使い慣れた文具は自然に手に馴染み、常にフラットな気分で仕事と向き合うことができる。指先の手触り、重さやにおいを敏感に感じとるうちに頭は鮮明に研ぎ澄まされ、新たなアイディアがおのずと生み出される。新しい機能や使い切りの便利なアイテムが多い文具の世界だが、長く愛せる普遍的なものを書斎や机上に置くことで、自分の意志や確固たる信念のようなものを大事にしていきたい。フリーランスとして独立したばかりの頃にそう思った。
ステンレスや真鍮といったメタル系の文具は落としても割れることはなく、壊れる心配もない。独特のツヤと光沢、丁寧に削り出され研磨の行き届いたマットな風合い。何よりも手にしたときのずっしりとした重みは、気持ちを奮い立たせてくれる。ギミックむき出しのインダストリアルな存在感など、「俺は曲がったことが嫌いだ」と教えてくれる頑固な師匠のようだ。なかでも取材やスケッチで愛用する鉛筆を削る作業は、儀式に近い。ハンドルを回すとコリコリと音を立て削れる鉛筆。その心地よい音と振動は手から腕に伝わり、体の芯にまでゆっくりと届く。「果たしてよい取材になるだろうか?」「スケッチに相応しい場所は見つかるだろうか?」。期待に胸を膨らませながら削っていくと、やがて無の境地へ辿りつく。カランダッシュの鉛筆削りが電動であってはならない理由が、そこにある。
繊細なエッチングや数字の配列が美しいトム・ディクソンの定規。表面に伝統技法「黒ムラ」を用いたフタガミの真鍮トレイ。シンプルで武骨なマックスのホッチキスは、発売から54年を経た今も変わらない。ステンレススチール製の鉛筆削りを探すのは、もはや難しい時代。仕事ができるタフな文具に囲まれていると、集中力と気分は文句ナシに向上し、効率は格段にアップするのだ。
いかがだろうか、書斎で本当に役に立ち、しかもいぶし銀のような存在感を放つ。モノに対する「異常」なまでの愛情は、ジェントルマンのモノに対するこだわりと同義だ。紹介した、オールドスタイルのステーショナリーに囲まれた、男だけがわかる、こだわりの書斎を作ってみては?
※価格はすべて税抜です。※価格は2016年春号掲載時の情報です。
- TEXT :
- 小池高弘 イラストレーター・ライター
- BY :
- MEN'S Precious 2016年春号 静謐なる「書斎の名品」より
公式サイト:Table Talk
- クレジット :
- 撮影/戸田嘉昭、唐澤光也(パイルドライバー)スタイリスト/石川英治(tablerockstudio)文/小池高弘