今月のMs.Precious……横浜市在住、45歳。関西の国立大学を卒業後、大学院から東京に。卒業後は国内大手化粧品会社の研究所で主にアイシャドウや口紅などのメイクアップアイテムの開発に携わる。学生時代から趣味はクルマ。社会人になってから大型二輪免許も取得するも、通勤はワークアウトも兼ねてもっぱらロードバイク。30代後半で結婚し、休日はパートナーと一緒に近場から遠方まで、キャンプ場とサウナを巡るのがいつものパターン。バイクも含めBMWを乗り継いできたが、今回は「荷室が大きいものがいいのですが、速いものを。SUVではなく、ツーリングタイプでお願いします」とリクエスト。

今月のクルマ……【BMW M5 ツーリング】
「スポーティセダンと言えばBMW」。1960年代から連綿と爽快なドライビングプレジャーを追求してきたこのドイツブランドは、モータースポーツとも関係が深い。レース部門として始まった「BMW M」社は、「よりレースに直結したピュアな存在M3」と「本格的なスポーツエンジンをプレミアムセダンに積むM5」を80年代に生み出した。2000年代になるとF1の技術を導入したV10エンジン搭載するなど、歴代のM5は常にテクノロジーで攻めている。今回紹介する「M5 ツーリング」の初代がこの世に登場したのは1992年のことで、それは大半が手作業によってわずか891台の生産というレアモデルだった。その後も「プレミアムカー」「モータースポーツの血統」、そして「趣味にも旅行にも使える積載能力」の3つを併せ持つという、いわば究極の存在として、憧れの視線を集めつつ現在に至る。

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「インパクトのあるこの色、アイル・オブ・マン・グリーンというカラー名なんですって。グレートブリテン島とアイルランド島に囲まれたアイリッシュ海の中央に位置する島"マン島"の緑という意味なのです」(Ms.P)

「女性っぽくないチョイスかもしれませんが、妙に惹かれてしまいました」――Ms. Precious

松任谷 はじめまして。

Ms.Precious はじめまして。プレシャスの連載、拝見してます。

松任谷 えっ? このページですか?

Ms.Precious はい。このクルマの連載。いろいろな方が出ていらっしゃいますよね。

松任谷 そうですね。クルマを前にすると、普通では見られない顔が拝見出来たりします。

Ms.Precious 意外、と思われたりするのでしょうか?

松任谷 でも、もうご存じと思いますけど、最初にある程度のリクエストを頂いてからクルマを持って行くので、想像がつくといえばつくんですけど……。

Ms.Precious どうやってクルマを選ぶんですか?

松任谷 そこは編集の意向もあったりして。

Ms.Precious なるほど、松任谷さんの一存ではないわけですね?

松任谷 そうですね。僕の一存だけだと連載はあっという間に終わってしまうかも、ですね。

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「色は想定外に華やかでしたが、1時間もしたら見慣れてきました。あまり他の人と被らなくていいですね」(Ms. P)

「面白いものは面白がらないと。自分のスタイルを持つことで楽しみを減らしているのは損かも」――松任谷

Ms.Precious 松任谷さんの趣味はなんとなくわかるような気がします。ばらばらなようで一貫してらっしゃいますよね。

松任谷 えっ? 怖いなあ。そんな風に見えますか?

Ms.Precious でも、ご自分ではそう思われてないですか?

松任谷 うーん、わからないなあ。昔は美意識は狭い方がかっこいい、なんて思っていたけど、ある時逆転してしまったんですよね。

Ms.Precious というと?

松任谷 面白いものは面白がらないと損だ、みたいな。

Ms.Precious 流行りのものはとりあえず試す、みたいなことですか?

松任谷 まさにそうですね。自分のスタイルを持つ、と思うことで楽しみを減らしているような気がしまして。もう、ティーンが読むようなファッション誌に影響されたり、とか。

Ms.Precious それは素晴らしいことですね。気付かれたのはいつ頃ですか?

松任谷 そうですね、ここ20年とか、そんなもんですよ。

Ms.Precious それでも、ご自分で思われているほど、ばらばらに見えていないから大丈夫ですよ。

松任谷 そうですかねえ。痛い老人に見えてはいませんか?

Ms.Precious 他人からはそう見えていないから大丈夫です。で、これが噂の……?

松任谷 ですね。M5 ツーリング。まだ3000キロしか走っていない広報車両です。

Ms.Precious こんなクルマをリクエストして驚かれたでしょう?

松任谷 正直、そうですね。女性っぽくないチョイスだなあ、と。どこかで何かの記事でも読まれたのですか?

Ms.Precious 教えましょうか。松任谷さんのクルマの番組です。

松任谷 げっ! あれをご覧になったのですか?

Ms.Precious 拝見しました。で、妙に惹かれてしまったんですよね。

松任谷 僕、あまりいいことを言った記憶が無いんだけど……。

Ms.Precious 確か、奥が深すぎて自分ではわからない、というようなことをおっしゃってました。

松任谷 ああ、そんなことを言ったかなあ。

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「このお顔は賛否両論のようですが、私は全然アリです。特にこのブラックの締め色、むしろ好みど真ん中、クセツヨな感じが好きです」(Ms.P)

「BMWの奥深さを感じさせるクルマです」――松任谷

Ms.Precious 私、そういうものが好きなんです。旅でも、ゴージャスなホテルに泊まり歩くのではなく、その地の文化に触れてみたいというか、奥底にあるものに興味が湧くタイプというか。

松任谷 簡単に想像がつくようなものにはあまり興味がない、と?

Ms.Precious そうですね。今はインターネットで何でも疑似体験出来てしまう時代だから。

松任谷 そういう意味では、このクルマはBMWの奥深さを感じさせるクルマでしたね。

Ms.Precious どこがミステリアスでしたか?

松任谷 まあ、言ってしまえば全てです。デザイン、作り、走り……もう全て。

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「リアも素敵。ツーリングなので当然ながら荷物もたくさん積める。私はキャンプ道具やロードバイクも運びたいから、それはうれしい」(Ms. P)

Ms.Precious BMWはよくお乗りになっていたでしょう?

松任谷 そうですね。自分でも何度か所有して知っていたつもりだったんですが、実を言えば数年前から、あれ?と思うようなクルマをリリースしたりして。

Ms.Precious どんなクルマですか?

松任谷 XMとか。まあこのM5のベースにもなったクルマと言ってもいいのかな。デザインなんてもう僕の理解出来る範囲ではなくなってしまって……。

Ms.Precious なんとなくわかります。でも私、あのクルマも好きです。

松任谷 えっ? そうなんですか? そんなことをおっしゃる女性は初めてです。どんなところがお好きなんですか?

Ms.Precious 一言で言えば冒険心、でしょうか。誰もやったことのないことをやる、というか。

松任谷 BMWにはシンプルでクリーンなイメージを持っていたので、あの賑やかすぎるデザインが僕には理解出来なかったのかもしれません。

Ms.Precious BMWも変わっていきたかったんじゃないでしょうか。全部がそのようなデザインに舵を切ったわけでもないでしょ?

松任谷 よくご存じですね。確かにあのクルマはマーケットリサーチ的な役割があったのかも知れませんね。

Ms.Precious 私は、その世間の風の抵抗のありそうなところに身を置くようなものが好きで……。

松任谷 先鋭的なものがお好き、ということですか?

Ms.Precious 私が内向的な性格だからかもしれません。

松任谷 なるほど。ではこのカラーリングとかもお好きな感じですか?

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「オレンジとブラックのスポーティなシートは何だかゲーミングチェアみたいですね。シートだけ見ても、このクルマ、恐ろしく速そう」(Ms.P)

Ms.Precious 単体では好きですね。グリーンの外装色も、オレンジのシートも。でも私ならこの組み合わせにはしないかな……。

松任谷 ではどういう風に?

Ms.Precious 外装色をこのグリーンにするならインテリアはシックに黒ですね。で、オレンジの内装色を選ぶなら外装色は黒です。

松任谷 あ、僕でもそうするかも……。でも僕は外装色を濃いグレーにして内装色は薄いグレーかな。

Ms.Precious それは想像がつきますね。そのアンダーステイトメント感も素敵だと思います。

松任谷 それにしてもM5が好みというのも凄いな。

Ms.Precious いえ、ですからあの番組で……。

松任谷 スポーツカーはお好きなんですか?

Ms.Precious そういうことで言えば、私は雑食なのかもしれません。いろいろなジャンルのクルマに乗りましたから。でも、やっぱりクルマには自分をどこか知らない世界に運んで欲しいという欲求があるような気がしますね。

松任谷 それは場所、という意味ではなく、影響を受けたい、というような意味でしょうか?

Ms.Precious そうです。

松任谷 ではとりあえず乗ってください。座り心地はどうですか?

Ms.Precious シートは硬めですね。でもこう緩やかにカーブをしていて体を押さえてくれる感じですね。疲れなさそう。

松任谷 スタートボタンを押してください。ハイブリッドだからエンジンはかからないと思うけど。

Ms.Precious はい。

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「M HYBRIDには5つのモード、M MODEは走りの好みに合わせてあれこれ触ってみたい」(Ms. P)

松任谷 どうですか? この派手めなアンビエントライトは? なんと15色のチョイスが出来るんですよ。

Ms.Precious このスタートボタンを押した直後の青と赤のライトが走るのがすごいですね。良くも悪くも……。

松任谷 まあ赤と青はMのアイコンのカラーですからね。外装色内装色と相まって、もはや色だらけになるイメージですね。

Ms.Precious 私、外装も内装も全部黒にしようかしら。そうしたら少しは落ち着くのかな。

松任谷 慣れというのもありますよね。1週間あれば慣れるかと……。

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「コクピットもMシリーズらしく圧強め。見るからに速そうです(実際、とても速いのですが……)」(Ms.P)

Ms.Precious 走りますね。ハイブリッドだからエンジンはかからないのかな。

松任谷 Mハイブリッドボタンで5つのモードが選べますね。最初からエンジンが掛かるモードもあるし、最後まで電気だけ、というモードもあります。

Ms.Precious これ、今はエンジンかかってませんよね? なんだか重い感じがするのはハンドルが重いからかしら。

松任谷 実際にけっこう重いクルマですからね。それを727馬力のパワーで強引に引っ張る感じでしょうか。

Ms.Precious 路面からの音が地響きのように聞こえますね。エンジン音が聞こえないからかな。

松任谷 鉛の入れ物に入ってるような感じですよね。そうは言いながらルーフはカーボンの軽い素材だったりするんですけど……。

Ms.Precious 鉛な感じ、わかります。重くて硬いものの中に入っている感じですね。その割りに横揺れがしますね。

松任谷 確かに低速ではユサユサと揺れる感じはありますよね。でも、スピードを上げると気にならなくなると思います。そこ、入って高速に乗りましょうか。

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「高速のお供は音楽。オーディオはBowers & Wilkinsですね。スピーカーのデザインもエレガントで美しい」(Ms. P)

Ms.Precious はい。えーとETCは、と……。

松任谷 BMWの常でバックミラーの中ですね。でももう入っているから大丈夫です。それから走行モードはセットアップというボタンで結構細かくセット出来るのですが、プリセットも出来るようになっていて、僕さっきステアリングコラムにあるM1ボタンとM2ボタンにあらかじめスポーティーなモードをセットしておきました。よければ押してみてください。

Ms.Precious 飛ばしても?

松任谷 はい、捕まらない程度のスピードで……。

「癖だらけのクルマとも言えるけど、今どき、そういうクルマを手なずけて乗るのもあり」――松任谷

Ms.Precious うわー、速い。凄いですね。ヘビー級なのに素早い。これは味わったことのない感覚です。

松任谷 ボクシングで言えばマイク・タイソンみたいな感じですよね。周りは一発で吹っ飛ぶような強さがあるというか……。

Ms.Precious アクセルペダルが敏感ですね。慣れないとギクシャクしてしまいそう。高速でもこんなに敏感なのがびっくりです。

松任谷 ある意味、癖だらけのクルマとも言えますよね。でも今どき、そういうクルマを手なずけて乗るというのもありかもしれません。

Ms.Precious 私、そういうの好きです。

松任谷 そんな気はしていました。それはひょっとして何にでも言えますか?

Ms.Precious そうですね。自分でもチャレンジャーだと思います。

松任谷 いやあ、なんだか勉強になります。自分はまだまだという事に気付かされました。

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今月のクルマ
【BMW M5 ツーリング】

ボディサイズ:全長×全幅×全高:5,095×1,970×1,515mm
車両本体価格:¥20,480,000(ベース価格)

※掲載商品の価格は、すべて税込みです。

問い合わせ先

BMW

TEL:0120-269-437

この記事の執筆者
1951年、東京都生まれ。1974年 慶應義塾大学・文学部卒。4歳からクラシックピアノを習い始め、14歳の頃にバンド活動を始める。20歳でプロのスタジオプレイヤー活動を開始し、バンド「キャラメル・ママ」「ティン・パン・アレイ」を経て、数多くのセッションに参加。その後アレンジャー、プロデューサーとして松任谷由実、松田聖子、ゆず、いきものがかりなど多くのアーティストの作品に携わる。1986年には音楽学校「MICA MUSIC LABORATORY」を開校。ジュニアクラスも設け、子供の育成にも力を入れている。松任谷由実のコンサートをはじめ、JUJU、平原綾香など様々なアーティストのコンサートやイベントを演出、映画、舞台音楽も多数手掛ける。2021年よりバンド「SKYE」に参加。日本自動車ジャーナリスト協会に所属し、長年にわたり『CAR GRAPHIC TV』(BS朝日・毎週木曜23:00~)のキャスターを務める他、『日本カー・オブ・ザ・イヤー』の選考委員でもある。ラジオ『松任谷正隆のちょっと変なこと聞いてもいいですか?』(TOKYO FM・毎週金曜17:30~)にも出演。好きなもの:朝のお茶の時間、夜の昼寝。
PHOTO :
小倉雄一郎(小学館)
WRITING :
松任谷正隆
EDIT :
三井三奈子