メンズプレシャス本誌よりもっともっと気軽に書いてよろしいとのご依頼だったので、映画ブログをヨロコンデお引き受けすることにしました。
 メンプレは創刊号から執筆していますが、写真にしろ、文章にしろ、日本一の正統派、本格派メンズマガジンですから、格調高く、テーマに沿ってきちっと書かなきゃ編集のひとがOKしてくれないのです(笑)。
 たとえばこのように「メンプレ」なんて略しただけで担当編集のかたは顔が曇っちゃう。それからだねえ、「(笑)」なんて文末につけても喜ばれない。ぼくの持ち味のひとつは、けっこうカジュアルな語り口にあるのに(泣)。
 ですから「そんなに口ウルサク申しませんので、フェイスブックなどでお見受けする林さんの普段の調子で......」というK編集長代理からお言葉はうれしかったなあ。おおいに気軽に、アチコチ脱線しながら、いやむしろ脱線中心で、映画(テレビなど映像作品、いわゆる「ムービーもの」全般ですが)について話していきましょうか。
 映画については、メンプレ本誌に、それはもうぼくはたくさん書いております。創刊時の「伊達男」というコンセプトのもと、ケーリー・グラントのスーツが素敵、マルチェロ・マストロヤンニのサングラスがいい、そして、もちろん『カサブランカ』のハンフリー・ボガートのトレンチコート姿をマネしたい等々、映画そのものの話ではなく、過去の名優たちのファッション話ですな。ぼくは服飾評論家ですから(一応)、そういう書き物は得意中の得意ではあるのですが、このブログでは、ファッション一辺倒ではなく、映画のなかの味のあるダイアローグであったり、食べ物や飲み物の話、男性論、女性論も少々開陳したい。それも本誌で主に扱うアーカイブ的名作品ではなく、最新の作品を中心に。 
 では、あまた公開される映画から林は何を選ぶのよ、ということになりますが、ぼくには明快な基準があるのである。それは「オモ・カン・タメ」であります。その映画は「オモシロイか?」「感動するか?」「ためになるか?」ということです。ぼく自身、自腹で映画をみるときはそういう基準で選ぶからです。

 なかでも「オモ」は大事。なんだかんだいっても映画はエンターテインメントですよ。仕事で気をつかい、ヘロヘロになって家に帰り、さあ一杯飲んで、ビデオでもというときに、あなたは哲学的な会話が二時間の続くような恋愛映画を観たい? スカッとするアクションもののほうがいいでしょう? そりゃそうですよ、疲れているのにまた頭なんか使いたくないもの。実は、人間の疲労というのは肉体より頭や神経のほうからくるものだからです。

 しかし「オモ」しか観ないってんじゃあ、大人の男としては、ちょいとさびしいですよ。というか惜しい。「カン」の映画で、人間の愛情や、不屈の精神、自然の素晴らしさに感動するのもたまにはいいもんです。家族や友人とそれを「共有」することは素晴らしいコミュニケーションでもある。そして精神的にも肉体的にも余裕のあるときは「タメ」の映画で学びや気づきを得る。

 この3種類の映画を、そうねえ、年10本観るとして、割合にすれば「オモ」5本、「カン」3本、「タメ」2本ぐらいが、忙しい大人のムービーウオッチャーにはナイスバランスなのではないでしょうか。

 優れた作品、例えば『アラビアのローレンス』とか『ゴッドファーザー』には1本の映画のなかに「オモカンタメ」要素がすべて入っています。当然ながら、そういう作品はアカデミーやゴールデングローブ賞の最有力候補で、めったにはお目にかかれません。3つの要素のうち、2つの要素を備えたものでも上出来としなければいけません。その意味で、いまNetflixで配信中の『ザ・クラウン』なんていうシリーズものは、「オモ」的要素と「タメ」的要素たっぷりで必見。ぼくもこれほど夢中になってみたのは、久しぶり。現エリザベス女王を中心にした第二次大戦後の英王室の物語10エピソード、途中でやめられず、徹夜いたしました。若くもないのに(笑)。

この記事の執筆者
TEXT :
林 信朗 服飾評論家
2017.6.21 更新
『MEN'S CLUB』『Gentry』『DORSO』など、数々のファッション誌の編集長を歴任し、フリーの服飾評論家に。ダンディズムを地で行くセンスと、博覧強記ぶりは業界でも随一。