都会でも田舎でもない、典型的な「郊外」で育った私は、恥ずかしい話、高校を卒業するまで、外食といえばロードサイドのチェーン店以外をほとんど知りませんでした。その反動からか、ローカルなカルチャーに対するあこがれは人一倍強いような気がします。東京に出てきてからも、そういったローカルな空気を感じとれる街ばかりに暮らし、お気に入りの店をつくってきました。

東京の美学や文化を摂取できる場所

人形町駅のすぐ近くに構える、約100年の歴史を誇る江戸前寿司の老舗。威風堂々たる看板からもその歴史が見て取れる。店内の雰囲気も実に味わい深くここちよい。実はファッション業界にもファンが多く、食通で鳴らす粋人たちが行きつけにしている。
人形町駅のすぐ近くに構える、約100年の歴史を誇る江戸前寿司の老舗。威風堂々たる看板からもその歴史が見て取れる。店内の雰囲気も実に味わい深くここちよい。実はファッション業界にもファンが多く、食通で鳴らす粋人たちが行きつけにしている。

格式ありつつ堅苦しくないたたずまい 

創業者・油井㐂太郎氏の名前からとった「㐂寿司」は油井一浩氏が4代目を受け継いでいる。伝統を誇る名門だが、接客は物腰やわらか。穴子、玉子、かんぴょう巻き/ふわふわの穴子に濃厚なツメをたっぷりとかけた握り、シャリを挟みこむように握った玉子、締めにぴったりなかんぴょう巻き。いずれも江戸前の味を堪能できる。

老舗の中には観光客であふれかえっていてがっかりしてしまう店も多いのですが、人形町の「㐂寿司」は、今でもお店とお客さんとの阿吽(あうん)の呼吸によって、昔ながらの風景が守られているお店。

私にとって、ちょっと背伸びしながらここでお寿司をいただくことは、たんなる食事ではなく、東京の美学や文化そのものを学ぶというか、摂取することなのです。

昔のTVドラマで見たような風格のある店構え、墨いかの歯ごたえ、濃厚な煮詰め、粋な玉子焼き、しのごの言わない職人さん、そして無音の店内に漂う、静謐な空気……。

東京ローカルの人にこんなことを言ったら笑われてしまいそうだけれど、このお店にお邪魔していると、「東京のひと」に一瞬だけ仲間入りできたような錯覚にかられるのです。(談/山下英介)

問い合わせ先

  • 㐂寿司 TEL:03-3666-1682
  • 営業時間/平日11:45~14:30、17:00~21:30、土曜11:45~14:30、17:00~21:00 日曜・祝日休(月曜が祝日の場合、日曜11:45~14:30で営業)

※2019年秋号掲載時の情報です。 営業時間などの詳細は、店舗HPなどでご確認ください。

この記事の執筆者
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MEN'S Precious編集部 
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MEN'S Precious2019年秋号より
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中西一朗