音楽はサブスクリプションで、などと喧伝されて久しい昨今だが、その一方でいわゆるレコードの再生など、アナログ・オーディオも盛り上がりを見せている。便利さが際立つゆえに、音楽的&オーディオ的に深掘りしにくくなっている配信ベースの音楽聴取への反動か、はたまた昭和や20世紀への郷愁なのか。もっとも、健康的に貪欲でクレバーな紳士諸兄においては、それら両方を楽しむのがスマートな対応といえそうだ。そこでここでは、いま、より手軽でスタイリッシュに、高品質なアナログ・オーディオを楽しむためのアイテム選びを考えてみた。
アナログの音を活かすオーディオとは
簡単に、高品質なレコード再生を実現するプレーヤー「SL-1500C」
音楽再生のサウンドにある程度敏感な人でも、アナログ(レコード)プレーヤーはずいぶん前に手放したという人も多いのではないだろうか。では、いまどのようなアナログプレーヤーを選んだらいいのか。朝から晩まで自室でどっぷり音楽漬けが可能な独身時代なら、ベルトドライブの高級ターンテーブルを選ぶのもいいかもしれないが、リビングで家族とともに、または書斎の限られたスペースでアナログを楽しむのならば、より手軽でシンプルなアナログプレーヤーが適当だろう。そんなニーズに応えるように、この6月に「Technics(テクニクス)」より「SL-1500C」というモデルが発売される。
ターンテーブルの名機SL-1200シリーズの復活とともに、ピュアオーディオブランドとして息を吹き返した「Technics」。今年は待望のDJユースモデル「SL-1200MK7」も登場しているが、この「SL-1500C」は、コアレス・ダイレクトドライブ・モーターなど新生SL-1200シリーズのテクノロジーを盛り込みつつ、すぐに手持ちのオーディオシステムに接続してアナログ再生ができるようになっている。フォノイコライザー(MM型用)内蔵で、PHONO端子がないアンプにもLINE接続が可能、さらにMM型カートリッジ「ortofon 2M Red」が同梱されているので、別途カートリッジを用意する必要もない。
もちろん、トーンアームは高さ変更や付属ウェイトなどで多様なカートリッジに対応、フォノイコライザーアンプをオフにすれば、PHONO端子での接続も可能と、ハイファイ・オーディオとしての拡張性も十分だ。ターンテーブルプラッター側面のストロボパターンがないのが、SL-1200シリーズとの外見上の大きな差だが、かえってミニマルな印象があり、モダンなインテリアとの相性はいいかもしれない。オートリフトアップ機能があるのもうれしいところ。アナログビギナーや、久々にアナログに触れる人に優しいプレーヤーともいえる。
「Neo Classico Ⅱ」、真空管のサウンドを、よりスタイリッシュに
オーディオに少しでも親しんだ人ならば、アナログ・オーディオの選択肢のひとつとして、真空管を使ったアンプを挙げる向きもあるだろう。トランジスタを使ったソリッドステートのアンプよりも温かみあるサウンドを生むといわれる真空管。ノイズの多さや再生帯域の狭さなど、物理的な特性としては半導体やIC等にくらべ劣るといわれるが、それを超越する「音楽表現力」が語られることも多い。その点はCDや配信などのデジタル音源よりはるかに情報量が少ないアナログ(レコード)のサウンドを愛好する行為とも通底している。
従来はハイエンドまたは好事家のものとされてきた真空管アンプだが、より手軽に、その特徴を楽しめるものもいくつか発表されている。中でも、日本における真空管アンプづくりを牽引してきた「LUXMAN(ラックスマン)」から昨年発表された「Neo Classico Ⅱ」のプリメインアンプ「SQ-N150」は、A4サイズというコンパクトさとスタイリッシュな外観で、オーディオマニアならずとも心惹かれるアイテムだ。
真空管を使ったコンパクトオーディオシステムとして2007年に発表された「Neo Classico」の現代版である「Neo Classico Ⅱ」。以前の「Neo Classico」にはアンプとCDプレーヤー、そしてスピーカーがラインナップされていたが、今回「Neo Classico Ⅱ」はアンプとCDプレーヤーのみとなっている。
ラックスマンに問い合わせしたところ、「先代では出力12Wのアンプと能率の悪いスピーカーとの組み合わせから生じるパワー不足感を危惧して90dBという高能率のスピーカーを用意していましたが、実際には多彩なスピーカーをドライブできていたことから、今回は開発当初からスピーカーは計画されていませんでした」とのこと。
さらに「Neo Classico Ⅱ」のデジタルプレーヤーD-N150には、ディスク(CD)ドライブの他にUSB入力端子を設け、PCなどをUSB接続することで、ハイレゾなどのデジタル高音質音源にも対応している。
プリメインアンプ「SQ-N150」は、5極管EL84のプッシュプル構成で、10W+10Wの出力を確保。アナログメーターを新設して、真空管の明かりとともに、視覚的な楽しさも生み出している。PHONO端子ももちろん装備。この「SQ-N150」と「D-N150」の組み合わせに、ラックスマンで輸入しているフランス「FOCAL」のスピーカーというシステムを試聴してみたが、そのサウンドは真空管のウォームトーンというよりは、十分な音域レンジの中に、ヴォーカルやピアノの艶が際立つという印象だった。真空管の特性を活かしつつ、現代の幅広い音楽や音源に対応したアンプといえるだろう。
アナログ・オーディオに好相性? 復刻したスピーカー「L100 Classic」
レコードやテープからCD、そしてハイレゾと、音源が変遷してきた中で、その基本構造が大きく変化していないオーディオ・プロダクトがスピーカーといえる。
よりワイドレンジな再生帯域になったり、低域を別途再生したり、または複数チャンネルのサウンドなど新たな試みもなくはないが、相変わらず左右2チャンネルで、エンクロージャー(筐体)にマウントされた低音域や中高音域のダイナミック型スピーカーユニットを駆動させる形が主流である。
ゆえに多くのスピーカーは基本的にアナログ・オーディオ向きともいえるが、中でもより「似合う」と感じられるのは、昨年発表されたJBLのブックシェルフスピーカー、「L-100 Classic」あたりではないだろうか。
アメリカの「JBL」といえば43で始まる4ケタ品番のスタジオ等での使用を想定したプロフェッショナルシリーズや、最近ではPC等と接続するスマートスピーカーなどが知られるところだが、ホームオーディオも古くから展開していて、「パラゴン」や「ハーツフィールド」といった大型フロアスピーカーはオーディオ史上伝説的な存在となっている。
その一方でブックシェルフや中型スピーカーも数多くの往年の名機があり、「L100 Century」といえば、プロユースのコントロールモニター「4310」を民生用にリデザインしたスピーカーとして、さらにそれ以前に展開されていた「ランサー」シリーズの後継として、いまなお多くのオーディオファイルの記憶に残るモデルである。そして昨年11月、その「L100」が「L100 Classic」として復活した。
フロントグリルにはL100シリーズの特徴であるクアドレックス・フォームを3色展開で使い、レイト・ミッドセンチュリー的な外見を継承している。一方ユニット構成は、低域には最新スタジオモニター「4312G」と同様に、「Project K2 S5800」のために開発され、スタジオモニター「4428」「4429」そして「4312SE」にも用いられた JBL 史上最強の12 インチ(300mm)ユニット 1200FE 系ユニットをベースに、小音量から大音量まで更なる低歪化を実現したJW300PW-8を採用。
またミッドレンジは「L100」や「4311」にも使われていたLE5系ユニットを継承するユニット105H-1、高域には1980年代中盤以降多くのJBLスピーカーの高音域再生を担ってきたピュアチタン・ドームツィーターの最新ヴァージョンJT-025Ti-1と、JBL本来の明朗なサウンドをベースに、よりワイドレンジで幅広い音源に対応している。
この「L100 Classic」、カテゴリーとしてはブックシェルフ型だが、サイズは390×637×372mmとやや大きめの印象。そこでフロアでのセッティングも鑑みて、別売りの専用スタンドも発売されている。ツィーターの指向性軸を考慮した仰角をつけた形状で、高いデザイン性と音像・音場再現性を両立させている。
ここまで、初めて、または久々にアナログ・オーディオに関心を持った方に向け、比較的手を伸ばしやすいと思われるアイテムを紹介してきた。オーディオの価値とは所有の喜びもさることながら、日々それを使って音楽を聴き、その時間を楽しむことにある。ライフスタイルにおける豊かさのひとつとして、いま一度生活の中における音楽鑑賞のあり方、そのクオリティについて、考えてみるのはいかがだろうか。
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- TEXT :
- 菅原幸裕 編集者