出演者候補に『キンキー・ブーツ』(Kinky Boots)のビリー・ポーターや『ディア・エヴァン・ハンセン』(Dear Evan Hansen)のベン・プラットというトニー賞受賞者、それにレディー・ガガらの名前が挙がって、以前からあった再映画化の話がいよいよ実現か、と言われているのがミュージカル『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』(Little Shop Of Horrors)。その波に乗るように、この秋、オフ・ブロードウェイにリヴァイヴァル版が期間限定で登場した。

全米で愛されるカルトな小規模ミュージカル

『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』の劇場ポスター 筆者撮影
『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』の劇場ポスター 筆者撮影
『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』上演中のウエストサイド劇場 筆者撮影
『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』上演中のウエストサイド劇場 筆者撮影

 ミュージカル『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』は、ディズニーの『美女と野獣』(Beauty And The Beast)の楽曲作者コンビ、アラン・メンケン(作曲)×故ハワード・アッシュマン(作詞)の出世作として知られる。'50〜'60年代のR&RやR&Bへのオマージュ風楽曲と、後に開花する彼らのロマンティックな作風とが混在するポップな作品で、1984年にオフ・オフで1ケ月ほど上演された後にオフの劇場に移って5年半近いロングランを記録。今回のオフ・ブロードウェイ・プロダクションの謳い文句に「when it returns to its off-Broadway roots this fall!」とあるのは、そのためだ。1986年にはTV番組「サタデー・ナイト・ライヴ」関係の人気者が大挙出演したミュージカル映画版が作られたが、元々がロジャー・コーマン監督が低予算で作った1960年の同名映画(非ミュージカル)なので、ミュージカル舞台版には“その手”のカルトな雰囲気が漂っている。

 舞台はダウンタウンのサエない花屋。そこで働くダメ店員がオードリー2世という不思議な花を育て始めたとたんに客が集まり始め、店は繁盛する。が、実はその花の正体は……、という“ホラー”な展開は、ごぞんじの方も多いと思うので(知らない方にはネタバレになるし)省略させていただくとして、この作品の特徴は、オフ作品らしく、派手な展開の割にはキャストが少ないこと。そのため、全米各地のアマチュア〜セミプロ劇団で頻繁に上演される人気演目になっているという。

3人の個性派が小さな舞台で演技合戦

1986年公開の映画『Little Shop of Horrors』より、ミュージカルの一場面。写真:Getty Images
ミュージカル『Little Shop of Horrors』より写真:Getty Images

 主要登場人物は、ダメ店員セイモア、セイモアの憧れる花屋の同僚オードリー、オードリーの恋人のサディスティックな歯医者オリン。それを今回演じているのは、ジョナサン・グロフ(セイモア)、タミー・ブランチャード(オードリー)、クリスチャン・ボール(オリン)。カルトな雰囲気に相応しい個性的な役者たちが揃った。

 ざっと紹介すると、ジョナサン・グロフはブロードウェイに出演するたびにトニー賞にノミネートされる実力派で、ことに『ハミルトン』(Hamilton)のキング・ジョージ役における「とぼけた凄み」演技は話題を呼んだ。タミー・ブランチャードは、2001年のTV『ジュディ・ガーランド物語』(Life With Judy Garland: Me And My Shadow)での若き日のガーランド役(エミー賞受賞)で注目を浴びた後、ブロードウェイのミュージカル、プレイ両方に主要キャストとして登場してきている。そして、“クセモノ”クリスチャン・ボール。2000年ブロードウェイ・デビューだが、2010年代になって立て続けに主役級のスターとして途切れることなくブロードウェイの舞台に立っている人気者だ(トニー賞2度受賞)。

ミュージカル『Little Shop of Horrors』より写真:Getty Images

 この3人の他には、ロネット、クリスタル、シフォンという'60年代ガール・グループ好きならピンと来る名前の狂言回し的女子トリオと、花屋の主人が登場。端役も数多いように見えるが、そのほとんどをクリスチャン・ボールが演じているので、その変身ぶりもお楽しみのひとつ。

 演出は『春のめざめ』(Spring Awakening)や『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(Hedwig And The Angry Inch)のマイケル・メイヤー。昨シーズンのトニー賞作品『ヘイディズタウン』(Hadestown)のプロデューサーが多数出資していることからして、もしかしたらブロードウェイ進出を狙っているのかも。そんなことも想像させるホリデイ・シーズンの注目作。日本でも翻訳版が来春上演されるようだが、その前に本場で体験してみるのも悪くない。

 1月19日までの期間限定公演として始まったが、人気に応えて3月8日までの延長が決まっている。期間延長後のセイモア役はマイケル・メイヤー演出『春のめざめ』でジョナサン・グロフと共演していたギデオン・グリック。

上演日時および劇場は、Playbillでご覧ください(http://www.playbill.com/production/little-shop-of-horrorswestside-theatre-upstairs-2019-2020)。
『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』の公式サイトはこちら(https://www.littleshopnyc.com/

この記事の執筆者
ブロードウェイの劇場通いを始めて30年超。たまにウェスト・エンドへも。国内では宝塚歌劇、歌舞伎、文楽を楽しむ。 ミュージカル・ブログ「Misoppa's Band Wagon」(https://misoppa.wordpress.com/)公開中。 ERIS 音楽は一生かけて楽しもう(http://erismedia.jp/) で連載中。
公式サイト:ミュージカル・ブログ「Misoppa's Band Wagon」