本格的な腕時計を発表してから30年。「時間」に、「時計」に、新たな解釈を加え、人々を魅惑し続けるシャネルの魔法とは!?

創業者:ガブリエル シャネル
創業地:フランス パリ
創業年:1910年

パリのカンボン通り21番地に、帽子店「シャネル モード」をオープンしたのは、シャネル27歳のときだった。
パリのカンボン通り21番地に、帽子店「シャネル モード」をオープンしたのは、シャネル27歳のときだった。

不朽のエレガンスを築き上げたガブリエル シャネル

ガブリエル シャネル、通称・ココ シャネル――ラグジュアリーメゾンは数多あれど、その創業者、そしてデザイナーの名前がここまで広く知られているブランドはないでしょう。
伝説は、1910年、帽子店をオープンしたパリのカンボン通りから始まりました。シンプルでエレガントなスタイルはたちまちセンセーションを巻き起こし、ドーヴィルやビアリッツといったリゾート地に続々とブティックを出店。1921年にはカンボン通り31番地にもクチュールハウスをオープンさせました。
その才能はモードだけにはとどまらず、同年に初めての香水、『CHANEL N°5』を、続いて1924年にはメークアップコレクションを発表。ガブリエル シャネルが関わるものはすべて大成功を収め、トータルラグジュアリーメゾンとしての礎と絶対的な名声を築きあげたのです。
同時に、それまで「伝統的な紳士服の生地」だったツイードを女性用のスーツに取り入れたり、大胆なまでにシンプルを極めた「リトル ブラック ドレス」を発表するなど、自由な発想でその才能を発揮。モード界に数々の革命をもたらし、既成概念や常識といった鎖から女性を解き放ちました。

1987年、シャネル初の本格腕時計『プルミエール』誕生

ガブリエル シャネルの没後も彼女が築き上げたエレガンスは受け継がれ、1983年、アーティスティック ディレクターに就任した天才デザイナー、カール・ラガーフェルドによって、シャネルはさらなる隆盛期を迎えます。そんな華やいだムードのなか、1987年に初めての本格腕時計が発表されました。
『プルミエール』――フランス語で「最初の」、ひいては、時間、空間、ランクにおいて「第一の」、「トップに位置するもの」を意味するこの時計は、それまでモード界でも数々のセンセーションを巻き起こしたように、ウォッチ&ジュエリー界にも大きな衝撃をもたらしました。
20世紀も末というのに、ある意味「道具」であったメンズウォッチの、サイズを小さくしただけのレディスウォッチが多かった当時。しかしシャネルは、最初から「女性のための」腕時計を創造したのです。
インデックスさえ省き、シンプルさを極めたダイヤルや、チェーンブレスレット…。『プルミエール』は、女心を酔わす媚薬のような色香を表現した、初めての腕時計といっていいでしょう。

香水『CHANEL N°5』のボトルストッパー、そしてヴァンドーム広場の八角形を表現したケース。ブランドの偉大なアイコンのひとつ、チェーンをブレスレットに用いることによって、本格腕時計にファッションアイテムとしての洗練を与えた。
香水『CHANEL N°5』のボトルストッパー、そしてヴァンドーム広場の八角形を表現したケース。ブランドの偉大なアイコンのひとつ、チェーンをブレスレットに用いることによって、本格腕時計にファッションアイテムとしての洗練を与えた。
1989年、『プルミエール』のファーストモデルを着用したキャロル ブーケの広告が一世を風靡。
1989年、『プルミエール』のファーストモデルを着用したキャロル ブーケの広告が一世を風靡。

2000年、セラミックブームに火をつけた『J12』という衝撃

「シャネルがもの凄い時計をつくった!」
2000年、各ブランドが新作を発表する世界最大の時計の祭典バーゼルワールドの会場に、文字通り大きな衝撃が走りました。
それまでラグジュアリーウォッチの素材としては「想定外」だったブラック ハイテク セラミックを、ケースとブレスレットに用いた『J12』。その大胆な発想と、スポーティでいながらエレガンスもあわせもつデザインが融合した前代未聞のタイムピースは、後に「セラミック」という素材、そして「ブラック」という色で、時計界に一大ブームを巻き起こしました。

そして3年後、シャネルは再び時計界を震撼させます。
それはホワイトの『J12』。ピュアで高級感のあるホワイト ハイテク セラミックをまとったこの時計はブラックと同様、その後の「ホワイト」ブームに火をつけました。

 

腕時計の素材として遜色のない硬度や耐久性を実現するために開発されたブラック ハイテク セラミック。セラミックの適度な重さや、自然に体温になじむ素材感が心地よさももたらす。
腕時計の素材として遜色のない硬度や耐久性を実現するために開発されたブラック ハイテク セラミック。セラミックの適度な重さや、自然に体温になじむ素材感が心地よさももたらす。

そうしてシャネルを代表するウォッチコレクションとなった『J12』。2016年にはより小ぶりでフェミニンな19㎜径の『J12-XS』を、また今年の話題作『マドモアゼル J12』のような限定モデルや、ハイジュエリーウォッチなどのスペシャルエディションなど、バリエーションを広げながら進化を続けています。

 

2005年、初めてのトゥールビヨンから複雑機械式時計の世界へ

『J12』の大成功によって、時計界においても確固たる地位を築き上げたシャネルですが、その歩みを瞬時も止めませんでした。次の目的は、複雑機械式時計の世界への挑戦。
まずは2005年に『J12 トゥールビヨン』を発表し、複雑機構とデザインを完璧に調和させるシャネルのコンプリケーションウォッチへのスタンスを明確に示しました。
シャネルでは常に、クリエイション スタジオの構想・デザインに従って、時計技術者が設計・開発をします。「技術的障壁に直面しても、美しさに妥協をすることは絶対にない」と言い切る矜持は常に守り続けられ、2012年に発表された『プルミエール フライング トゥールビヨン』で大きく開花しました。
カメリアの花やコメット(彗星)をダイヤモンドで彩ったトゥールビヨンは、コンプリケーションウォッチの世界へと女性たちを誘惑。同時に、ムーブメントを自社一貫製造するマニュファクチュールへと飛躍する未来を暗示しました。

カメリアの花をトゥールビヨンの機械部分(キャリッジ)で表現した、女性のためのコンプリケーションウォッチ。シャネルならではの機械式時計のアプローチによって、時計界の権威である「ジュネーブ ウォッチ グランプリ」のレディスウォッチ部門で初のグランプリを受賞。
カメリアの花をトゥールビヨンの機械部分(キャリッジ)で表現した、女性のためのコンプリケーションウォッチ。シャネルならではの機械式時計のアプローチによって、時計界の権威である「ジュネーブ ウォッチ グランプリ」のレディスウォッチ部門で初のグランプリを受賞。

2015年、新たなアイコンウォッチ『ボーイフレンド』がデビュー

『プルミエール』、『J12』、そしてコンプリケーションウォッチやハイジュエリーウォッチと、めくるめくウォッチクリエーションを展開してきたシャネルに、まったく新しいコレクションとしては久しぶりとなる『ボーイフレンド』が登場したのが2015年。翌年にはメゾンを代表する素材、ツイードをメタルストラップで表現した『ボーイフレンド ツイード』が加わり、ブランドを代表するアイコンウォッチとして、早くも不動の人気を確立しました。
さらに今年は、ツイードのメタルストラップにブラックのコーティングを施したモデルや、ベージュゴールドを用いた新作を発表。魅力的に広がっていくその世界観は、モード界、ラグジュアリーウォッチ界から熱い視線を集めています。

男性的なものを通じて女性の魅力を引き出すスタイルを次々と生み出したマドモアゼル シャネルのフィロソフィを、腕時計に映した『ボーイフレンド』。
男性的なものを通じて女性の魅力を引き出すスタイルを次々と生み出したマドモアゼル シャネルのフィロソフィを、腕時計に映した『ボーイフレンド』。

2017年、女性のための美しき機械式時計
『プルミエール カメリア コレクション スケルトン』が登場。

2016年、とうとう初の自社製ムーブメント『CHANEL キャリバー 1. ジャンピングアワー』を搭載したメンズウォッチ『ムッシュー ドゥ シャネル』を発表。この時計によって「マニュファクチュール」という肩書を得たと同時に、その完成度の高さと洒脱なデザインに、男性ウォッチマニアからも高い評価を得ました。
そして今年、早くもふたつ目となる自社製ムーブメントを発表。そのムーブメントを搭載したのは、なんと女性のための機械式時計『プルミエール カメリア コレクション スケルトン』でした。本来は無機質なムーブメントの部品さえ、卓越した創造性と技術力によって、美しいカメリアの花へと昇華。
時計部門30周年を祝うとともに、ラグジュアリーウォッチ界に数々の金字塔を打ち立ててきた“シャネル”の、褪せない情熱と革新性を深く印象づけました。

カメリアの花をモチーフにした立体的なスケルトンのムーブメントが、ケースの中に浮かぶように輝く。花びらを描く円形ブリッジのほか、時のリズムを刻む歯車さえも、カメリアの花の一部として、気高くデザインの中に溶け込んで。
カメリアの花をモチーフにした立体的なスケルトンのムーブメントが、ケースの中に浮かぶように輝く。花びらを描く円形ブリッジのほか、時のリズムを刻む歯車さえも、カメリアの花の一部として、気高くデザインの中に溶け込んで。

伝統的に、生粋のマニュファクチュールやジュエラー至上主義だったかつてのウォッチ&ジュエリー界。そこに数々の衝撃と革命的な名品によって風穴をあけ、より華やかに、スタイリッシュに、最高のステイタスを築き上げてきたシャネル。
時に大きなトレンドに火をつけながらも、それらは一過性のブームに終わらず、色褪せずに輝き続けるスタイルへと変貌していきました。

「シャネルはスタイル。ファッションは移り変わるが、スタイルは永遠」(ガブリエル シャネル)

その美学は、気高いカメリアの花のように、ウォッチ&ジュエリーの世界でも咲き誇ります。

 

シャネルの名品時計、その美麗なオーラのすべて

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この記事の執筆者
東京都出身。大学在学中から雑誌『JJ』などで執筆活動を開始。女性向け本格時計のムックに携わったことから、機械式時計に開眼。『Precious』などの女性誌において、本格時計の魅力を啓蒙した第一人者として知られる。SIHHとバーゼルワールドの取材歴は、女性ジャーナリストとしては屈指のキャリアの持ち主。好きなもの:海、ハワイ(特にハワイ島)、伊豆(特に下田)、桑田佳佑様、白い花、シャンパン、純米大吟醸酒、炊きたてのご飯、たまご、“芽乃舎”の野菜だし、“エルメス”のバッグと“シャネル”の靴、グレーのパーカー、温泉、スパ、素敵旅館、村上春樹、宇野千代先生、神社、日本の陶器(特に唐津焼)、朝ドラ、ドラミちゃん、長文のインタビュー原稿
EDIT&WRITING :
岡村佳代