ボブ・ディランの楽曲を大胆に使ったミュージカル『北国の少女』(Girl From The North Country)を紹介したのは一昨年の夏。その年の9月から始まるオフ・ブロードウェイ公演を前に、同年の春に観たロンドン公演の模様をリポートした(苗場の次はN.Y.へ! 【フジロック2018】最注目アーティスト「ボブ・ディラン」の楽曲を使ったミュージカルが話題!)。その時に、「オン(ブロードウェイ)への移行もあり得ない話ではない」と予測したが、この2月、いよいよブロードウェイでプレヴューを開始、3月5日に正式オープンした。
オフ公演を経て風格の出てきた『北国の少女』
所はディランの生まれたミネソタ州デュルース、時代はディランの生まれる1941年より前、大恐慌の爪痕が深く残る1934年。
「田舎町の、とある宿の食堂に集う人々が、それぞれ解決できない問題を抱えたまま、現れ、去っていく、という群像劇で、歌はセリフとナレーションの狭間で渦巻き、時に彼らの心情を代弁し、時に彼らを叙事的に描く。ディランの楽曲が無名の歌として改めて世に解き放たれ、救済を求めて彷徨う魂たちに呼応する。そんな感触を覚えた。」というのがロンドン公演の感想。
オフ公演を経てのブロードウェイ公演も、基本的な印象は変わらない。ただ、役者もオフとほぼ同じなのだが、オフの時には地味かなと思った舞台が、おそらく細部が洗練されたせいだろう、風格を備えてきた。これならトニー賞に絡んできてもおかしくない。楽しみだ。
なお、このミュージカルで使われている楽曲のディラン・ヴァージョンのプレイリスト「DRAFT Bob Dylan-The Music Which Inspired Girl From The North Country」がボブ・ディラン本人の名義でSpotifyに上げられている。ディラン楽曲としては目立たない作品も多いので興味深いと思う。よろしければご一聴を。
ガールズ・グループがノリノリでディスり合う『シックス』
『シックス』(Six:The Musical)は、昨年6月にロンドンを訪れた際にチケットが取れずに観逃した作品。とはいえ全公演ソールドアウトとかってわけじゃなく、2~3日後なら買えると劇場窓口で言われた。実は、ロンドン公演が行なわれているアーツ劇場は、ウェスト・エンドとは言いながらも席数350程度の小さな劇場なのだ。一方、ブロードウェイでの公演場所ブルックス・アトキンソン劇場の席数は1,094。約3倍だ。それでディスカウント・チケットも出さずに(当日半額チケットは出ているようだが)連日満席に近い売れ行きを示しているのだから、ニューヨークでの当面の人気のほどがうかがえる。ブロードウェイ入りを前に行なった昨年の北米(アメリカ・カナダ)ツアーや、今年に入ってのオーストラリア、ニュージーランド公演で話題を盛り上げてきた成果だろう。
この作品、演劇と言うより、ほぼコンサート。既成の作品で言えば、オフのヒット作で日本で翻訳公演が行なわれたこともある『アルター・ボーイズ』(Alter Boyz)に似ている。
出演するのは、ヘンリー8世の妻に扮する6人の女優。全員が、デザインが違ってはいるが、どことなく中世の戦闘服を思わせる、それでいて人形っぽい派手な衣装を着ている。そんな、どう見てもアイドル的ガールズ・グループな彼女たちが競い合うのが、誰が一番ヘンリー8世に対する影響力を持っていたかという案件。で、1人ずつ自慢が始まり、周りは隙を見てディスるという丁々発止が、4人の女性バンド(キーボード、ギター、ベース、ドラムス)をバックに、ノリノリの歌とシャープな踊りで繰り広げられる。
最初の妻との離婚のためにローマ・カトリック教会と袂を分かったヘンリー8世のことを事前に調べておけば、さらに楽しめるはず。予習をオススメします。
上演日時および劇場は下記サイトでご覧ください。
『北国の少女』
『シックス』
※ブロードウェイの全劇場は3月12日から4月12日までクローズされています。最新情報は公式HPなどでご確認ください。
- TEXT :
- 水口正裕 ミュージカル研究家
公式サイト:ミュージカル・ブログ「Misoppa's Band Wagon」