ストリーミングで観ることのできる舞台映像情報

 世界に広がった様々な公演自粛および人々の外出禁止に合わせて、各国の(主に非営利の)劇場やオーケストラが過去の上演作品のアーカイヴ映像を無料公開し始めている。代表的なところではメトロポリタン・オペラが日替わりで過去作をストリーミング配信中。

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 日本でも、新国立劇場が「巣ごもりシアター」と銘打って同様のサービスを行なっている。国立劇場は、3月に上演される予定で全公演が中止となった尾上菊之助を中心とする通し狂言『義経千本桜』の無観客上演を録画。4月いっぱいの予定で配信してくれている。

『義経千本桜』収録動画の視聴はこちら

 ミュージカルに関しては、iTunesやBroadwayHDなどで舞台映像の課金配信が以前から行なわれている。海外仕様なので日本語字幕等はなく、手続きもやや面倒な場合があるが、渡航して観ることを思えば、それも楽しみの内かも。Playbillのページが情報をよくまとめてあり便利です。

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傑作ミュージカル映画を脇道から検証してみる

 そうした劇場系映像とは別に、この機会を利用して、過去の映画ミュージカルをストリーミングで観直しながら細かい視点で楽しんでみよう、というのがこの企画。1回目はAmazon Prime Videoで配信中の『バンド・ワゴン』(The Band Wagon)。

「バンド・ワゴン」(1953) 写真:Photofest/アフロ
「バンド・ワゴン」(1953) 写真:Photofest/アフロ

 1953年のMGM映画で、監督ヴィンセント・ミネリ、制作アーサー・フリード、楽曲アーサー・シュワルツ(作曲)×ハワード・ディーツ(作詞)、主演フレッド・アステア、シド・チャリース。かつてのミュージカル・スターが映画世界からブロードウェイに復帰して紆余曲折の末にヒット作を作り上げる、という話。1974年に作られ大ヒットしたMGMミュージカルのアンソロジー『ザッツ・エンターテインメント』(That's Entertainment!)のタイトル曲は、この作品のために書き下ろされたナンバー。……といった概要は、よく知られるところだろう。

映画『バンド・ワゴン』の再認識ポイントは3つ

【1】ジャック・ブキャナンの芸
【2】1953年のミュージカル世界の空気感
【3】近年にまで及ぶ影響。

 まずは、【1】ジャック・ブキャナンの芸。前述の「That's Entertainment」という楽曲を歌い始めるのが、大物プロデューサー兼演出家兼役者として登場するジャック・ブキャナン。アステアより8歳年長のスコットランド人で、20世紀初頭から舞台、映画で活躍してきたソング・アンド・ダンス・マン。つまりアステアの先輩格。

「『バンド・ワゴン』(1953) 左端がジャック・ブキャナン。写真:Photofest/アフロ」
「『バンド・ワゴン』(1953) 左端がジャック・ブキャナン。写真:Photofest/アフロ」

 その至芸は終盤アステアと組んで歌い踊る「I Guess I'll Have to Change My Plan」で堪能できるが、「That's Entertainment」を歌いだす前にセットの階段を駆け上りながら踏む軽いタップも見逃せない。公開の4年後に亡くなっているが、白鳥の歌と呼ぶに相応しい名演だ。ちなみに、映画が始まって間もなくアステアが歌うナンバー「By Myself」を最初に歌ったのはブキャナン。1937年の舞台でのことだった。主演作、エルンスト・ルビッチ監督の1930年のミュージカル映画『モンテ・カルロ』(Monte Carlo)も機会があれば、ぜひ。

マイケル・ジャクソンや『ラ・ラ・ランド』にも影響が

 続いて、【2】1953年のミュージカル世界の空気感。アステア演じる昔日のスターがハリウッドから久しぶりにニューヨークに戻って劇場街の変容を嘆くシーンがあるが、第二次大戦を経て、経済成長と共にアメリカでは文化の様相も変わりつつあった。この年(現実の)トニー賞ミュージカル作品賞を獲ったのはレナード・バーンスタインの『ワンダフル・タウン』(Wonderful Town)だが(作詞のベティ・コムデン&アドルフ・グリーンは『バンド・ワゴン』の脚本を書いた人たち)、その中に、グリニッチ・ヴィレッジを観光客が訪れて若い芸術家たちのヒップな生態を見物する場面がある。ニューヨークの最新風俗描写だ。

『バンド・ワゴン』(1953) アステアとチャリースによる「Dancing In The Dark」。写真:Photofest/アフロ
『バンド・ワゴン』(1953) アステアとチャリースによる「Dancing In The Dark」。写真:Photofest/アフロ

 映画『バンド・ワゴン』の中で作られるミュージカルにも、その空気感が反映され、前衛的な演出家(ブキャナン)と伝統的なソング・アンド・ダンス・マン(アステア)との軋轢が生まれる。それをコミカルに描くのが、この映画の卓越したところだが、やはり当時流行りだった小説家ミッキー・スピレーンのハードボイルド・タッチはそのまま終盤の長いダンス・ナンバー「Girl Hunt Ballet」に落とし込まれていて、そこは時代色濃厚で別の意味で面白い。

 【3】近年にまで及ぶ影響はいろいろとあるが、まずはマイケル・ジャクソンから。マイケルがアステアをリスペクトしているのは知られた話だが、前述の「Girl Hunt Ballet」の場面を見終わったら、すぐにマイケルの「スムーズ・クリミナル」の動画を観ていただきたい。服装からダンスまで、完全なオマージュであることに驚く。もうひとつ採り上げるなら『ラ・ラ・ランド』(La La Land)。序盤に出てくる丘の上での主演カップルのダンス。服装も振付も違うが、街灯の下で流れるように踊る2人を長回しで撮るところが、『バンド・ワゴン』の名場面中の名場面「Dancing In The Dark」のアステアとチャリースのダンスの撮り方を意識している。ミュージカルのダンス・シーンはこう撮れ、というお手本だ。

 ……と細かいことばかり書いてきたが、まずは稀代の名作ミュージカル・コメディ映画『バンド・ワゴン』をご堪能あれ。近年のワチャワチャ忙しいミュージカル映画に慣らされた方には多少のんびりして見えるかもしれないが、そこが味わい深いところ。That's The Musical Movie!

「バンド・ワゴン」amazon prime videoにて好評配信中

『バンド・ワゴン』(1953) 「Girl Hunt Ballet」より。写真:Photofest/アフロ
『バンド・ワゴン』(1953) 「Girl Hunt Ballet」より。写真:Photofest/アフロ

バンド・ワゴン(字幕版)

この記事の執筆者
ブロードウェイの劇場通いを始めて30年超。オンのミュージカルは99.9%網羅。たまにウェスト・エンドへも。国内では宝塚歌劇、歌舞伎、文楽を楽しむ。 ミュージカル・ブログ「Misoppa's Band Wagon」(https://misoppa.wordpress.com/)公開中。 ERIS 音楽は一生かけて楽しもう(http://erismedia.jp/) で連載中。
公式サイト:ミュージカル・ブログ「Misoppa's Band Wagon」