W108型は、幼いときにわが家で使っていたモデルだ。もっとも『280S』ではなく、排気量の若干小さな2・5リッター6気筒SOHCの『250S』だったが。W108型は1972年に登場する、『Sクラス』と呼ばれる前のフラッグシップサルーンであり、象徴的な縦目のヘッドライトを装着した最後の世代でもある。

つくりのよさは折り紙付き!時代の頂点を走ったプレ・Sクラス

メルセデス・ベンツ『280S』

縦2灯のヘッドライトやクロームのダブルバンパーが古きよき時代の品格を漂わせるW108型。角張ったキャビンは居住性に優れ、車内からの見晴らしもいい。写真のモデルは1972年式で、オーナーの希望でヘッドライトをアメリカ仕様(ウィンカーの部分が色付き)に変更している。中古車相場は300万~700万円。
縦2灯のヘッドライトやクロームのダブルバンパーが古きよき時代の品格を漂わせるW108型。角張ったキャビンは居住性に優れ、車内からの見晴らしもいい。写真のモデルは1972年式で、オーナーの希望でヘッドライトをアメリカ仕様(ウィンカーの部分が色付き)に変更している。中古車相場は300万~700万円。

印象に残っているのは、大柄なのに小回りが利いて乗りやすく、狭い坂道もスイスイと走るところ。父はいとも簡単に切り返しをしていたようだったが、この機動性の高さは、現在でも十分通用する。

ドイツ好きの父はカメラや双眼鏡と同様にW108型のつくりのよさに惚れ込んでいた。ワイン色の合成皮革のシートはMBテックスという特殊な素材で、父は「革のようだけど汚れにくい」と、絶賛していた。初めて嗅ぐ特殊な人工皮革のにおいはなんとも新鮮だった。

そんな室内での私の指定席は後席のみだが、子供ながらにその快適な乗り心地に凄いクルマだなぁと感じた。小回りが利き、たたずまいがエレガントで室内はエアコンも効くとなれば、何も足りないものはない。(文・松本英雄/自動車テクノロジーライター)

※2019年秋号掲載時の情報です。

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MEN'S Precious編集部 
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MEN'S Precious2019年秋号より
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戸田嘉昭(パイルドライバー)
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