【目次】
【前回のあらすじ】
毎週末のお楽しみ『べらぼう』も、いよいよ後半戦に突入! 吉原の貸本業から出版界に足を踏み入れ、日本橋通油町に店を構えるまでになった蔦重(横浜流星さん)は、羽織を着て歩く姿も店での様子も、当時の”江戸いちばんの町の大店(おおだな)の主人”としての風格が身に付いてきましたね。

第26回のタイトルは「三人の女」。蔦重にとっての3人の女ということですね。「さて、どの3人?」というところがポイントで、ネット上ではさまざまな憶測・推理がなされています。
これまで蔦重に“女”として関わってきたのは、瀬川花魁(小芝風花さん)、一方的だったとはいえ誰袖花魁(福原 遥さん)、そして形式的な夫婦とはいえ蔦重の妻となったてい(橋本 愛さん)なので、この3人のことかと思いきや…。
今回、離縁によって幼い柯理(からまる/蔦重の幼名)を置いて吉原を出て行った実母、つよ(高岡早紀さん)が登場! LOVE関係ではないにしても、女性であることに違いはありません。下野(しもつけ/現在の栃木県)で髪結いとして暮らしていましたが、「米がない!」と蔦重を頼って江戸にやって来たのです。
さらに…「密かに蔦重を想う歌麿も“三人の女”の候補では?」というざわつきも! さて真相は…⁉
さて、この回は“天明の米騒動”を軸に話が展開しました。蔦重の耕書堂は8人の奉公人と蔦重夫婦、そして歌麿(染谷将太さん)と11人の大所帯。おかずの少なさを白飯でカバーしていたため、お米の消費量は相当なものでした。
ところが時は天明3(1783)年。冷夏に加えて浅間山の大噴火による降灰は前回「灰の雨降る日本橋」の通りで、その被害は関東・信州一円に及んだとか。被害が甚だしかった上野 (こうずけ/現在の群馬県)や下野 (現在の栃木県)、信濃(現在の長野県)では凶作から飢饉が起こったほど。日本人の主食であるお米です。コメ不足となれば売り渋りや高値での取引が起こるのは世の常…って、まさに私たちがこの令和7年に経験したような米騒動が起きていたのです! しかもあるところにはある…というのも同じで、一昨年収穫した、いわゆる古古米の安値取引に漕ぎつける蔦重。天明と令和、約250年の時を経ても変わらない…あまりにもタイムリーすぎるエピソードでした。
そして、この第26回のクライマックスは、なんといっても蔦重夫婦の心の通い合い。「出会っちまったって思ったんでさぁ。俺と同じ考えで同じつらさを味わってきた人がいたって」「おていさんは、俺が、俺のためだけに目利きした、俺のたったひとりの女房でさぁ」だなんて。くーっ! 泣けるじゃありませんか。そして、晴れて夫婦として床を共にするふたりの様子を感じとった歌麿の涙にも、また涙なのでした。

【言霊で福を呼び込む!『歳旦狂歌集』って?】
吉原から日本橋へと移った蔦重ですが、弟分としてかわいがり、江戸一の絵師に育てるつもりの歌麿も、当然一緒に日本橋へ。しかし歌麿本人はなぜか浮かない様子です。店には大勢の奉公人がいるし、絵師としての仕事はないし、蔦重夫婦の邪魔もしたくない。なにより蔦重の重荷になるのは不本意です。そんな理由から「店を出て独りになる」と言い出す歌麿でしたが、ようやく巡ってきたのが“ピンチをチャンスに変える男=蔦重”がひらめいた『歳旦(さいたん)狂歌集』での絵師としての仕事でした。
「歳旦」とは1月1日の朝、つまり「元旦」のこと。蔦重は、『歳旦狂歌集』を手にめでたい狂歌を読んで一年の始まりを寿(ことほ)ぎ、浅間山の噴火や米の凶作と、悪いことが続いた前年の厄を払おうという寸法です。現代よりずっと言霊の威力を信じていたのか――言葉遊びが大好きな江戸っ子らしい発想です。
そもそも『歳旦集』は、新年に各連(狂歌人の集まり)ごとに新春の祝い事を表した歌を集めて発行していたもの。そこに黄表紙(大人向けの絵入り娯楽本)の要素を持ち込んだところが、蔦重のオリジナリティというわけです。
そして、この本は歌麿の画力と創作力の発表の場でもありました。天明4(1784)年の正月に発売されたこの蔦重プロデュースの『歳旦狂歌集』は、ほぼ各連ごとに刊行。絵師は歌麿のほか、北尾政美(きたおまさよし)と、歌麿門人千代女(歌麿本人)。これは「弟子がいる売れっ子絵師みたいだろう」という洒落と、「生まれ変わったら女がいい…」という歌麿の本音を吐露した署名なのでした。
翌天明5(1785)年には、四方赤良(よものあから/桐谷健太さん)の四方側(四方連)が、双六(すごろく)仕立ての一枚摺り歳旦狂歌集『夷(えびす)歌連中双六』を出版。版元は蔦唐丸、画工は蔦綾丸と署名されていますが、蔦唐丸は蔦重の狂名、蔦綾丸は歌麿の狂名です。双六は新春の縁起物なので歳旦集の形式としてふさわしいのです。署名脇には、それぞれの狂歌も記されています。
【次回 『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第27回 「願わくば花の下にて春死なん」のあらすじ】
蔦重(横浜流星さん)は、大文字屋(伊藤淳史さん)から、田沼の評判次第では意知(宮沢氷魚さん)が誰袖(福原遥さん)を身請けする話がなくなる可能性を聞かされる。

一方、治済(生田斗真さん)は、道廣(えなりかずきさん)から蝦夷地の上知を中止してほしいと訴えを受け、意次(渡辺謙さん)が密かに進めていた蝦夷地政策のことを知る。田沼屋敷では、佐野政言(矢本悠馬さん)の父・政豊(吉見一豊さん)が系図を返せと暴れ、政言が止めに入るが…。
※『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第26回 「三人の女」のNHKプラス配信期間は2025年7月13日(日)午後8:44までです。
- TEXT :
- Precious編集部
- WRITING :
- 小竹智子
- 参考資料:『NHK大河ドラマ・ガイド べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~ 後編』(NHK出版)/『別冊太陽 蔦屋重三郎の仕事』(平凡社)/『日本大百科全書』(小学館)/『デジタル大辞泉』(小学館) :