イメージを壊さず、飽きたといわせず。「続編の心得」とは? 辻村深月のベストセラー小説『ツナグ』に、続編『ツナグ 想い人の心得』が登場!
『アナ雪』から『おっさんずラブ』まで、話題作の続編が相次いだ。パート2は難しい。変化をつければ「前作のイメージを壊した」といわれ、冒険しないと「飽きた」といわれる。小説も同じで、続編を書くことは作家にとって大きなやりがいであるとともに不安もすごいと思う。
ベストセラーとなり、松坂桃李さん、樹木希林さんで映画化もされて、こちらも大ヒットした『ツナグ』。このたび、続編『ツナグ 想い人の心得』が出た。
あの世とこの世をつなぐことができる「ツナグ」と呼ばれる人々。死者に会う話は、涙の癒し系からゾンビ小説までいろんな作家が書いてきたけど、どれも「なんとなくそういうことになった」で物語は始まり、仕組みや決まりごとはほぼ書かれない。そんな中、「どういうことになっているのか」をきちんと自作に課すのがミステリー作家・辻村深月さんの矜持(きょうじ)
だと思う。
依頼のルールは「生者、死者ともに再会は一度、一人きり」「依頼できるのは生者のみ。死者から生きている人間を逆指名することはできない」「死者には面会を断る権利がある」。この縛りがあるからこそ、物語はスリリングに進む。
先日辻村さんにお目にかかる機会があり、ルール設定について聞いてみたら「『ドラえもん』のひみつ道具みたいなものかな」と笑っておられた。
辻村さん曰く「あれらは最初“なんと便利な! これで事態は楽勝だ!”とのび太を狂喜させるけど、使い方を間違ったり、そうすべきではない状況でボタンを押してしまったりして、彼は万能なはずの道具にしっぺ返しをくらう。見えている力に、裏の事態が用意されているんです。これが藤子・F・不二雄先生の素晴らしいところ!」。
おそらく藤子F先生は道具の効能以上に「さあこれをどうやって逆転させ、今回ものび太にままならなさを教えようか」と考えているときが、楽しかったんじゃないかと思う。きっと辻村さんも同じなのだ。
『ツナグ 想い人の心得』では、死者に対してひどい罪悪感をもち、自分など会ってもらえないと思っていた女性があるできごとから、意を決してツナグを呼び出す。もう何十年も面会を断り続けていた死せるお嬢様が、依頼人のあるひと言から、会うことを承諾する。
ルールを破るのではなく、自分で自分の裏をかくような鮮やかさで、物語を前進させる。これぞ、辻村マジック!
続編の成功は、「どんなお話?」も大事だけど、つくり手が次のステージに行こうとしているかどうか、にかかっていると思う。
■『ツナグ 想い人の心得』
著=辻村深月 新潮社 ¥1,500
もう一度だけ、亡くなったあの人に会いたい…。そのせつない願いをかなえることができる使者「ツナグ」となった歩美。長年務めを果たした祖母から役目を引き継いでから7年が経ち、社会人となった彼の元を訪れる依頼者たちの胸に秘めた想いとは。後悔を抱えて生きる人に、一歩踏み出す力を与えてくれる。
- TEXT :
- Precious編集部
- BY :
- 『Precious3月号』小学館、2020年
- WRITING :
- 間室道子(「代官山 蔦屋書店」文学コンシェルジュ)
- EDIT :
- 宮田典子(HATSU)、喜多容子(Precious)