ストリーミングで観ることのできる舞台映像情報を追加

 世界中の公演自粛および人々の外出禁止に合わせて、各国の(主に非営利の)劇場が無料公開している過去の上演作品のアーカイヴ映像。前回いくつか紹介したが、新たに加えておく(寄付を受け付けている場合もあるので、気に入ったら、ぜひ)。

 まずは、「The Show Must Go On!」というYouTubeのチャンネル。このところ、週1でアンドリュー・ロイド・ウェバー関連のミュージカル映像が配信されている。いずれも48時間限定。

The Shows Must Go On!

 ニューヨーク・シティ・センターの名物「アンコールズ!」シリーズの映像も、断片的ながらミュージカルの映像が数多く公開されている。YouTubeの「Encores! Archives Project」で。

NYCityCenter Encores! Archives Project

 もうひとつは宝塚歌劇。こちらも断片的な編集映像ながら、「おうちでタカラヅカ」という冠で複数公開されている。今後追加されそうな気配もある。

おうちでタカラヅカ

 なお、前回、尾上菊之助による通し狂言『義経千本桜』の無観客上演の配信を紹介した国立劇場では、「おうちでカンゲキ!!」と題して文楽公演の映像を配信している。6月1日まで。

おうちでカンゲキ!!

戦後まもなく公開されて日本人を驚嘆させたヒット映画

 さて本題。過去の映画ミュージカルをストリーミングで観直しながら細かい視点で楽しんでみようという企画の第2弾。採り上げるのは、日本でも今年3月に公開されて話題になった映画『ジュディ 虹の彼方に』(Judy)の主人公ジュディ・ガーランドが主演の『イースター・パレード』(Irving Berlin's Easter Parade)。MGMミュージカル黄金期のミュージカル映画だ(Amazon Prime Videoで配信中)。

『イースター・パレード』から「When The Midnight Choo-Choo Leaves For Alabam」。写真:Getty Images
『イースター・パレード』から「When The Midnight Choo-Choo Leaves For Alabam」。写真:Getty Images

 公開は1948年。日本でも同年に公開され、「カラー・ミュージカルの楽しさは(中略)戦争おわってはじめての大感激とひとはいう。」(双葉十三郎「ぼくの採点表」)との評価に代表されるように、多くの人に驚きを与えたという。製作は前回紹介の『バンド・ワゴン』同様、アーサー・フリード。監督チャールズ・ウォルターズ。主演はジュディ・ガーランドとフレッド・アステア。アステアは撮影開始間際にケガをしたジーン・ケリーに代わって2年前の引退から急遽復帰しての出演、共演者アン・ミラーもやはりケガをしたシド・チャリースの代役、とキャスティングはゴタついたようだが、仕上がった作品から齟齬は感じられない。もっとも、今の目で観ると話はやや退屈。ただし各人の“芸”は盛りだくさん。宝庫と言ってもいい。観どころは、そこ。

 軽妙な「Drum Crazy」や特殊撮影で人力芸を生かす最高例「Steppin' Out with My Baby」でのアステアのダンスについては、ここで付け加えることはない。改めて注目したいのは、ジュディ・ガーランドの“ヴォードヴィル芸”だ。

絶好調時のジュディ・ガーランドの輝き

『イースター・パレード』の設定は20世紀初頭のニューヨークで、登場人物は当時全盛だったヴォードヴィルの芸人。なので、アステア&ガーランドが劇中の舞台で披露するのは、当時のヴォードヴィル芸を髣髴させるパフォーマンス。これが素晴らしい。1899年生まれのアステアはこの時代にリアルタイムですでにスターだった人だが、ガーランドも1922年生まれながら姉2人と共に幼い頃から舞台に立っていて、ヴォードヴィルの最後の隆盛を知る世代。なので、ここでの“芸”はホンモノだ。

『イースター・パレード』から「When The Midnight Choo-Choo Leaves For Alabam」。写真:Getty Images
『イースター・パレード』から「When The Midnight Choo-Choo Leaves For Alabam」。写真:Getty Images

 ガーランド登場シーンの群舞もチャーミングだが、なんと言ってもアステアと組んでの「I Love A Piano」に始まるヴォードヴィル・メドレー。ことに最後のナンバー「When The Midnight Choo-Choo Leaves For Alabam」の後半での2人揃ってのスピーディなシンクロ・ダンスはシビレる。このメドレー、1曲1曲が短いのがもったいないぐらいだ。

 そして極め付きが「We're A Couple Of Swells」。前述のヴォードヴィル・メドレーはリハーサルやオーディション場面をつなぎ合わせたものだが、こちらは舞台上でのフルサイズのナンバー。手動の背景を含め、往時の気分が横溢。風来坊に扮したアステア&ガーランドのソング&ダンスは、とぼけた調子ながら丁々発止で芸を競い合っているようで、熱い。

『イースター・パレード』公開時、ガーランド26歳。『ジュディ 虹の彼方に』が描いた時代のちょうど20年前。撮影の間、トラブルもなく珍しく快調だったという。ジュディ・ガーランド絶頂期の記録と言っていい。お楽しみあれ。

 最後に2つ、追加情報。ガーランドには撮影されながらカットされたナンバーが1曲あり、その「Mr. Monotony」は、後に『ザッツ・エンターテインメントⅢ』(That's Entertainment! Ⅲ)で公開される。共演しているアン・ミラーにとっては、これがMGM映画デビュー作であり、その華麗なタップ・ダンスは「Shakin' The Blues Away」で堪能できる。

イースター・パレード(字幕版)

この記事の執筆者
ブロードウェイの劇場通いを始めて30年超。たまにウェスト・エンドへも。国内では宝塚歌劇、歌舞伎、文楽を楽しむ。 ミュージカル・ブログ「Misoppa's Band Wagon」(https://misoppa.wordpress.com/)公開中。 ERIS 音楽は一生かけて楽しもう(http://erismedia.jp/) で連載中。
公式サイト:ミュージカル・ブログ「Misoppa's Band Wagon」