意外に思うかもしれないが、レクサスは電動化技術のパイオニアでもある。2005年にSUVのRX400hを発売して以来、優れた走行性能と環境性能の両立を追求してきた。そして2019年の末、レクサスは中国の自動車ショーで新たにUX300eを披露した。いずれは日本にも導入されるという新型車を通じて、ライフスタイルジャーナリストの小川フミオ氏がレクサスの見据える未来を探る。
お披露目の場は中国
ことライフスタイルに関するかぎり、私たちの眼は欧米を向いてしまいがちだが、クルマの分野では、中国勢の台頭がおおいに注目に値する。そう書いたら意外だろうか。
中国政府がこのところ、ハイブリッド、プラグインハイブリッド、BEV(バッテリー駆動のEV)という「新エネルギー車」普及の後押しをしてきたこともあり、あちらでは、日本をはるかにしのぐいきおいで、この新しい波が押し寄せてきているのだ。
中国のメーカーの目標は、自動車の知見はそれほどでもないのにかかわらず、ごく短い時間でブランドを確立した米のBEVのメーカー、テスラである。そこに追いつけ、追い越せとばかりに、中国の勢は(スタートアップを含めて)電動車の開発にしのぎを削ってきた。
その市場に参入しようというのが、レクサスだ。2019年11月22日に開幕した広州自動車ショーで、ブランド初の市販型BEVである「レクサスUX300e」をお披露目した。広州のショーは、北京、上海の自動車ショーに次ぐもので、使われる見本市会場が世界最大級というだけあって、欧州最大のフランクフルトショーをしのぐ規模だ。
電動車だからこそ実現できる“走り”の世界
レクサスブースにすしづめになった報道陣の前でベールをぬいだUX300eは一見、従来のUXシリーズと変わったところがない。しかし内側はちがう。中身は新しいのだ。エンジンはなくなり、代わりにモーターがフロントに搭載され、前輪を駆動する。シャシーもサスペンションシステムも、専用のチューニングが施されている。
レクサスの澤良宏プレジデントは現場で、「(レクサスというブランドが)スタートしたときからこだわってきた、静粛性、乗り味、質感、といったものはEV化でさらに次元があがります」と説明してくれた。
UX300eはフル充電で400キロの航続距離を誇るが、しかし澤氏は、トレンドだから燃費のいいEVを発表したのではない、とする。
レクサスの技術陣が電動車に注目してきたのは、電気モーターの制御しだいで、エンジン車ではむずかしい高度な運動性能を実現することができるメリットゆえだそうだ。コーナリング時の姿勢制御といい、車体の上限の揺れ(ピッチング)の制御といい、電動車だからこそ実現できる“走り”の世界があるという。
「UX300eは高出力のバッテリー(53.4キロワット時)を搭載してパワーも追求しています。ここから私たちは、新しい走りの世界を追求していきます」。澤氏は言う。新しいパワートレインが出てきたときスタートラインに並んでいても、それをどう使うか、クルマを開発していくうえでの考えかたしだいで、到達する地点が変わってくるそうだ。
EV時代を生き抜くための自動車メーカーの矜持
コンセプトがしっかりしていないと、これからの時代に生き残れない、という説明はたいへん興味ぶかかった。EVの時代になって自動車はコモディティ(白物家電)化し、自動車メーカーはさまざまなアプリを通して収益を上げていくことになるという予測を開陳するひともいるが、レクサスの考えはちがうということだろう。
UX300eは2020年にまず中国と欧州で発売され、日本での発売は2021年が予定されている。いま、BMWのiシリーズをはじめ、メルセデス・ベンツEQC、アウディe-tron、ジャガーI-PACEなど、個性ある欧州のBEVが出てきている。そのなかで、ナチュラルな運転感覚と、気持ちのいい走りをめざすUX300eがどう戦うか。楽しみにしようではないか。
- TEXT :
- 小川フミオ ライフスタイルジャーナリスト