ヘレン・ミレン、73歳。アカデミー賞授賞式でみせた圧巻のピンクドレス
好評連載「官能コスメ」の第20回は、2019年アカデミー賞授賞式にてピンクのドレスが印象的だった、ヘレン・ミレンに注目。 女性の官能とその本質について、美容ジャーナリストの齋藤 薫さんが読み解きます。
ほんの10年前まで、ハリウッド女優の多くは40代も半ばになると「そろそろ潮時かも」と引退を考えた。これからは主役を張ることもないだろうし、あっても性格俳優として、きわどい女の役を演じる道しか残されていないからと。
でも長年続いた「ハリウッド女優40代定年説」は、女の年齢観の劇的変化と、それを下支えする美容医療の進化によって、既に完全に覆されている。
その壁を乗り越えて、50代で主役を張っている女優は枚挙にいとまがない。ニコール・キッドマン、ジュリア・ロバーツ、ジュリアン・ムーア……もちろん、ずっと出ずっぱりのメリル・ストリープも忘れてはいけないけれど、こうした人たちとはまた別のレジェンドがいる。
それがこの人、ヘレン・ミレン、73歳である。結論から言うなら、30代、40代、50代のころよりも、70代の今現在のほうがずっと美しい。ひょっとすると生涯で今が1番美しいくらい。完全なる、大逆転なのである。
今年2月終わりに行われたアカデミー賞の授賞式、レッドカーペットを賑わせた百戦錬磨の女優たちのなかでも、ひときわの艶やかさで注目を浴びたのが、このヘレン・ミレンであったのだ。
目の覚めるようなフューシャピンクの羽衣の如きドレスは、スキャパレリのもの。この年齢にして、ここまでのピンク、しかもここまでふわふわしたスウィートなドレスを選ぶこと自体あっぱれだけれど、何よりすごいのは、揶揄する声が全くなかったこと。
こうした挑戦に対しては、ベストドレッサーに選ぶメディアや評論家もいる一方、同じくらいワーストドレッサーに選ぶ声も聞こえてきてしまいがち。73歳のフューシャピンクという、その選択肢だけを捉えれば、賛否両論あって当然だった。なのにこの人に対しては、ネガティブな意見が一切なかったのだ。それは全く特別なこと。
ましてや今年はピンクがトレンドとあって、レッドカーペットでもピンクのドレスがやたらに目立ち、若い女優もこぞってピンクを着ていたし、ジュリア・ロバーツなども艶やかなピンクを着たが、ピンクが最も似合っていたのは紛れもなくヘレン・ミレンだった。
プラチナホワイトの髪がドレスに見事に映え、ドレスと同じフューシャピンクの口紅が恐ろしく似合っていた。そこに、女性の目覚ましい進化と、明らかな時代の変化を感じて、ちょっと身震いしたほど。
言うまでもなく、持ち前のセンスと、度胸の勝利。いやそれ以上に、ヘレン・ミレンという人の人間力のなせる技なのかもしれない。
なぜならこの人は、遅咲きも遅咲き。テレビなどでは活躍していたが、映画界で世界的に名前を知られるようになるのは50代である。それからの活躍は、まさに飛ぶ鳥を落とす勢い。
16世紀を生きたエリザベス1世(こちらはテレビシリーズ)、2006年の映画『クイーン』では今も健在のエリザベス2世、両方を演じてハリウッドのトップ女優に躍り出るという快進撃を見せるのだ。
だから、たまたま遅咲きだったのではない。むしろこの人は年齢を重ね、キャリアを重ねてから、満を持して確信を持って、世に打って出たのである。そして60代にして大成功を収める。
そうした実績と自信が、この人をどんどん美しくしたのだろう。70代の今、実際のところ60代のころよりもずっとずっと美しい。どこかを直したというのではなくて本当に。『VOGUE』でも、タトゥーのある男の腕に抱かれて、表紙を飾ったばかり。まさに今が女の盛りなのだ。
女性たちが年齢を乗り越えている事はもう言うまでもないこと。信じられないほど若々しい高年齢層が劇的に増えたことも、ゆるぎない現実。
それでも、このヘレン・ミレンの存在は別格である。かつてないほど美しい「70代美人」が現れた事実を、またフューシャピンクのふんわりドレスがとてつもなくよく似合ってしまう「70代ファッショニスタ」が現れたことを、どうしても皆で共有したくなったのだ。
たったひとりの存在が、時代の価値観を大きく変えていくことも平気にあるはずで、ヘレン・ミレンはまさにそのひとりになりつつあるのだ。70代で美しさの頂点を迎えた人を今、心から尊敬したい。
いくつになろうと、ピンクを身につけ続ける女でありたい!【ディオール】
ピンクが好き……これは年齢を超えた女の本能。であるならば、いくつになっても身に付け続けるべき。
しかも実は、いくつになってもピンクは似合う。70代になろうが80代になろうが、ピンクはやっぱり肌に最も映える色。かわいい色だからではなく、自分を生き生き見せてくれる色として、むしろ年齢を重ねるほどに、意識してピンクを上手に取り入れるべきなのだ。
特に口紅のピンクは、肌に自信がなくなってきたあたりから本領発揮。透明度も高く、艶やか、なおかつ唇を染め抜くような血色ピンクのディオール口紅は、一生のマストとして常備したい。
ピンクには、グリーンが映えると覚えておいて【アンプリチュード】
今シーズンはともかくピンクがトレンド。ドレスはもちろん、メイクカラーにも。口紅はもちろん、アイシャドウにも、美しい澄んだピンクが目立っている。目元にピンクを置くと、とても華やいだ印象になるけれど、メイクの方法によっては幼く見える可能性も。
そのときに功を奏するのがグリーンとの組み合わせ。同じく流行のグリーンとのコンビネーションでスタイリッシュなクールなピンクメイクが成立するはず。話題の新ブランド、アンプリチュードで、そのセットを見つけた。
フューシャピンクは大人にこそ似合う色【イヴ・サンローラン ボーテ】
'70年代、'80年代に一世を風靡したのが、フューシャピンクと呼ばれるヴィヴィットなピンク。その象徴となったのがイブ・サンローランの伝説の口紅、19番のフューシャピンクだった。みんなこぞってこの口紅を塗ったもの。
でも今その時代を振り返ってみると、ちょっと背伸びの色、むしろ大人にこそ似合う色だということが、今回のヘレン・ミレンのフューシャピンクに明らかになった。なぜなら、目が覚めるように人なのに、さまざまなピンクのなかでもとりわけゴージャスな華やかさを持ったピンク、重厚感や品格を持ったピンク。それがフューシャ。
だからぜひ、今こそトライしてみてほしい。
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- TEXT :
- 齋藤 薫さん 美容ジャーナリスト
- PHOTO :
- 戸田嘉昭、池田 敦(パイルドライバー)、Getty Images
- EDIT :
- 渋谷香菜子