「なんでこんなことができないの?」「私の指示がなぜ伝わらない?」

この春、職場で新社会人の指導にあたることになり、内心そんな悲鳴をあげている人も多いのではないでしょうか。

自分の部署の新人たちが、一刻も早く一人前になり、職場の戦力として活躍できるようにと、あの手この手で指導したり、ときにはミスのフォローをしたりしているのに、なかなか仕事を覚えてくれない……。

それって、もしかすると、上司のコミュニケーションのとり方に問題があるのかもしれません。というのも、上司が何気なく漏らした一言が、思いがけず部下のモチベーションを下げてしまうこともあるようなのです。

そこで今回は、日本アンガーマネジメント協会理事の戸田久実さんから、部下のやる気を奪うNGフレーズを教わりました。

上司のコミュニケーション能力が問われる!部下のやる気を奪うNGフレーズ4例

■1:「これって常識でしょ?」「普通はこう」

価値観の押し付けは聞く耳を持たれない
価値観の押し付けは聞く耳を持たれない

「価値観は人それぞれ違うもの。ましてや、年代や世代が離れている上司と部下とでは、価値観にギャップがあるのは、ごく自然だといっていいでしょう。

それにもかかわらず、上司から見て、部下が自分の価値観に合わない行動をとったときに、『これって常識でしょ?』『普通はこう』などと自分の基準を押し付けてしまうと、部下の反発を招いてしまいます。

たとえば、遅刻の連絡をLINEで送ってきた部下に対して、『こういうとき、普通は電話するものだよね』と言う上司。

上司にとっては、『遅刻は口頭で伝えなければ失礼』という認識でも、部下は『LINEのほうが迅速で効率的』と思ったのかもしれません。こういうとき、上司は『常識』や『普通』はぐっとこらえて、『次から、遅刻するときは電話で連絡してね』とルールを教えるようにしましょう。

また、部下から思わぬ質問を受けたときにも、『普通』や『常識』を持ち出さないように要注意です。

たとえば、部下が『始業時刻は午前9時なのに、なんで10分も前に出社しないといけないんですか?』と質問したとします。たしかに、早めに出社して準備をするのが当然という上司の立場からすれば、『なぜそんな質問が?』と唖然としてしまうことでしょう。

ただ、ここでコミュニケーションのゴールを見失ってはいけません。相手をやり込め、自分の正しさを証明するのではなく、質問してきた部下に納得してもらい、望ましい行動をとってもらうことが第一です。

『10分前に出社するのが普通、常識』で片付けるのではなく、『私たちの職場では、始業と同時にお客さまから電話がかかってくることもあるし、すぐ対応できるように10分前に出社してパソコンを立ち上げるなど準備をしておく必要があるからよ』など、具体的な理由も含めて回答するようにしましょう」(戸田さん)

■2:「私があなたくらいの頃は、こうだった」

「昔はこうだった」なんて言われても…
「昔はこうだった」なんて言われても…

自分自身、仕事の能力が高い人ほど、できない部下の対応に手を焼いて、「私だったらこうじゃないのに……」とぼやきたくなることはあるのではないでしょうか? しかし、それを部下に対して公言してしまうのはご法度とのこと。

「『私があなたくらいの頃はこうだった』と過去の自分と目の前の部下とを比較するような発言も、おすすめできません。

そもそも過去は過去。現在は現在。その上司が新入社員だった時期と今現在の状況では、働き方に関する価値観も多様化して、職場の環境なども変わってきています。

単純に比較などできないことなのに、『私があなたくらいの頃は~』と言われても、部下としては、古い価値観を一方的に押し付けられたように感じてしまうだけかもしれません」(戸田さん)

■3:「やる気ある?」

やる気の現れ方は人それぞれ
やる気の現れ方は人それぞれ

何度も同じミスを繰り返す。しかも、その点についていくら熱心に指導しても、どうも人の話を右から左に受け流しているような……。覇気がないように見える部下に対しては、思わず「やる気ある?」と詰め寄ってしまいたくなるかもしれませんが、これもNGとのこと。

「やる気は人によって見え方が違います。一見すると覇気がないように見える部下も、単に仕事の進め方がわからず、自分でもどうしたらいいのかと考えあぐねているのかもしれません。

もちろん、上司としては部下に責任感をもって仕事に取り組んでほしい、という一心なのだと思いますが、上司の主観で『やる気がない』と決めつけて、それを責めるような発言は慎んだほうがいいでしょう。

これと同じようなフレーズとして、『意味わかる?』というものがあります。上司が一生懸命、説明しているのに、部下の反応が鈍いようなとき、こう言いたくなるのかもしれませんね。

ただ、部下の反応が鈍いのは、上司の説明を自分のなかで消化しきれず、質問しようにも質問できない状況に追い込まれているからだとも考えられます。そういう状況で、『意味わかる?』と責め口調で言われても、部下としては何も返せないのではないでしょうか。

覇気がなかったり、反応が鈍かったりするように見える部下に対しては、『ここまでで理解できないことはある?』と、相手が一体どこでつまずいているのかを丁寧に確認する必要があるでしょう」(戸田さん)

■4:「大丈夫、大丈夫」

安易な「大丈夫」が部下を不安にさせる
安易な「大丈夫」が部下を不安にさせる

ここまでは、どちらかというと、ちょっと困ったタイプの部下に対するNGフレーズを紹介してきましたが、逆に、できるタイプの部下に安易にかけてはいけない言葉もあるようです。

「これは若手の女性社員から最近よく聞く悩みです。新しい仕事を任されて不安なときに、上司にその気持ちを伝えても、『大丈夫、大丈夫』としか言ってもらえないと、かえって不安になってしまうといいます。

上司の立場としては、信頼しているからこそ仕事を任せたのでしょうが、不安がっている部下にとって『大丈夫』だけでは、無責任に仕事を丸投げされてしまったようにも感じられるようです。

部下に新しいチャレンジをさせるときには、『○○さんは、先日のプロジェクトでいい働きをしてくれていたから、そのときの経験を今回の仕事にも生かせると思うよ』など、あなただから任せたという、大丈夫の根拠を示してあげるといいでしょう」(戸田さん)

以上、部下のやる気を奪うNGフレーズをお届けしましたがいかがでしたか? 職場全体の士気を上げ、仕事のパフォーマンス向上につなげるためにも、個性豊かな部下たちとうまくコミュニケーションをはかっていきたいものですね。

戸田久実さん
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会理事
(とだ くみ)アドット・コミュニケーション(株)代表取締役。一般社団法人日本アンガーマネジメント協会理事。立教大学卒業後、大手企業勤務を経て研修講師に。銀行・製薬会社・総合商社・通信会社などの大手民間企業や官公庁などで「伝わるコミュニケーション」をテーマに研修や講演を実施。近年では、大手新聞社主催のフォーラムへの登壇やテレビ出演など、さらに活躍の幅を広げている。
公式サイト
この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
WRITING :
中田綾美