御用達とは、宮中あるいは公権力に物品などを納めることである。ロイヤルファミリーに物品やサービスを提供する王室御用達業者と認定されると、通常、ロイヤルワラント(王室御用達認定証)を与えられ、王家、あるいは王室メンバーの紋章を冠した御用達紋を、看板やパッケージなどに表示することができる。
日本の象徴、宮内庁御用達
現在、王室をもつほとんどの国々にこの制度があり、ヨーロッパではイギリスを筆頭に、ベルギー、オランダ、スウェーデン、スペイン、デンマーク、ノルウェー。中東・アジアではタイ、ヨルダン、ネパールなど。また公国ではモナコ。制度の詳細は国によって異なるようだが、許可されると御用達業者であることを名乗ることができるという点では、ほぼ一致している。
興味深いのは、すでに王室がなくなってしまったフランス、イタリア、オーストリア=ハンガリー、ロシア、ルーマニア、ポルトガルなどでも、「王室御用達」(だったこと)をうたう業者や製品が今なお存在すること。「王室御用達」が、いかに高い宣伝効果を発揮するかという証である。本物のセレブリティーたるロイヤルファミリーのお墨付きを得ることは、製品の品質を保証し、業者の信用を高めることにつながるのである。
ちなみに日本では、宮内庁御用達制度が1891年(明治24年)に誕生していたが、第二次世界大戦後、制度は廃止された。だが、今なお「宮内庁御用達」と書かれた看板を目にする。制度の名残りとして黙認されている表示だそうである。それを掲げてしまうココロは、いまだに「旧フランス王国御用達」を名乗り続けるココロと、あまり変わらない。
王室御用達制度をもっとも早くとりいれた国であり、御用達業者の数が圧倒的に多いのは、イギリスである。1155年、ヘンリー2世によって、同業者組合に対してロイヤルチャーター(国王勅許状)が与えられたのが最古の記録として残る。19世紀にはヴィクトリア女王が2000のロイヤルワラントを認定したこともあったが、現在のウィンザー家は800を超えるワラントを出している。
イギリスが飛躍的な経済発展を果たしたヴィクトリア女王時代に2000という膨大な数のワラントが認定されたことからもわかるように、ロイヤルワラントは、自国の産業の奨励、伝統技術の継承と結びついている。たとえば日本においても、宮内庁御用達の制度が誕生したときの背景には、富国強兵政策の一環としての、商工業技術の奨励という目的があった。鮫島敦著『これが宮内庁御用達だ こだわりの名品50』によれば、「生活の洋風化に合わせ需要が高まってきた洋服や靴などの技術養成を図るとともに、日本の伝統文化や技術の水準を維持するという狙いがあった」という。
ターンブル&アッサーにはチャールズ皇太子!
さて現在、私たちの周りをとりまくモノの世界は、混迷している。早く安くつくられてすぐに廃棄されるモノたちが氾濫し、すっかり大衆化した高級ブランドからは、かつてまばゆく見えた幻想もはぎとられてしまった。多くの企業が、いったん混乱を整理して原点に立ち返ろうという動きを見せる中、インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙が昨年秋、恒例の「ラグジュアリー会議」をおこなう。選ばれたテーマは、「ヘリテイジ・ラグジュアリー」であった。遺産、と訳されることもあるが、ヘリテイジは、もっと深いニュアンスを含む。
修練の賜物であり、代々にわたって受け継がれてきた、アルチザン(熟練職人)の技。各時代、各時代の精神が凝縮された、豊かな遺産としてのアーカイブ。物語を秘める伝統、すなわちヒストリー(歴史)。ヘリテイジとは、そのように継承されてきたものすべてである。ほかならぬこのヘリテイジという要素が、現在のラグジュアリーを語るときに欠かせないテーマになっているのである。
ここでお気づきであろう。アルチザンの技、アーカイブ、ヒストリー、そのすべてを明快すぎるほど明快にもつ象徴的存在、それがほかならぬ王室御用達ブランドであることに。ヘリテイジに加えて王家のプレステージ(威信)まで兼ね備える、究極にしてきわめて今日的なラグジュアリー。それこそが王室御用達名品なのである。
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2011年春号より
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- WRITING :
- 中野香織