フジロック参加で話題になったボブ・ディランだが、それよりも前に、ボブ・ディランの楽曲を使ったミュージカル『北国の少女』が話題になったのを知っているだろうか。元々は2017年の夏から秋にかけてロンドンのオールド・ヴィク劇場で上演。その後、ウェスト・エンドのノエル・カワード劇場に移って、同年12月29日から今年の3月24日まで12週間の限定公演を行なった。その公演を観た。

ボブ・ディランの楽曲を使用した話題作『北国の少女』/Girl from the North Country

ロンドンで公開された舞台、『北国の少女』より。写真:Shutterstock/アフロ
「ロンドンのノエル・カワード劇場と劇場街に掲げられたポスター」

 そもそもは、アイルランドの脚本家/演出家のコナー・マクファーソンに、ボブ・ディランの楽曲を使って舞台作品を作ってもらえないだろうか、という依頼が、ほかでもないディラン・サイドからあったのがきっかけだと、ウェスト・エンド公演のプログラムにマクファーソン自身が書いている。数日考えた末、マクファーソンは、ディランの生まれたミネソタ州デュルースを舞台に、時代はディランの生まれる1941年より前、大恐慌の爪痕が深く残る1934年のドラマを書くことにした。ちなみに、設定や使用楽曲についてディラン・サイドに提案したところ、全て任せるとの返答だったらしい。

 田舎町の、とある宿の食堂に集う人々が、それぞれ解決できない問題を抱えたまま、現れ、去っていく、という群像劇で、歌はセリフとナレーションの狭間で渦巻き、時に彼らの心情を代弁し、時に彼らを叙事的に描く。ディランの楽曲が無名の歌として改めて世に解き放たれ、救済を求めて彷徨う魂たちに呼応する。そんな感触を覚えた。

7月29日にフジロックに初出演した世界的アーティスト「ボブ・ディラン(Bob Dylan)」

1966年にアメリカのスタジで撮影された1枚。写真:Shutterstock/アフロ

 ちなみに、楽曲は新旧様々な時代から選ばれており、一般的な評価の低い70年代後半から80年代にかけての楽曲も多い。例えば、作品中重要な位置を占める「Tight Connection To My Heart(Has Anybody Seen My Love)」は、あまり顧みられることのない1985年のアルバム『エンパイア・バーレスク』からのナンバー。そういうディラン楽曲の再評価という意味でも興味深いミュージカルだ。

 そんな『北国の少女』が、ディランにとっては第二の故郷とも言うべきニューヨークで幕を開ける。劇場は、ロンドンでオリヴィエ賞を競い合った『ハミルトン』のオリジナル・プロダクションがニューヨークで最初に上演された、オフのパブリック・シアター内ニューマン劇場。ということは、将来的には『ハミルトン』同様オン(ブロードウェイ)への移行もあり得ない話ではない。

 とりあえず、9月11日から11月4日までの限定公演として予定されている。

夏から秋にかけてブロードウェイに登場する新作ミュージカル群

 『北国の少女』の公演は、前述したようにオフの小規模な劇場で行なわれることもあって、すでにチケットは入手困難かもしれない。が、当日のキャンセル待ちという手もあるので、ぜひトライしていただきたい。

 同時に、その時期、ニューヨークではブロードウェイに新作ミュージカルがドッと登場してくるので、併せて観劇計画を立てるといいかも。

 リストを挙げておく。

①『ヘッド・オーヴァー・ヒールズ』(Head Over Heels)上演中
②『ゲッティン・ザ・バンド・バック・トゥゲザー』(Gettin' the Band Back Together)上演中
③『プリティ・ウーマン』(Pretty Woman:The Musical)上演中
④『キング・コング』(King Kong)10月5日上演開始予定
⑤『ザ・プロム』(The Prom)10月23日上演開始予定
⑥『ザ・シェール・ショウ』(The Sher Show)11月1日上演開始予定

 いずれも現時点では未見なので評価はできないが、とりあえずプロダクション発表のデータを元にわかる範囲で説明しておくと、次の通り。

①ゴー・ゴーズの楽曲を使ったミュージカル。ちなみに、作品タイトルになった楽曲のヒット当時の邦題は「キッスに御・用・心」。
②ボン・ジョヴィに憧れていた中年男がひょんなことからバンド合戦に出場することに。楽曲作者マーク・アレンはブロードウェイ・デビュー。
③同名ヒット映画の舞台ミュージカル化。ブライアン・アダムズが楽曲作者で参加しているのが話題。
④あのキング・コングが映画のようにブロードウェイの劇場に登場。マリウス・デ・ヴリーズとエディ・パーフェクトの英豪コンビの楽曲。
⑤『ウェディング・シンガー』や『エルフ』の楽曲作者、マシュー・スクラー(作曲)×チャド・ベギリン(作詞)の作品。
⑥公開間近の映画『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』への出演でも話題のシェールのバイオグラフィ的ミュージカル。

 この秋は、ぜひニューヨークの劇場へ! 9月24日からはメトロポリタン・オペラも開幕します。この機会に豪華絢爛なオペラも一緒に楽しんでみてはいかがでしょうか。

『北国の少女』の情報はこちらから

※『北国の少女』はチケットの売れ行きが好調のようで、上演期間が12月9日まで延長された。 

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この記事の執筆者
TEXT :
水口正裕 ミュージカル研究家
2018.9.14 更新
ブロードウェイの劇場通いを始めて30年。オンのミュージカルは99.9%網羅。たまにウェスト・エンドへも。国内では宝塚歌劇、歌舞伎、文楽を楽しむ。 ミュージカル・ブログ「Misoppa's Band Wagon」(https://misoppa.wordpress.com/)公開中。 ERIS 音楽は一生かけて楽しもう(http://erismedia.jp/) で連載中。
公式サイト:ミュージカル・ブログ「Misoppa's Band Wagon」