアイランド化した都会においては必需品。

男の服に使われる代表的な生地を8種類紹介した。普段愛用しているスーツやジャケットの生地の特徴を理解して、素材が持つ質感を楽しんでみてはいかがだろうか。まずはここで紹介した生地だけを、しっかり押さえておきたい。これからの服選びがもっと楽しくなるはずだ。

この記事の執筆者
TEXT :
林 信朗 服飾評論家
BY :
MEN'S Precious2016年春号『東京ジェントルマン50の極意』より
『MEN'S CLUB』『Gentry』『DORSO』など、数々のファッション誌の編集長を歴任し、フリーの服飾評論家に。ダンディズムを地で行くセンスと、博覧強記ぶりは業界でも随一。
クレジット :
イラスト/緒方 環 撮影/熊澤 透(人物)、川田有二(人物)、篠原宏明(取材)、戸田嘉昭・唐澤光也・小池紀行(パイルドライバー/静物)、小林考至(静物) スタイリスト/櫻井賢之、大西陽一(RESPECT)、村上忠正、武内雅英(code)、石川英治(tablerockstudio)、齊藤知宏 ヘア&メーク/MASAYUKI(the VOICE)、YOBOON(coccina) モデル/Yaron、Trayko、Alban レイアウト/澤田 翔(H.D.O.) 文/林 信朗 構成/矢部克已(UFFIZI MEDIA)、鷲尾顕司、高橋 大(atelier vie)、菅原幸裕、堀 けいこ、櫻井 香、山下英介(本誌) 撮影協力/銀座もとじ、マルキシ