英国のポロ競技者が着用していたコートをアメリカのブランドがリメイクして販売、その後世界的なヒットに繫がったのが前合わせが、Wになったスタイルで知られるポロコートだ。この英国式のポロコートが、わずか2か月でオーダーできるサービスが、東京・日本橋のサルトリア・イプシロンで行われているのをご存知だろうか。しかも、ここではカシミア素材を使用して仕立ててくれる。ポロコートとは、前合わせがWになったロングコートのこと。サルトリア・イプシロンの店主船橋氏は、コートのなかで、最も好きなデザインだと言う。本来はキャメルヘア素材が本格だが、よりしなやかでエレガントなデザインを狙い、ここでの素材はあえてカシミアを選択。ポロコート本来の魅力的なロングシルエットが楽しめる120㎝の着丈が絶品である。チェスターフィールドコートと同様に、タイドアップしたフォーマルなスタイルに似合うポロコートは、紳士が持つべき一着にふさわしい。

イタリア仕立ての真のマエストロ

 約30年にわたりローマとミラノでサルトリアを営み、イタリアの仕立て技を知り尽くした熟練のマエストロが、「サルトリア・イプシロン」の船橋幸彦氏である。2009年、日本に本拠を移してからは、主に日本人に向け、男のツヤっぽさをオーダーメイドの服で表現する。顧客層はオーダー服のマニアから老練の服好きまで、幅広い。これこそ、本物の服づくりが認められている証左だ。コートづくりには、船橋氏が考案した「やじろべえ理論」が生かされている。

 「やじろべえ理論」とは、前後左右の重心を首の付け根の1点に集める裁断法だ。時折、ジャケットの着心地は、「肩に載る感覚」と表現されるが、船橋氏はその感覚を、さらに軽快な着心地が得られるよう、理論的に裁断する。

 「イタリアでは、コートのことをソプラビトと呼びます。これはスーツの上にはおるものという語意です。『やじろべえ理論』を生かし、コートも優しくスーツを包むように仕立て、体を覆うラインを美しく表現します。イタリアの男たちはコートに、エレガントな香りと軽快さを常に求めるからです」

 ローマでサルトリアを構えていた時代につくり上げたポロコートは、「サルトリア・イプシロン」を代表するハウススタイルの逸品。船橋氏が着用していると、イタリアの紳士からも羨望のまなざしで見られたというポロコートは、色気も備える一生もののコートなのである。

1.存在感のある大きなラペルが、男らしいポロコートの表情を見事に演出する。ラペルのロール感を美しく表現するために、ハ刺しという手縫いの技をひと針ひと針芯地に施すのだ。2.イタリア語ではパラマニカと呼ぶターンナップカフを、そで口の半周分折り返したデザイン。本国のイタリア人も好むディテールである。カフスボタンは4つ配すのが、船橋流。3.両サイドのポケットは、パネルドポケットと呼ばれるデザイン。文字どおりパネルのような形だが、伝統のイタリア仕立てを継承するポロコートの特徴的なディテールである。
1.存在感のある大きなラペルが、男らしいポロコートの表情を見事に演出する。ラペルのロール感を美しく表現するために、ハ刺しという手縫いの技をひと針ひと針芯地に施すのだ。2.イタリア語ではパラマニカと呼ぶターンナップカフを、そで口の半周分折り返したデザイン。本国のイタリア人も好むディテールである。カフスボタンは4つ配すのが、船橋流。3.両サイドのポケットは、パネルドポケットと呼ばれるデザイン。文字どおりパネルのような形だが、伝統のイタリア仕立てを継承するポロコートの特徴的なディテールである。
やわらかいカシミア素材を使った、ゆとりのあるシルエットがよくわかる。背中からベントに繫がるスリットを美しく仕立てることで、後ろ姿をツヤっぽく演出する。ボタンをふたつデザインしたバックベルトが、ポロコート特有の美しい見せ場をつくり出している。
やわらかいカシミア素材を使った、ゆとりのあるシルエットがよくわかる。背中からベントに繫がるスリットを美しく仕立てることで、後ろ姿をツヤっぽく演出する。ボタンをふたつデザインしたバックベルトが、ポロコート特有の美しい見せ場をつくり出している。

いかがだろうか。今からオーダーすれば秋から袖を通せる自分だけのオーダーコート。伊達男を目指すなら、アウターも本物を持ちたいものだ。

オーダーできる他のコート/シングルあるいはダブルのチェスターフィールドコート、ステンカラーコートなど
オーダーの形式/フルオーダーのみ
オーダーの仕方/要予約
期間/1か月半~2か月半(仮縫い1回、中縫い1回を含む)
価格の目安/写真のポロコート¥729,600~、シングルチェスターフィールドコート¥305,000~(※価格は2016年冬号掲載当時の情報です)
お問い合わせ先
サルトリア・イプシロン
TEL:03-6225-2257
http://www.sartoriaypsilon.com

この記事の執筆者
ヴィットリオ矢部のニックネームを持つ本誌エグゼクティブファッションエディター矢部克已。ファション、グルメ、アートなどすべてに精通する当代きってのイタリア快楽主義者。イタリア在住の経験を生かし、現地の工房やテーラー取材をはじめ、大学でイタリアファッションの講師を勤めるなど活躍は多岐にわたる。 “ヴィスコンティ”のペンを愛用。Twitterでは毎年開催されるピッティ・ウォモのレポートを配信。合わせてチェックされたし!
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クレジット :
撮影/小池紀行(パイルドライバー/静物)、篠原宏明(取材/東京)、 小野祐次(取材/パリ) スタイリスト/武内雅英(code)  構成/矢部克已(UFFIZI MEDIA)