NHKがネットでも視聴できるよう法改正が行われた。

遅いといえば遅いが、やらないほうがもっと悪い。なにせ、若い層を中心にテレビそのものを持っていないというひとも少なくないからね。災害情報などを伝える重要な義務をネットなしで果たすのはムリだもの。

世はストリーミング&サブスクリプション時代!

AXNミステリーで今冬放送予定 ©️Greenlit Productions

ぼくもNetflix、Amazon Primeで映画を、DAZN(ダゾーン)で海外サッカーとJリーグを観だしたら、ほんとうにテレビを観る時間が減ってしまった。

テレビのモニターはもちろん、ノート、タブレット、スマホでいつでもどこでも視聴できる便利さ。家にこもっちゃう連中がいるのも理解できなくないところがオソロシイ。

一応NHKの海外ドキュメンタリーなどをHD録画するのだが、再生して観る時間がない(笑)。これはみなさんもそうじゃない?

しかし、つい先日NHKのBSで最終回を放送した英国ITV製作の『刑事フォイル』、これだけはなにがなんでも観ましたね(と過去形で書いたが、もちろん現在でもAmazonなどで視聴可能)。

刑事ものはなんといってもテレビドラマの王様ジャンルである。

普通その主人公は、現代の刑事である。設定を現代にすれば、ひとびとの関心が高い事件や社会事象を絡めた脚本が書けるからである。あるいはシャーロック・ホームズのような、時代を越えてなお魅力ある刑事ミステリーの定番、まあこの2種に集約される。

ところがこのフォイルは、第2次大戦中の英国が舞台。50年以上刑事ものの映画、テレビドラマを観てきたがこいつは初めてだったね。

戦争まっただなかだから、食料品やガソリンなどの物資は不自由。それでもフォイルが警視正として勤めるイギリス海峡ぞいの街ヘイスティング(『さらば青春の光』の舞台ブライトンの近くだ)は、田舎町だけあって、ぼくが話に聞く日本の戦争中に比べ、驚くほどのんびりしている。普通の生活をおくっているのだ。そこらへんが当時すでにアメリカにその立場を奪われていたとはいえ「陽の沈まぬ国」の底力を感じるのである。

さて、クリストファー・フォイル刑事(マイケル・キッチン)。

写真:TopFoto/アフロ 1940年代のロンドンの様子

田舎警察の刑事だからといって甘くみちゃいけない。フォイルは抜群の観察力と推理力の持ち主。だがね、それだけなら、刑事ドラマなんだから当たり前である(笑)。

フォイルの魅力は、ブレないってことですかね。それはね、英国人らしさ、ジョンブル精神と言い換えてもいいかもしれない。こいつにブレまくり人生だったぼくなんかグッときてしまうわけなんです。

知ってのように、戦争中はすべてにおいて国家が優先されます。

殺人事件が起きたとして、その犯人がドイツとの戦いに欠かせない「人材」だったらどうする? ひとりの命か、国家の命運か?

フォイルが最終的に直面するのはいつもこの哲学的な課題なのだ。

たとえ戦争中であろうと犯罪を見逃がすわけにはいかない──フォイルのこの断固たる信念は、軍や外務省、情報局などとたびたび摩擦を引き起こす。

ここに原タイトルが“Foyle’s War”(フォイルの戦争)である理由があるわけですよ。

もう歳も歳だから、フォイルはドイツとの戦場にはかりだされません。しかし、戦争の陰に隠れた犯罪者との戦い、ともすれば犯罪すら容認してしまうような国や権力との戦いがある。大声をあげるわけでもなく、銃をうちまくるわけでもなく、洞察力と分析力を武器にフォイルは立ち向かう。

その力量があまりに見事なもので、最終の第8シーズンでは、戦争も終わり、警察を辞めたフォイル、なんとMI5の防諜要員として活躍することになる。

物語的にはちょっと飛躍かもしれないけれど、なにしろシリーズ全編担当したアンソニー・ホロヴィッツの脚本が良いものだから、ほんとうに目が離せないスパイものに仕上がっています。冷戦下の英国が東側、さらに自国の暗い過去とどう向き合ってきたかがイアン・フレミングよりはるかにリアルに伝わってくる。

最終回の終わり方なんて、想像外の衝撃度でしたねえ。

1940年代の英国人の服装も100%忠実に再現されていて、これも見事でした。

同時期のアメリカでも盛んに着られていましたが、ロングポイントのソフトカラーシャツ(着脱式の襟=ハードカラーに代わって普及した、襟が縫い付けられたシャツ)のオンパレード。英国調といえばカッタウェイと信じて疑わない英国調ファンは、かなりびっくりされることでしょう!

この記事の執筆者
『MEN'S CLUB』『Gentry』『DORSO』など、数々のファッション誌の編集長を歴任し、フリーの服飾評論家に。ダンディズムを地で行くセンスと、博覧強記ぶりは業界でも随一。