仕事柄、「また乗ってみたい車は何か」とよく訊かれる。間違いなく、『ダブルシックス』は候補のひとつだ。私が以前乗っていたのはジャガー『XJ』シリーズのコンヴァーティブルだったが、デイムラー伝統のフロントグリルを持つ『ダブルシックス』は、流麗な曲線を描くボディ、磨き抜かれたウォールナット、華奢なステアリングなど、英国車らしさを色濃く宿している。

失われた美しき英国の象徴は移動の時間を特別なものに変える

デイムラー『ダブルシックス』

1893年創立の、英国最古の自動車メーカー〝デイムラー〟は、1960年に〝ジャガー〟傘下に。以後、〝ジャガー〟『XJ』をベースにV12エンジンを搭載したモデルが、『ダブルシックス』とされた。中古車相場は250万~500万円。写真のモデルはシリーズⅢと呼ばれる後期型の1991年式。(撮影協力/BALANCE)
1893年創立の、英国最古の自動車メーカー「デイムラー」は、1960年に「ジャガー」傘下に。以後、ジャガー『XJ』をベースにV12エンジンを搭載したモデルが、『ダブルシックス』とされた。中古車相場は250万~500万円。写真のモデルはシリーズⅢと呼ばれる後期型の1991年式。(撮影協力/BALANCE)

最大の特徴は『ダブルシックス』の名のとおり、5343㏄の12気筒エンジンだ。伝説のジャガー『Eタイプ』に搭載されたエンジンの進化型で、ここに英国車のエッセンスが凝縮されている。

エンジンをかけると、その車は野生の獣が眠りから覚めるように動き始める。12気筒の動きは飽くまでスムーズで滑らかだ。爆発的なパワーを求めるときも、優雅にアクセルペダルを踏むだけで、必要十分なパワーが大容量のエンジンから供給される。

それは失われた美しき英国の象徴であり、ある種の車が贅沢の象徴であった時代の残り香がこの車にはある。『ダブルシックス』で移動する時間は、今ではすべてが特別に感じられることだろう。(文・長谷川喜美/ジャーナリスト)

※2019年秋号掲載時の情報です。

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MEN'S Precious編集部 
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MEN'S Precious2019年秋号より
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戸田嘉昭(パイルドライバー)