レクサスが2019年で30周年を迎えた。これまでの振り返りと、この先の方向性についての考えを聞かせてくれるジャーナリスト向けイベント「Lexus Milestones レクサス・マイルストーンズ」が、2019年7月にコスタリカで開催された。

いまでも十分に通用する出来栄え

新しいRX450hでコスタリカ・パパガヨ半島の道を走る。
新しいRX450hでコスタリカ・パパガヨ半島の道を走る。
このイベントはリベリア空港ちかくの「フォーシーズンズリゾート・コスタリカ」で開催された。
このイベントはリベリア空港ちかくの「フォーシーズンズリゾート・コスタリカ」で開催された。

 ブランドは一日してならず、とはよく言われる。クルマだけをみても、英国は100年以上かかって築きあげたブランドが多くある。ロールスロイス、ベントレー、アストンマーティンは好例だ。

 日本に目を向けると、時間ではかなわないが、技術力を中心に、ごく短時間で高級ブランドとして認められた希有な存在がある。1989年1月に北米でLS400を発表したレクサスだ。

 当初は、日本メーカーの気まぐれなどと陰口をたたかれたが、静粛性、快適性、つくりのよさなどで、あっというまにドイツのブランドと比肩するほどの存在感を獲得するまでに成長した。

 コスタリカのリゾート、パパガヨ半島のフォーシーズンズリゾートを舞台に開かれた「Lexus Milestones」では、なんとレクサスは、くだんの初代LS400をはじめ、歴代のエポックメーキングなモデルを試乗用にずらりと取り揃えてくれた。

 旧車好きなら涙を流して喜びそうなぜいたくな内容だが、驚いたことに、ふつうの自動車好きにとっても貴重な体験となった。というのは、昔のレクサス車はどれも、いまでも充分に通用する出来映えだったからだ。

 例をとると、LS400(1989年)だ。建て付けのよいプレスドアを開けて室内に身を落ち着けると、じつに広々としている。ぱんっと張ったレザーシートはクッションがまったくやれていなくて、ステアリングホイールを握って走りだすと、トルキーで、かつふんわり乗り心地がよい。しかも速度が上がっていっても静粛性が高い。

新旧のRXを乗り比べ

外板の一部に手が入れられているばかりか走りがよりスポーティになったRX。
外板の一部に手が入れられているばかりか走りがよりスポーティになったRX。
LS400(1989年)と手前が最新のLS500。
LS400(1989年)と手前が最新のLS500。

 同様に、私が好きになったのは、2代目「RX」シリーズに設定された「RX400h」(2005年)である。プレミアムSUVとして初のハイブリッドモデルだ。こちらも力がたっぷりあって、しかもステアリングは中立ふきんでも正確で、乗り心地はしっかりしている。でも固くない。

 RX400hに乗っていると、降りたくなくなってくる。目的地へ行くための手段でなくて、運転じたいを楽しむために作られたからだと強く感じるからだ。

 レクサスは30年間、静粛性、乗り心地、つくりのよさ、といったものをクルマの核として開発を続けてきたという。初代RX、2代目RX、それに最新のRX450hと乗ると、より強く、レクサスが守ってきたものが見えてくるようだ。

 最新のRX450hは、2019年5月にマイナーチェンジを受けたモデルだ。フロントグリルにL字のブロックメッシュパターンを採用したことをはじめ、側面のキャラクターラインのデザインが変更されている。

 ボディと足まわりにも手が入れられた。ボディはスポット溶接の打点を増やしつつ、構造用接着剤の接着長を拡大。剛性を高めつつ、ステアリングホイールを切ったときなど、ボディがしなやかにたわんで気持よく曲がれるようにしているのだ。

 サスペンション関連でも改良が加えられている。ハブベアリングの剛性を高めることで車両の応答性を向上させ、スタビライザーバーの剛性を上げることで、アンダーステアの軽減とロールの低減をはかっているのだ。

 運転支援システムは、コーナリング能力を高める「アクティブコーナリングアシスト」が特筆点である。カーブを曲がっている最中に加速すると車両は外側にふくらむアンダーステア傾向をみせる。それを抑えるブレーキ制御技術だ。

 加えて、EPS(電動パワーステアリング)のチューニングにも改良を加え、リニアなステアリングフィールを実現していると謳われる。はたしてRX450hはカーブを走るのが楽しみになるような気持よいハンドリングを感じさせてくれた。

 乗り心地はしなやかでありつつ、カーブではロール速度はゆっくり。ドライバーは自分の狙ったとおりのラインをとれる。全長は4890ミリもある余裕あるサイズのSUVだが、走る楽しさはRCやLCをラインナップに持つレクサスだけある、と評したくなるものだ。

レクサスが目指す新時代の高級車

奥に最新のLC500と手前が初代SC400(1991年)。
奥に最新のLC500と手前が初代SC400(1991年)。
レクサスインターナショナルの佐藤恒治エグゼクティブバイスプレジデント。
レクサスインターナショナルの佐藤恒治エグゼクティブバイスプレジデント。

 レクサス(のクルマづくり)はいま、新しい時代を迎えている。コスタリカの会場で会った車両開発統括のレクサスインターナショナルの佐藤恒治エグゼクティブバイスプレジデントはそう語ってくれた。2017年の「LC」からクルマづくりのコンセプトを進化(深化)させているのだそうだ。

 LCは余裕あるボディサイズのラグジュアリースポーツクーペととらえられるが、じつはサーキットを走っても充分以上に楽しめる操縦性を備えている。RX450hに乗って、LCを楽しんだことを思い出した。

 もちろんレクサスはたんにスポーティさを強めるという話ではないだろう。これからグループ全体でEV化を加速させていくという記者発表がさきにあったばかりだ。かりに電動化しても楽しいクルマを作り、それで新時代の高級車として存在感を誇示する、という計画もあるようだ。

 運転して楽しいから高級という単純な図式は成立しないけれど、そこにいかにレクサスらしさを入れてパズルを完成させていくか。それは楽しみだ。かつて日本車に高級車は無理、と言われていた既成概念をひっくり返したのはレクサスの功績だ。もういちど、驚くようなことをやってもフシギではない。楽しみである。

この記事の執筆者
自動車誌やグルメ誌の編集長経験をもつフリーランス。守備範囲はほかにもホテル、旅、プロダクト全般、インタビューなど。ライフスタイル誌やウェブメディアなどで活躍中。
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