メンズファッションの注目株は、男らしいスタイルの復権を表す、スリーピースを中心とした伝統的なスーツである。
男っぽいスーツには、しっかりとした感触の生地が必須だ。英国生地を中心とした服地輸入卸商社、マルキシの岸 秀明氏をガイド役に、伝統的かつ男らしさを伝える、生地選びのポイントを伺った。
スーツ選びの本領は、生地を見立てる知識にある
「まず、生地は触って選ぶことです。張りやコシなど、ボディがしっかりとしている生地は、仕立て映えがよく、長い期間、着用できます」
ボディがしっかりとした生地とは、品質のいい張りのある原毛を使い、織り目が詰まった、肉感的な生地のこと。男らしさを伝えるスリーピースで、重要な生地選びの基準となる。
「秋冬は、防寒性もある目の詰まった綾織りの生地が基本です。生地重量の目安は、1mあたり280〜330g。サヴィル・ロウのテーラーでは、300g以上が常識。織り目の詰まった重量感のある生地を使ってスーツを仕立てるのが、英国の文化です」
生地の重さは、330gを超えると、趣味性の高い生地が多いという。
俄然注目が集まる、ビスポーク仕立てのスーツをまとう洒落者たちは、概して重量感の伝わる生地を選び、クラシックなスタイルを見事に表現する。
上で紹介した5種類の生地は、すべて330gを超える。英国伝統の重厚な生地からも、スリーピースにふさわしいスタイルが見えてくるのだ。
グレーフランネル(※1)1772年に誕生し、1950年代まで「フランネル」という商標を保持していたフォックス・ブラザーズの生地。ダンディな名優、ケーリー・グラントに「フランネルはフォックスに限る」と言わしめたほど、フランネルの名門として知られている。しっかりとコシを備え、1mあたり385gの重さは、スーツに最適。紳士なら、グレーフランネルのスーツは、1着は持つべきだ。
バンカーズストライプ(※2)20世紀初頭に創業したH.レッサーの生地。1mあたり400gの、張りのあるストライプ地。好景気に沸いた1980年代、ロンドンのシティやニューヨークのウォールストリートで働く銀行マンが、この手のストライプ柄のスーツを着用していたことから、俗に「バンカーズストライプ」と呼ばれるようになった。「バンカーズストライプ」は、控えめなストライプとの認識もあるが、実はこのさえたストライプだ。
グレンチェック(※3)英国生地の名門ブランドハリソンズ・オブ・エジンバラのアーカイブから、ウィンザー公が注文した生地を復刻したのが、このグレンチェック。トゥルー プリンス オブ ウェールズと呼ばれる品名で、オリジナルのグレンチェックは、色鮮やかなブラウンとブルーのチェック柄であることがわかる。1mあたり470gの重みのあるしっかりとした生地感は、男らしさを復権したスタイルによく似合う。
ドネガルツイード(※4)アイルランドのドネガル地方で、今も昔ながらの手法で生地を織り上げるダブリュー ビル。パブロ・ピカソも愛したカントリー服地の名ブランドで、50年以上サヴィル・ロウの名門テーラーにツイードを卸している。ナッブと呼ばれる節のある糸が織り込まれているのが特徴。素朴で暖かな風合いが絶品である。1mあたり420gのガッチリとした質感は、カントリーなスタイルのスーツやジャケットに好相性だ。
バーズアイ(※5)英国のテーラーで人気の高い生地のひとつ、バーズアイ。文字どおり「鳥の目」のように、小さく丸い織り柄から名づけられた生地だが、正真正銘のバーズアイの生地は案外少ない。この生地のように、ごく小さな丸い織り柄の中心に、黒目を見立てたステッチがあるものが本物だ。ハリソンズ・オブ・エジンバラの1mあたり330gのコシのある生地をスリーピースに使い、真のバーズアイを堪能したい。
- TEXT :
- 矢部克已 エグゼクティブファッションエディター
- BY :
- MEN'S Precious 2016年秋号「この慎み深い格式こそ、紳士たる装いの頂点だ!英国的たたずまいはスリーピーススーツ に宿る」より
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- クレジット :
- 撮影/熊澤 透(人物)、小池紀行(パイルドライバー/静物)、篠原宏明(取材) スタイリスト/村上忠正 ヘア&メーク/HIROKI (W)モデル/Yaron レイアウト/澤田 翔(H.D.O.) 撮影協力/ブリティッシュヒルズ 構成・文/矢部克已(UFFIZI MEDIA)