ついに上梓された単行本『お洒落極道・最終編』の刊行を記念して、本誌夏号で告知した座談会。多くの読者からの熱烈なラブレター(自薦状)を読み込み、栄えある3名を選出。某月某日、日本のみならず、海外からもはせ参じたシマジ教信者たちが、読者垂涎の聖地、東京・広尾の「サロン・ド・シマジ本店」に集った。単行本を入手する前に読んでおくべき秘話も満載、思わずひざを打つ金言の数々を改めて知れば、いやが上にも新著への期待が高まろうというもの。ダンディズムを極めんとする男たちよ、この豊穣なる大詞海を泳ぎ切るべし!


お洒落極道・実録ダンディズム研究番外編

某月某日、東京・広尾の「サロン・ド・シマジ本店」 に集った面々は、筋金入りのシマジ教信者たち。 写真左から外村仁さん、池谷龍一さん、島地氏を 挟み、後ろ姿は芦田義尚さん。
某月某日、東京・広尾の「サロン・ド・シマジ本店」に集った面々は、筋金入りのシマジ教信者たち。写真左から外村仁さん、池谷龍一さん、島地氏を挟み、後ろ姿は芦田義尚さん。

編集部 本日はありがとうございます。今回、たくさんの方が応募してくださった中から厳選した結果、芦田義尚さん、池谷龍一さん、外村仁さんを選ばせていただきました。

シマジ みなさま、ようこそ、「サロン・ド・シマジ本店」へいらっしゃいました。また読みにくいゲラ刷りに目を通していただき感謝いたします。まずはこのタリスカー25年で、エアレーターでトワイスアップをつくります。今東光大僧正自ら焼いた茶器を使って、みなさんで回し飲みいたしましょう。ではわたしからいきますね。スランジ!

芦田 スランジバー! こうして飲むのははじめてですが、何か親睦が深まるような気がします。

外村 スランジバー! うーんおいしいです。茶器をこうして使うのはアイディアです。お互いの団結が強くなります。

池谷 スランジバー! こうして飲むとシングルモルトを飲む愉しさが倍増します。そして男の友情がさらに燃えてきます。

編集部 ところでまずシマジさんの存在をはじめて知ったときの話をおひとりずつしていただけませんか。では芦田さんからどうぞ。

芦田 シマジさんを知ったのは、まだ5年ほど前のことです。まず家内が、一関市のジャズバー、ベイシーのマスター・菅原正一さんから、シマジさんの話をいろいろと聞かされたのです。「おれの凄い親友がいるんだ。シマジといって毎週末、伊勢丹のバーに立っている」とマスターが言うので、家内はひとりで、伊勢丹新宿店メンズ館8階にある、サロン・ド・シマジのシガーバーを訪れて、「シマジさんは凄い存在感のある方だからあなたも行きなさい」とわたしに強く推してくれたのです。

編集部 芦田さんは月に何回ぐらい伊勢丹新宿店メンズ館8階にある、「サロン・ド・シマジ」のシガーバーに行かれるんですか。

芦田 月1回ぐらいですか。最初はバーに入るとき、怖そうな感じがして恐る恐る入った記憶があります。実際、シマジさんに直当たりしたら凄く気さくに話していただきました。最初は、ファッションの分野でシマジさんに凄く興味を持ったんですけど、実際バーに行ってみると、教養のある方が多く、いろんな話が次から次に出てきて、お客さんとの話を聞いているだけで、あっという間に4、5時間過ぎてしまうんです。わたしにとってそれは凄く勉強になる愉しい時間なんです。

編集部 外村さんはどのようにしてシマジさんを知ったんですか。

外村 大学時代はシマジさんが編集長をしていた頃の『週刊プレイボーイ』の名連載、「風に訊け」の大ファンでした。今でもその単行本は実家にありますよ。ぼくは2000年からシリコンバレーに住んでいるんですが、もともとアップルにいて、日経BPのスティーブ・ジョブズに関する本の解説をしたこともあり、日経BPの人と仲良しになったんです。その頃、日経BPネットでみつけたのが「乗り移り人生相談」だったのです。あのお堅いBPのなかに、こんな掟破りの面白い連載があっていいのかって、毎週熟読していたら自然とシマジ教に入信していたんです。

「お洒落」と「身だしなみ」は別のものである

シマジ シリコンバレーってどういう住人が多いんですか。

外村 シリコンバレーはニューヨークと違って、短期間で金持ちになった人が多いので、ある種の本当の大人の贅沢を知らない。ほとんどの店が夜9時には閉まってしまいますし。そんな環境のなかでぼくがシマジさんの本を読むのは人間性回復のためなんですよ。

編集部 池谷さんの、シマジさんとの邂逅を教えてください。

池谷 シマジさんとぼくとの出会いは、書店に平積みになっていた『甘い生活』(講談社)を偶然に手に取ったときからです。映画の『甘い生活』のマストロヤンニが大好きだったので、シマジさんのことを知らないまま読み、はじめてシマジワールドを知って淫したわけです。何よりも「人生は恐ろしい冗談の連続である」というシマジ格言に痺れました。ぼくの仕事では不条理なこともたくさん起こるんですが、あの格言で何度も救われたんです。でも実際、あんな面白いエッセイを書いている作家に直当たりできるなんて、夢みたいな話でしたよね。

編集部 芦田さんはファッションに興味があると、本企画の自薦状に書いておられましたね。

芦田 はい。毎回『メンズプレシャス』を欠かさず読んできましたが、夏号が連載最終回と知ってショックでした。単行本『お洒落極道』に書かれているブランドの話も含め、わたしが今まで聞いたこともないような話ばかりでした。ビスポークの話だとか、ヨーロッパの貴族がどうやってお洒落をしているかとかね。今まで自分がお洒落だと思っていたことは、単なる身だしなみだったことを知らされました。もっと凄いレベルがあるんだということを、まざまざと見せつけられた感じでした。『お洒落極道』を読んでお洒落と身だしなみは別だったと、知ったのです。

編集部 アメリカ西海岸に住んでいる外村さんに伺いますが、東海岸と比べると西海岸の人たちはヨーロッパ的カルチャーなんて関係ないという感じですか。

外村 東部の人はやっぱりヨーロッパの影響が結構あって、リスペクトもあるんでしょうが、西部ではヨーロッパ信仰は希薄ですね。いわゆるアメリカらしさ、というのもあまりないです。日本は「日本とは云々」とよくいうけど、アメリカって州が変われば国が違うみたいなものなんですよ。もともとぼくはヨーロッパが大好きで、特にフランスに住みたかった。ヨーロッパには2年間しか住んでいませんが、たとえば、友達を招いてディナーをしますよね。するとヨーロッパ人はずーっと3時間、おいしい食事についてしゃべったりする。感覚的なんです。一方シリコンバレーの人たちは、テクノロジーの話とか、アウトドアの話とか、クルマの話とか、家を買う話だとか、凄く即物的な話ばっかりです。

パールのネックレスをつないだような「お洒落文学」

池谷 ところで、今夜シマジさんが着ているのがローブジャケットですよね。

シマジ そうです。これがローブジャケットです。昨年あたりからナポリで流行っているんです。わたしが一生懸命宣伝してこうして着ているんですが、日本ではなかなか流行らないですね。

池谷 どこに行けば買えるんですか。

シマジ 広尾の「ピッコログランデ」に行けばサイズもたくさんそろっています。これはナポリのシャツ職人サルバトーレ・ピッコロがわたしのアドバイスを取り入れてつくった新作です。

池谷 ピッコログランデの店主は島地勝彦公認スタイリストの加藤仁さんですからね。

シマジ そうです。是非、一度「ピッコログランデ」を訪ねてこのローブジャケットを試着してみてください。人類の洋服でいちばん進歩している楽なジャケットです。この抜け感はまるで着物感覚です。

芦田 シマジさんの今回のゲラ刷りを読ませていただき、あっそうかと思ったのは、なにも、身につけるものだけがお洒落なのではなく、遊ぶことなどをすべてひっくるめてお洒落でなければいけないということなんですね。

「遊戯三昧」とは、遊びの中に真実あり、という言葉なんです

島地勝彦

シマジ そのとおりです。今東光大僧正が亡くなられる10か月前に書いてくださった「サロン・ド・シマジ」のバーに飾っている「遊戯三昧」という言葉が、まさにそのことをいっているのです。人生は遊びのなかにこそ真実があるという天台密教の有り難い言葉なんです。

芦田 『メンズプレシャス』連載の「お洒落極道」は立木義浩さんの写真とシマジさんの文章の素晴しいコラボで、あれはひとつの芸術品です。いつもわたしはまずシマジさんの文章を吟味して読んでから、じっくり写真を鑑賞するんです。そしてまた文章を読み直すと想像力が高まってきて愉しいんです。今回ゲラ刷りで文章だけを読んでいると、エッセイがずらっと並んでいてまるでパールのネックレスみたいに全部つながっているんですよ。

シマジ そこまで褒めていただき、ありがとうございます。エッセイストとして恐縮至極です。

芦田 全部つなげるとこれは立派なお洒落文学だと思いました。

池谷 芦田さんの話に納得です。『メンズプレシャス』はマテリアルなものからスピリチュアルなものまで扱っているのが素晴しいです。

芦田 わたしはバックナンバーを創刊から探して集めています。古いものを読むのも面白いですよ。

外村 発売から時間が経っていても読まれる雑誌は幸せですよね。

芦田 ほとんどのファッション雑誌は、身だしなみについての内容で、本当のお洒落を語っていません。お洒落な雑誌はシマジさんが連載している『メンズプレシャス』しかないと思いました。

外村 ゲラ刷りを読んだ感想ですが、うんちくだけが語られているわけじゃなく、モノやコトだけが語られているわけでもなく、そこに精神的価値と、シマジさんが醸し出すユーモアやジョークがバランスよく味付けされているのがいいですね。

芦田 ゲラ刷りを読んでもうひとつわかったことは、人間に最も大切なのは五感で感じることだ、という点ですね。たとえばシマジさんは名品の手触りのことを丁寧に書いている。自分が心地よくなることが大事だと。

外村 シリコンバレーで生活していると、あらゆる事象はディスプレィ上で起こるわけですよ。その辺の風景を見るよりも4Kの画面で見たほうが綺麗だ、みたいな話がそこまで来ているので、自分の感覚を使わなくても済んじゃうんです。昔、辞書の独特なインクのにおいが好きだった、みたいな話は、忘れられつつあるんです。そういう嗅覚とか触覚とか、情報の行き来に直接必要のない感覚を使うのを、ぼくたちはついつい忘れがちなんです。だからシマジさんの『お洒落極道』は読まなければいけないと思いますね。

芦田 今はだれもがスマホを使っていますから、そういった感性が人類から薄れてきているのでは。

外村 そうなんです。ですからスティーブ・ジョブズが偉かったのは、「わが社はテクノロジーとリベラルアーツの交差点に立つ会社にしたい」とあるときから言い出したことですね。日本の理系教育もテクノロジーに偏りすぎていました。

シマジ たしかにリベラルアーツは教えないものね。

外村 それが問題だといって、両方教えましょうと言い出したのは東京工業大学なんですよ。コンピュータサイエンスもやっているけど、リベラルアーツもみっちり教えるということをスタートさせたんです。

シマジ きっと海外からも東工大は注目されているんでしょう。先日、中国人の留学生がバーに来てくれて、「自分の第一志望は東工大の大学院に入学することです」と言いながら、涼しい顔して1杯2万5千円のポート・エレンを2杯も飲んで行きましたよ。バーとしては有り難いことですけど。

池谷 中国のお金持ちは桁違いですよね。

名著というものは風雪に耐えて残る

外村 今の大学には、昔のような名物教授は少なくなっているでしょうね。シマジさんが編集者のときに面白いと思ったのは、やっぱり小室直樹先生ですか。

シマジ 小室先生はマサチューセッツ工科大学やハーバード大学で学んだんですが、学位は取らずに日本に帰ってきてしまったので、東大では万年非常勤講師で終わったんですよ。でも小室ゼミを開設して多くの優秀な学生たちを世に出したのです。もともと小室先生は数学が専門だったのですが、憲法学から宗教学まで何でもござれの天才でした。わたしは集英社インターナショナルの社長時代に、立て続けに小室先生の『痛快!憲法学』『日本人のためのイスラム原論』という本をつくり、世に出しました。これは今でも名著として尊ばれているんです。名著というのは風雪に耐えて残るものなのです。わたしは、これも名著といわれている、シュテファン・ツヴァイクの『人類の星の時間』が大好きで、2、3回は読んでいたんですが、小室先生は「わたしは20回以上は読んでいますよ。しかも2回はドイツ語の原書で読みました」と平気で言ってのける怪物でしたね。

外村 そういう先生に学生のとき会いたかったですね。

シマジ 『週刊プレイボーイ』の編集長だった頃、よく小室先生から深夜電話がかかってくるんです。多分まだ飲み足りなかったのでしょう。小室先生に、わたしの近くのソファに座って待ってもらっていたら、小室先生のファンの若い編集者が質問したんです。「先生はどうして独身を貫いているんですか」すると小室先生は「結婚していますよ。愛人もいます」と言いながら、「こちらの右手が女房で、左手が愛人です」と答えたんです。このユーモアに編集部は大笑いに包まれたんです。

池谷 いい話ですね。泣けてきますよ。

シマジ 飲みながらでいいですから、このビジターズノートブックに1人1人サインしてくださいませんか。

スマイソンのゲストブックにサインしたみなさんは、晴れて、「お洒落極道」認定。各人のダンディズムを極めることをここに誓った。
スマイソンのゲストブックにサインしたみなさんは、晴れて、「お洒落極道」認定。各人のダンディズムを極めることをここに誓った。

編集部 では先輩の芦田さんからどうぞ。

芦田 これは羽根ペンですね。

シマジ 一滴で一字を書くつもりでお願いします。フルネームと、一言をお願いします。

芦田 ではわたしは「心」一字にします。

編集部 では外村さんにお願いします。

外村 ぼくはシマジ格言のなかから「人生は運と縁とえこひいきである」を英語でどう表現するかを考えてみたんです。とくにえこひいきが難しいんです。こんな感じですかね。「PayForward & スランジバー!」

シマジ では掉尾を飾って池谷さんにお願いします。

池谷 長くなってもいいですか。

シマジ いいですよ。

池谷 「華やかなる“色悪”の出血と静かなる“陶酔”の輸血」ですかね

シマジ なかなか意味深ですね。

編集部 今日は遠路はるばるありがとうございました。


編集部が多くの読者から厳選したこの3人は、奇しくも同じ理数科系の人間だった。はじめ一抹の不安を感じていたが、座談会がはじまるとこの3人は、じつに情緒豊かな人たちであった。『お洒落獄道』のゲラ刷りを丁寧に読み込んでくれたのだろう。座談会は御覧の通り白熱した。著者のわたしにとっても、3人の選ばれた読者にとっても、じつに愉しいディープな一夜であった。

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この記事の執筆者
TEXT :
MEN'S Precious編集部 
BY :
MEN'S Precious2019年秋号より
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PHOTO :
恩田拓治
EDIT&WRITING :
島地勝彦