仕事柄、「また乗ってみたい車は何か」とよく訊かれる。間違いなく、『ダブルシックス』は候補のひとつだ。私が以前乗っていたのはジャガー『XJ』シリーズのコンヴァーティブルだったが、デイムラー伝統のフロントグリルを持つ『ダブルシックス』は、流麗な曲線を描くボディ、磨き抜かれたウォールナット、華奢なステアリングなど、英国車らしさを色濃く宿している。
失われた美しき英国の象徴は移動の時間を特別なものに変える
デイムラー『ダブルシックス』
最大の特徴は『ダブルシックス』の名のとおり、5343㏄の12気筒エンジンだ。伝説のジャガー『Eタイプ』に搭載されたエンジンの進化型で、ここに英国車のエッセンスが凝縮されている。
エンジンをかけると、その車は野生の獣が眠りから覚めるように動き始める。12気筒の動きは飽くまでスムーズで滑らかだ。爆発的なパワーを求めるときも、優雅にアクセルペダルを踏むだけで、必要十分なパワーが大容量のエンジンから供給される。
それは失われた美しき英国の象徴であり、ある種の車が贅沢の象徴であった時代の残り香がこの車にはある。『ダブルシックス』で移動する時間は、今ではすべてが特別に感じられることだろう。(文・長谷川喜美/ジャーナリスト)
※2019年秋号掲載時の情報です。
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2019年秋号より
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- PHOTO :
- 戸田嘉昭(パイルドライバー)