本題に入る前に、ブロードウェイ版がプレヴューを開始したティナ・ターナー・ミュージカル『ティナ』(Tina: The Tina Turner Musical)について簡単に。7月初めに『ロンドンからやって来る『ティナ』はブロードウェイの荒波を乗り切れるか!?』で、ロンドン版の印象を報告したが、
オフならではのチープなノリがかえって楽しい!
さて、『盗まれた雷撃~パーシー・ジャクソン・ミュージカル』(The Lightning Thief: The Percy Jackson Musical)だが、原作は2005年から2009年にかけて出版された全5巻から成る『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』(Percy Jackson & the Olympians)シリーズの第1巻『盗まれた雷撃』(The Lightning Thief)。同シリーズは、ウィキペディアによれば、35か国以上で出版され、7,000万部近く売れているというベストセラー小説。日本でも全巻翻訳出版されている。映画化も2作品あり、タイトル(原題)は小説の第1巻、第2巻と同じ。
……ということなのだが、ミュージカル版は脚色が面白い。現代のアメリカを舞台に、ギリシア神話の神と人間との間に生まれた子供たちがモンスターと戦いながら冒険していく、という壮大な話であるにもかかわらず、舞台版の役者は主人公パーシー・ジャクソン役の他には6人しか出てこない。彼らが入れ替わり立ち代わり様々な役を演じるというオフ・ブロードウェイのノリなのだ。
実際、この作品は2017年にダウンタウンの小さな劇場でオープンしている。その時にも観たが、チープな手作り感を生かした冗談めかした舞台で、まさかブロードウェイにやって来るとは思わなかった。今回の仕様も、ほぼオフの時のまま。そこが逆に楽しい。
『ビー・モア・チル』スタッフ+新鋭楽曲作者の挑戦
ちなみに、脚本のジョー・トレイス、演出のスティーヴン・ブラケットは、いずれも昨シーズンの話題作のひとつで、やはりオフからオンに進出した『ビー・モア・チル』のスタッフ。作品のパロディ的感触がうなずける陣容だ。ブロードウェイ初登場となるロブ・ロキッキの楽曲はロック・ビートに乗った軽快なもので、アクション場面での大仰なアレンジも含め、作品の方向性と有機的に結びついている。ノリがよすぎて、アクションの続く第二幕中盤では睡魔に襲われる瞬間もあるが、それは時差ボケのせいだと思われる(笑)。
原作小説は、筆者リック・リオーダンが、ADHD(注意欠陥・多動性障害)と難読症を併せ持つ息子ヘイリーに読み聞かせるために、ヘイリーが興味を抱くギリシア神話の続きを意図して書かれたという。そのため、主人公も含め、この作品に登場する子供たちも少なからずそうした障がいを抱えている。その辺りを取こぼさずに描こうとしているのが、このミュージカルの存在意義のひとつだろう。
ブロードウェイ作品としては贅沢感が足りないかもしれないが、ディスカウント・チケットが常時出ているようなので、トライしてみる価値はある。なお、現時点では2020年1月5日までの期間限定公演となっている。
上演日時および劇場は、Playbill(http://www.playbill.com/production/the-lightning-thief-the-percy-jackson-musicallongacre-theatre-2019-2020)でご覧ください。
『盗まれた雷撃~パーシー・ジャクソン・ミュージカル』の公式サイトはこちら(https://www.lightningthiefmusical.com//)
- TEXT :
- 水口正裕 ミュージカル研究家
公式サイト:ミュージカル・ブログ「Misoppa's Band Wagon」