2007年のトランクショーを最後に、日本で鳴りを潜めていた凄腕サルトのガエタノ・アロイジオ氏が、‘19年に入りトランクショーを再開した。この12月には今年3度目の来日を迎える。
イタリア国内のサルトリアの間で、知らぬ者はいない有名マエストロのアロイジオ氏は、イタリア・カラブリア州の出身。16歳でミラノに渡り、仕立て職人の修業を開始し、その後、ローマに移り、仕立て職人を養成する学校に通いながら、名門サルトリアの「ルッツィ」で腕を磨いた。22歳のとき、フォルビチ・ドーロを受賞した。フォルビチ・ドーロとは、イタリアの仕立て服づくりの登竜門として知られ、イタリア各州で行われる予選会を勝ち抜き、全国大会へと駒を進め、最高の仕立て技能を競うコンテストだ。当時、最年少の受賞だったが、今もこの記録は破られていない。
スーツづくりの天才職人ガエタノ・アロイジオ氏
現在、ローマの超一等地にアトリエを構え、大活躍を続けているアロイジオ氏の服づくりには、どんな技が隠されているのだろうか。12年ぶりにトランクショーが再開されたのを機に、あらためて仕立てについて、アロイジオ氏の哲学を伺った。
――スーツを仕立てるとき、どんな点に注意をはらう?
まず、クライアントと対面したとき、どのような人物なのかを読み取ります。動作やしぐさを見て、また話し方などから、その方の仕事を想像し、性格も探っていきます。
ひとりとして同じ体形の人はいませんから、綿密な採寸が重要になります。その採寸を基にしながら、体のクセを考慮し、性格などの内面的なことも意識しながら型紙をつくり、スーツを仕立てていきます。
私が理想とするスーツとは、朝、スーツを着用してから、歩いたり、食事をしたり、仕事をしていくなかで、着ている人にスーツが無理なくなじみ、個性的な表情もつくられていくことです。それにはまず、第一印象をどうとらえるかも重要なのです。
――1回目の仮縫いは何を確認する?
ジャケットを試着した際、技術的な部分を見ます。前身頃と後身頃のバランスが取れているのか。綺麗な腕の振り具合や、着丈とそで丈の美しい長さに注意します。今では一般的に、ジャケットの着丈は短めが人気ですが、それが着ている人にとって美しく見えるのだろうか、体形のバランスに合っているのかを見極めます。それに準じて、パンツのすそ丈を導き出すのです。
――2回目の中縫いでは、どこをチェックする?
仕上げに向けてより完成度を上げるために、細かいところまで目を配ります。何よりもまず、クライアントの体に肩のラインが美しく流れているかどうか。スーツの美しさを決める部分は、胸から上のでき具合やラインです。特に、肩は美しく仕立てなければなりません。
肩のラインを確認した後は、そでの振り具合とそで丈の長さ。そして、ボリュームを保ったラペルの形状が、体に沿って美しくできているかがポイントになります。
――現在の日本人が求めるスーツはどんなスタイル?
着丈の短いジャケットやすそ丈の短いパンツ、そしてコンパクトなフィッティングのナポリ仕立て風のスーツを求めているようです。ディテールもクセのある仕様にと。
ローマの一等地にたたずむ「サルトリア ガエタノ アロイジオ」
――ガエタノ・アロイジオのスーツとは、ひとことで言うとどんなスーツ?
もちろん、私のスタイルは、ナポリの仕立てとはまったく違います。エレガンスを意識したスーツづくりで、美しく着心地のいいものです。エレガンスとは、何かを見せたがるような、いたずらに強調するスタイルではありません。
私たちの顧客は、洗練や誠実さを求めています。趣味のよさ、美しさを秘めたスーツです。そのために、縫製や目に見えない芯地づくりといった細かい部分にも気を使って仕立てています。
「スーツは、トレンドを表現するスタイルではなく、着用している人の趣味のよさをも演出しうるものだ」とするアロイジオ氏は、さらに4つの重要なポイントを語った。「美しいスタイルが保たれている」「肩のラインが誠実である」「硬すぎず、やわらかさがある」「着ている人の気持ちを上げる」ものがスーツであると。
いよいよ、次回のトランクショーが目前に迫った。12月7日と8日に、「ストラスブルゴ 南青山店」で開催される。上品で美意識の高い“ローマのエレガンス”が詰まったスーツを堪能できる久しぶりの機会である。
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この記事の執筆者
ヴィットリオ矢部のニックネームを持つ本誌エグゼクティブファッションエディター矢部克已。ファション、グルメ、アートなどすべてに精通する当代きってのイタリア快楽主義者。イタリア在住の経験を生かし、現地の工房やテーラー取材をはじめ、大学でイタリアファッションの講師を勤めるなど活躍は多岐にわたる。 “ヴィスコンティ”のペンを愛用。Twitterでは毎年開催されるピッティ・ウォモのレポートを配信。合わせてチェックされたし!
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