とっておきの裏話は、手土産にした「わらび餅」
包み紙を見るだけで気が滅入るほど、どら焼きの手土産が続いた、という話や、菜食主義思想にかぶれたヒッピーレボリューションの頃(1960~70年代)の話など、「食」の項目は、文字通り、横尾さんの食の遍歴ともいうべきエッセイになっている。ビジュアルは、うなぎ屋『神田きくかわ 上野毛店』のうな重。苦手だったはずが今はすっかり“うなぎ派”になっているという横尾さんの、贔屓の一食です。
ここでは、そんな食にまつわる美味しい裏話をしましょう。横尾さんのアトリエを訪ねた日、記者が手土産にしたのが、日本橋の老舗和菓子店のわらび餅でした。すると翌日、横尾さんの事務所からこんなメールが届いたのです。
「頂いたわらび餅は本当に美味しいと横尾が感激しておりました。色々な方からわらび餅を頂きますが、横尾がこんなに美味しいと言っていたのは初めてです」
それが、日本橋の『長門』の「久寿もち」。名前は「くず(久寿)もち」ながら使用しているのはわらび粉。ふるふるっとした生地(餅)にきな粉がたっぷりとかけてあり、口の中でとろけていくようなやさしい甘さが広がります。
『長門』の始祖は江戸幕府八代将軍徳川吉宗公の時代から菓子業を営んでいたそうです。そんな長い歴史をもつ江戸風御菓子司『長門』の店には、四季折々、季節にあった和菓子の数々が並びます。そんな中でもこの久寿もちはとくに人気の高い一品。夕方には売り切れになることも多いといいます。「昔から甘いものには目がないが特に和菓子だ」という文章から始まる「食」の項目。そんな大の甘党の横尾さんのお眼鏡にかなった『長門』の「久寿もち」。夏は冷蔵庫で15分ほど冷やしておくと美味とのこと。手土産にはもちろん、まずは、自分でいただいてみてはいかがでしょう。
問い合わせ先
※営業時間などの詳細は、店舗HPなどでご確認ください。
横尾忠則Official Website
- TEXT :
- 堀 けいこ ライター
- PHOTO :
- 島本一男(BAARL)