世界幸福度ランキングで、3年連続一位に輝いたフィンランドも日本と同じように、連日新型コロナウイルスの脅威にさらされています。3月16日に政府より緊急事態宣言が発令され、3月19日には国境を封鎖、3月27日にはウーシマー(首都圏を中心とする南フィンランド)をロックダウン(4月15日に解除)、戦後初めて国の緊急備蓄倉庫が開かれ、医療物資が病院に運ばれる事態となりました。現在はロックダウンは解除されていますが、5月13日まで緊急事態宣言は引き続き延長となっています。フィンランド政府の緊急事態宣言の発令からおよそ1か月。フィンランドに住む人たちはどのような生活を送っているのか、その様子をレポートします。

緊急事態宣言から1か月経ったヘルシンキの様子をレポート

緊急事態宣言発令直後のスーパーマーケットでは、パニック買いをする人々でトイレットペーパーや缶類の棚は空っぽに。
緊急事態宣言発令直後のスーパーマーケットでは、パニック買いをする人々でトイレットペーパーや缶類の棚は空っぽに。

私とフィンランド人の夫も、自宅でのリモートワークを始めて1か月以上が過ぎましたが、食料の買い出しと健康維持の散歩以外は、外出せず家にいるようにしています。ヘルシンキの街はコンパクトなため、移動は徒歩または自転車で十分ですが、人に会わないのはもちろん、人混みを避け公共交通機関の使用は控えて、人と接触する機会を減らすよう心がけています。フィンランドの企業は、当初は数週間程度のリモートワークの予定でしたが、夏頃まで継続する可能性も出てきています。

根底にある弱者を守る社会の仕組み

フィンランドの大手スーパーマーケット2社、K-SupermarketとS-Markは、新型コロナウイルスに感染すると重篤化するリスクが高いとされる、70歳以上の高齢者や基礎疾患を有する人を対象とした特別な工夫をしています。それは、開店直後の1時間(朝一番)清潔な環境でゆっくりと買い物をしてもらうことで感染のリスクを減らすという取り組みです。

この時間帯は、対象外の人たちにはスーパーの利用を避けるように呼びかけています。対象者の方たちは他の時間帯も入店できますが、さまざまなリスクを考慮し、この時間帯を推奨しています。商品を必要としている人たちに均等に手に入るよう配慮されており、実に良い取り組みだと思います。

各家庭に郵便で届けられたヘルシンキ市によるヘルプラインの案内
各家庭に郵便で届けられたヘルシンキ市によるヘルプラインの案内

ヘルシンキ市の高齢者を対象としたサポートも充実しています。ヘルシンキ市によるヘルプラインの案内は、各公用語であるフィンランド語とスウェーデン語に加え、英語の3か国語で書かれてあり、70歳以上の高齢者で助けが必要な人は、9〜16時の間、電話で相談・話し相手、買い物代行依頼、薬の処方サポートを市が無料で行ってくれるサービスです。買い物代行は、必要なものを伝えることで、玄関前まで届けてくれる仕組みとなっています。

また、全ての80歳以上の高齢者で自宅に住む人を対象に、市職員が電話をかけて困っていることはないかなどの確認サポートを行っているとのことです。もちろん高齢者側からも指定番号に電話をすればサポートが受けられます。

学校は一部の生徒(医療従事者や警察官などの親を持つ子供)を除き、遠隔授業が行われていますが、パソコンを必要とする子供たちへのレンタルを学校が行なっているほか、企業などが学校へパソコンなどの機器を支援しています。また、子供たちが食事に困らないように、無料給食は引き続き継続しています。

女性リーダーの活躍が目立つのはフィンランドでも同じ!

世界最年少34歳のフィンランド首相サンナ・マリン氏(中央)と女性官僚たち
世界最年少34歳でフィンランド首相に就任したサンナ・マリン氏(中央)と女性官僚たち

ここまでのフィンランド政府の対応を振り返ると、非常に迅速で、明確な国の対策と方針を打ち出し、国民への具体的で的確な指示が出されたため、この不安な状況下においてもフィンランド国民は過度な心配をすることなく、事態を冷静に受け止め、政府と社会を信頼して過ごしています。

広がりを見せる地元支援の輪『#supportyourlocal』

飲食店は5月末まで閉鎖(テイクアウトを除く)とあり、多くの店が経営危機に陥っています。

ほとんどのレストランが閉鎖している中でも、一部のレストランはテイクアウトとデリバリー対応をしています。テイクアウトは20%オフで提供しているレストランも多く、「地元のレストランをサポートしよう!」という地元支援の輪が広がりを見せています。

また、自宅まで届けてくれるデリバリーサービス(フィンランド発のWoltやドイツのFoodora)は多くの人が利用しており、数名で営業しているレストランはかなり忙しいようです。自宅までのデリバリーは配達員と顔を合わすことなく、ベルを鳴らして玄関前に置いて行ってくれるので安心です。毎日3食の料理に疲れたときや、息抜きとしてデリバリーをうまく活用しています。

ヘルシンキの老舗カフェエクベリ(Café Ekberg)と人気レストラン、ポンピエール・エスパ(Pompier Espa)からデリバリーした食事で家レストランを楽しんでいます。
ヘルシンキの老舗カフェエクベリ(Café Ekberg)と人気レストラン、ポンピエール・エスパ(Pompier Espa)からデリバリーした食事で家レストランを楽しんでいます。
老舗カフェ・レガッタ(Café Regatta)はテイクアウトのみ。腕が通るだけの窓を設置し営業を続けています。2m間隔を開けて並ぶことも徹底されています。
老舗カフェ・レガッタ(Café Regatta)はテイクアウトのみ。腕が通るだけの窓を設置し営業を続けています。2m間隔を開けて並ぶことも徹底されています。
窓際にテディベアを飾る#nallehaaste (テディベア・チャレンジ)
窓際にテディベアを飾る#nallehaaste (テディベア・チャレンジ)

フィンランド中では、散歩する人たちや世の中の人を励ます目的で、窓際にテディベアを飾る家が続出しています。

「おうち時間」の過ごし方は?

自宅での過ごし方のひとつに、フィンランドならではの、パンやケーキ作りをして楽しんでいます。パンを捏ねて夢中になるとストレスや不安も解消される効果があるようです。皆同じことを考えるようで、スーパーマーケットでは、小麦粉の品薄が続いています。

森で摘んだブルーベリーで作ったパイ。家の庭のリンゴの木の下で家カフェ
森で摘んできたブルーベリーで作ったパイ。家の庭のリンゴの木の下で家カフェ。
フィンランドの定番シナモンロール(コルヴァプースティ)
フィンランドの定番シナモンロール(コルヴァプースティ)

自然の美しさに癒されるフィンランドの人々

とても恵まれていることに、私の暮らす島には美しい自然がそばにあり、目の前にはバルト海と森が広がります。天気の良い日は、健康維持のため森の中を夫と歩きます。森の中は、誰にも会うことなく、自分たちの空間を保てるので、安全で安心して散歩ができるのはとてもありがたいことです。そして、毎日自然からパワーをもらい心身ともに癒されています。

バルト海と夕焼け、20:00

以上、フィンランドの様子をお届けしました。いつまで続くのか?と不安になる毎日ですが、規則正しい生活はもちろん、ストレスを溜めないように、たまには力を抜いてみるのも必要だと感じました。

この記事の執筆者
学生時代7年間のロンドン生活を経て、2015年よりフィンランド・ヘルシンキ在住。ヘルシンキを拠点にライターとして、ライフスタイル・食・デザイン・ファッションなどの分野で活動中。現地コーディネーターとしてフィンランド及びヨーロッパと日本をつなぐコミュニケーション全般に携わる。趣味は、旅行と料理。著書に、『デザインあふれる森の国 フィンランドへ 』(イカロス出版社)がある。
PHOTO :
Janne Räsänen