会場となったのは、カルーゼル・ド・ルーヴル。よくパリコレの会場となる場所だが、アクネ ストゥディオズが披露したのはこの会場をしきりの壁で半分にわけて、ウィメンズとメンズを同会場で同時開催というもの。一方を見えないように、壁で隠して、ウィメンズ・コレクションの招待客はウィメンズ・コレクションのみ、メンズ・コレクションの招待客はメンズ・コレクションのみ観覧できるというちょっとトリッキーな上演方法だった。
AIが切り開くファッションの新しいスタイル
しかし、コレクションはその上演方法をも超える驚きの製作方法。
今回は、ニューラル・ネットワークというアルゴリズムの作者であり、AIアートのアーティスト、そしてまだ20代前半という若さであるデジタル界の鬼才ロビー・バラットとのコラボなのだ。
ロビーが一躍時の人となったのは2018年のこと。ロビーが作った誰でも利用できるオープンソースのAIコードを使って、パリのアート集団Obviousが描いた絵画「ベラミ家のエドモン・ド・ベラミ」がクリスティーズのオークションで43万2,500ドル(約4,714万円/1ドル=109円で換算)で落札されたのだ。当時他人が作ったコードで描いた絵画に自らの名前をクレジットして利益を得るのは倫理に沿っているか、著作権は誰にあるのかなど、様々な議論を巻き起こしたが、アメリカの片田舎の青年だったロビーが世界的に脚光を浴びる事になったのは間違いない。
ニューラル・ネットワークは自動運転システムに組み込まれるものだが、この生成ネットワークと識別ネットワークを使ってアート作品を作る。
「AIが人間の創造性に更なる自由をもたらすツールだと知ることができたのは驚きでした。そこで今シーズンは、現実に根ざしながらも、AIがファッションにもたらす進化の可能性を提示できるような、そんなコレクションを製作しました」と、アクネ ストゥディオズ、クリエイティヴ・ディレクターのジョニー・ヨハンソン。
ロビーのニューラル・ネットワークが、「アクネ ストゥディオズ」の過去シーズンの何千枚ものルックを識別し、さらに新たなルックを⽣み出した。
アクネ ストゥディオズがパリで発表した2020-21年秋冬メンズコレクション
ウールのダブルフェイスコートには、歪んだスネークスキン柄をプリントし、同柄のジャケットにはハンドテーラリングを取り⼊れている。
テーラードジャケットは、前開き部分の下半分が曲線でくり抜かれている。
上下逆さまに着ているような濃青⾊のシャツは、無数のシャツのCADデータをAIにフィードした結果、⽣まれてきたデザインだという。
トレンチコートはストームフラップ以外のディテールが⼀切取り除かれ、⻑さ違いのドローストリングが⽚⽅は襟元から、もう⽚⽅は腰位置から垂らされている。
AIがレンダリングする時に発⽣する画像のノイズは、ニットウェアに表現されると今までになかった新しい美しさを表現する。
メタリックなジャンプスーツには、解像度⾜らずの写真のようにぼやけたレッドとブルーのチェックをプリント。
AIを、デザインを作りだすためのツールとして利用して、人間の発想とは異なるファッションを発表したアクネ ストゥディオズ。新時代のデザインのあり方について考えさせるコレクションであった。
問い合わせ先
- TEXT :
- 安田薫子 ライター&エディター
公式サイト:Tokyo Now