前回もふれたように、ぼくは欧米のデレブ(Dead Celebrity=あの世にいるセレブのこと)のファッションについて書くことが多いので、まあ『ザ・クラウン』もその研究というか、取材の一環で、実はたいした期待もせずにみたのだけれど、英国王室の服装や日常生活に関する「タメ」の要素が次から次へと出てくるばかりか、エリザベス二世の女王戴冠と結婚の裏表の事情が、ほんと、ここまでムービーで描いていいかしらんというぐらい出てくるからたまりません。「オモ」のほうも10点満点で8ないし9はいく。
ほんとにこれがNETFLIXじゃなく、BBCとかHBO制作で、日本未公開作品だったらDVDをひっそり取り寄せ、原稿のネタにして稼ぐところですよ。「日本未公開作品ではあるが......」などと偉そうな書き出しにして(笑)。
なにしろ、いままでぼくがメンプレ本誌で書いた英王室のヒトビトならびに縁者、関係者が全員登場しちゃうのである。女王、その夫で口の悪いので有名なフィリップ殿下、女王の父であり「英国王のスピーチ」の主人公であるジョージ六世、クイーンマムと呼ばれるお酒好きの皇太后(ジョージ六世の妻)、ジョージ六世の兄貴で、メンプレの表紙にもなった(ヘンな言い方だが)ウインザー公とその妻シンプソン夫人でしょう......そしてぼくの「おはこ」と言ってよいチャールズ皇太子とチャーチルだものね(『メンズクラブ』の編集長時代から数えればチャールズについてもチャーチルについても軽く10回以上書いていると思う)。
海外ドラマ好きのメンプレの読者がこの作品をみて、「なんだ林の書きものなんか、リアリティチェック、超テキトーじゃん!」などとダメだしをされたらたまったものではないので、必死でみたところ、まあ、大丈夫でありました(笑)。
以下いくつか林が受けたところ(←こんな口語表現もメンプレ本誌的、校閲さん的には超NG。ま、ぼくがメンプレの編集長でもダメですがww)を記す。
1)チャーチルがでかい。
チャーチル役のジョン・リスゴー、名優であり、たしかに演技もうまいのですが、なにしろ背が高い。ほんもののチャーチルは167cmですよ。ぼくより小さいのだ。それを193cmのジョン・リスゴー(『リコシェ』でリスゴーが演じたジャックぐらい不死身でおっかない犯罪者はいなかったなあ。この映画も超おすすめですよ!)が演じるのは、当初違和感ありましたねえ。小さくて、デブなところが「不屈のジョンブル」っぽいのだもの。
でも途中ではたと気づきました。これは小さいエリザベスを引き立たせるためのキャスティングではなかったのかと!ドでかいリスゴーが身をかがめて女王の手にキスをするところが、いいわけね。一種の騎士道精神の表れなのかなと。
2)エリザベスの妹、マーガレットがわがまま。
いや、「わがまま」はかわいそうかな、素直、奔放か。恋を貫こうとして、女王エリザベスの足を引っぱりまくる。「王室に生まれたんだからガマンしなきゃしょうがないだろ」とぼくなんか思うが、そこは個人主義の国なんだね、女王の妹であろうと「私」が前にでてきて、やっかいをおかす。S1ではタウンゼント大佐とのロマンスがシャットダウンされるところまでだが、来年にも期待されるS2以降では、お相手にお洒落セレブとして知られる王室カメラマンのスノードン卿が登場するのではないか。事態はもっとスキャンダラス&ファッショナブルになってくる可能性アリ(むろんそのほうがヨロシイ)。
3) ウインザー公&シンプソン夫人がどうしようもない。
20世紀メンズファッションのアイコンのひとりウインザー公。シンプソン夫人と結婚するためほんとうにかの大英帝国の王位を捨ててしまうんだから、すごいっちゃあすごい男ですよ。でもね、考えてみればその行動も思慮が浅く、直情的ですよ。いろいろ調べるとわかることなんですが、ウインザー公、はっきり言ってファッション的アスペクト以外が極めて評判が悪い男なんだよね。
第二次大戦前からヒットラーのシンパであったことは知られていたが、退位してからも我が身大事で暗躍するする。エリザベスの即位やマーガレットの結婚問題でエリザベスにアドバイスするのですが、その代償に年金を上げろとか(笑)、けっこうセコイ話を持ち出すんだからガッカリですよ(セコイといえば、この二人、マスコミの取材でも金を要求していたらしい。そんな逸話もでてきます)。で、その陰にシンプソン夫人ありでしょう。
ともかく王室に関するけっこうダーティな部分を白日にさらしたこんな脚本がよく通ったなとぼくは不思議だったのですが、10話観終わってわかりました。これはね、女王以外のすべての登場人物の陰を描くことによって女王を輝かせるというテなのではないでしょうか?
とまれ世界的に大ヒットしているこのシリーズ、なんと6シーズン、60話制作されるそうで、ぼくの個人としては欣快欣快。メンプレの読者のみなさんの「正月の友」「英国ファッションの動く教科書」としても恰好のムービーシリーズであります。
- TEXT :
- 林 信朗 服飾評論家