小野瀬 前回は洋楽、今回は邦楽。昭和の音楽のジャンル分けですね。

野宮 だから、トップ10の中に、ポップス、歌謡曲、演歌、フォークが混在している。私たちはいろんな音楽を聴いて育ちました。

小野瀬 今、’71(昭和46)年の曲を研究しているんですよ。

野宮 私がカーペンターズやビージーズに出会った年です。

小野瀬 あの年のヒット曲は小柳ルミ子さんの『わたしの城下町』、加藤登紀子さんの『知床旅情』、尾崎紀世彦さんの『また逢う日まで』などがあり、陰と陽のコントラストが激しい。鶴田浩二さんの『傷だらけの人生』も大ヒットしました。あれほどの暗い曲が100万枚も売れる。そこに、昭和という時代を感じます。

野宮 テレビがいい音楽を伝えていました。村井邦彦さん(『翼をください』ほか)や筒美京平さん(『17才』ほか)の曲が席巻していた時代でもありました。

小野瀬 村井さんはポップな曲を書きつつ、北原ミレイさんの『ざんげの値打ちもない』(’70年)も作曲。あの時代は、特撮やアニメにも多くの名曲が登場。私は山下毅雄さんが作る『悪魔くん』(’66年)、『ルパン三世』(’71年)などの曲に衝撃を受けました。時代の空気感に、暗いトンネルを抜けた後の狂騒感があります。

野宮 でも、’70年代の曲がかかるお店って、意外とないですよね。

小野瀬 だから、かかっているとハッとします。

――大人になってから聴き直して、いいと思う曲はなんでしょうか。

小野瀬 ジュリー(沢田研二さん)の曲はすごい。ミュージシャンになった今聴いても〝続く力〞があると思います。

野宮 ロック、歌謡曲、エンターテインメント、ファッション、すべてがある。私は、’13年のタイガース再結成コンサートに行きましたが、ジュリーはジュリー。歌声も変わりません。それでいて、期待をいい意味で裏切る。ドームで弾き語りコンサートとか、ホントにロックですよね。

小野瀬 洋楽のエッセンスがありますよね。ポップスに洋楽を落とし込んだのは、ベンチャーズなんですよ。渚ゆう子さんの『京都の恋』(’70年)の大ヒット以降、洋楽風の歌謡曲が爆発的に増えた。

野宮 欧陽菲菲さんの『雨の御堂筋』(’71年)もベンチャーズです。

小野瀬 歌謡曲でありながら、演歌の要素もあり、夜のネオンがきらめくような……あのテイストはそれ以前にはありません。――演歌も曲調が変わりました。

小野瀬 北島三郎さんの昔の曲には、アップテンポなものが多い。どっしりと歌うようになったのは、小室等さんほか、フォークミュージシャンの影響があると感じています。演歌とフォークがフュージョンしたのは小椋佳さんあたりだと思うんです。『シクラメンのかほり』(’75年)を布施明さんが歌ったことが転換点だと思っています。その後、アリス、ビリー・バンバンもディープな曲を発表しています。

野宮 その後、ニューミュージックも登場しました。山下達郎さん、荒井由実さん、大瀧詠一さんなどが注目されたのもこの頃。それが渋谷系のルーツです。

――冬の音楽といえば?

小野瀬 大瀧詠一さんの『さらばシベリア鉄道』(’80年)、『冬のリヴィエラ』(’82年)などもありますが、やはり、フォークですね。深夜に受験勉強しながら、南こうせつさんのラジオ番組を聴いていました。寒くて暗かった。

野宮 渋谷系の冬は明るいですよ。’17年に、冬の音楽をまとめた『野宮真貴、ホリデイ渋谷系を歌う。』というアルバムも出しました。『Winter's Tale 〜冬物語〜』や横山剣さんとの『おもて寒いよね』も収録しています。

小野瀬 都会の冬はクリスマスもあるし、キラキラしていて楽しい。特に渋谷の冬はワクワクします。

野宮 冬の曲と言えば、トワ・エ・モアの『虹と雪のバラード』(’72年)。村井邦彦さんの名曲で、札幌オリンピックのテーマソングでした。当時、私は札幌に住んでいたのですが、街中でこの曲がかかっていたことを思い出します。

――ところで今、スナックがブームですが、カラオケではどんな曲を歌いますか?

野宮 う〜ん、職業にしているんで……とはいえ、歌っちゃうんですけれど(笑)。皆さんに喜んでいただける、(松田)聖子ちゃんの曲を歌うことが多いです。

小野瀬 私は『また逢う日まで』や、ちあきなおみさんの『喝采』(’72年)など。あとテレビドラマ『木枯し紋次郎』のテーマソング『だれかが風の中で』(’72年)です。

野宮 そのあたり、私もドストライクです。

小野瀬 一緒に歌える人が多いから盛り上がりますよね。皆がテレビで同じ曲を聴くという時代だったから、知っているんです。

野宮 お茶の間で知らず知らずのうちに、時代を超えるいい曲が聴けた。そんな時代に生まれて幸せだったと思います。

小野瀬 名曲が超えるのは、時代だけでなく元歌もなんです。『また逢う日まで』って、元はズー・ニー・ヴーが歌っていたって知っていました?

野宮 知らない!

小野瀬 全然売れず、阿久悠さんが歌詞とタイトルを変えたら、大ヒット。

野宮 そういう曲は意外と多いですよね。歌手が替わると雰囲気が変わります。渋谷系にもそういう曲は多数あり、いい曲は今もスタンダードナンバーになっている。私はそんな曲を歌い続けています。

小野瀬 盛り上がったところで、今からスナック行きますか。

野宮 いいですね。歌いましょう。

この記事の執筆者
TEXT :
MEN'S Precious編集部 
BY :
MEN'S Precious2019年秋号より
名品の魅力を伝える「モノ語りマガジン」を手がける編集者集団です。メンズ・ラグジュアリーのモノ・コト・知識情報、服装のHow toや選ぶべきクルマ、味わうべき美食などの情報を提供します。
Faceboook へのリンク
Twitter へのリンク
クレジット :
取材・文/前川亜紀 撮影/フカヤマノリユキ 撮影協力/牛太郎