花火大会の掛け声に「た~まや~」が多いのはナゼ?「玉屋」「鍵屋」の歴史を知ってびっくり!
例年、いまごろは花火大会が盛んですが、今年はコロナ禍の影響で、中止が相次いでいます。夜空を彩る花火と、地上に咲き誇るとりどりの浴衣姿…そんな光景がおあずけなのは寂しい限りですが、本日は、花火にまつわる歴史の話で、教養の花を咲かせることといたしましょう。
さて皆さま、花火大会の掛け声といえば、「た~まや~!」がお馴染みですよね?この掛け声が、江戸時代に大人気であった花火師の屋号で会ったことは、皆様、なんとなくご存知でしょう。「玉屋」と人気を二分した「鍵屋」もある、という知識も、なんとなく知っている…という方も多いのでは?
というところで、本日の1問目です。
【問題1】「贔屓」ってなんと読む?
「贔屓」という日本語の読み方をお答えください。
ヒント:「気に入った者に特に目をかけること」または「後援者。パトロン。」などの意味を持つ言葉です。
<使用例>
「花火大会で『た~まや~』の掛け声ばかりが残っているのは、江戸時代の町人の贔屓の情が影響しているからなのよ。」
…さて、正解は?
※「?」画像をスクロールすると、正解が出て参ります。
正解は… 贔屓(ひいき) です。
さて、ヒントの例文に書いた内容は、真実のようです。
「た~まや~」の掛け声の元にもなった、江戸時代の花火師『玉屋』は、当時すでに大人気の大花火師であった『鍵屋』の七代目がのれん分けした、弟子の屋号なのです。
二家の花火師が活躍した当時、江戸では火災防止のため、花火の打ち上げ場所は両国の大川(現・隅田川)のみが許されていました。『玉屋』の登場以前は、花火と言えばもっぱら、武家や豪商が納涼船を出して『鍵屋』にあげさせるもの、と決まっており、贅沢の象徴だったのです。
しかし『玉屋』が登場してからは、川の上流を『鍵屋』、下流を『玉屋』が担当し、それぞれが創意工夫をこらした2大花火師の競演を、町人たちも楽しみに応援するようになりました。この時、それぞれを応援する掛け声が「た~まや~!」「か~ぎや~!」というわけです。
それまでの経緯もあり、『鍵屋』を贔屓するのは富裕層、町人が贔屓するのは、追いかける立場の『玉屋』だったのでは?と推測されます。
しかしなんと『玉屋』、創業35年で大火事の火元となってしまい、江戸から追放、廃業となってしまうのです…。
…というところで2問目のクイズです。
【問題2】『玉屋』のような者に同情する、という意味の四字熟語といえば?
「弱者や薄幸の者に同情し、味方したり応援したりすることや、その気持ち。」という意味の四字熟語「○○贔屓」の○○に入る言葉を、次の選択肢の中から選んでください。
1:依怙(えこ)
2:判官(ほうがん)
3:観音(かんのん)
…さて、正解は?
※「?」画像をスクロールすると、正解が出て参ります。
正解は… 2:判官(ほうがん) です。判官(はんがん)とも読みます。
「判官贔屓」という四字熟語は、実力があったのに、これをねたんだ兄・源頼朝によって滅ぼされた源義経が「判官」という役職にあったことから来ています。不遇の英雄・義経が、常に悲劇の英雄として庶民に愛され続けてきたことから「判官贔屓」という四字熟語が誕生したのです。
似た表現で『無冠の帝王』という慣用句もあるように、日本人は特に「不遇の英雄」「実力はあるのに悲運な人」に心を寄せる傾向が強いかもしれません。
落語の『たがや』という演目に、江戸時代の町人が二大花火師の競演について詠んだと思われる、以下のような狂歌が出て来ます。
『橋の上 玉屋玉屋の声ばかり なぜか鍵屋と 言わぬ情なし』
最後の「情(じょう)」は、『鍵屋』を暗喩する「錠(じょう)」とかけられた言葉遊びです。完全に『玉屋』贔屓な歌ですよね?
実力はあったのに、一瞬の花火のように短く散る運命となった『玉屋』、廃業後も江戸っ子たちは判官贔屓で、花火があがるたび、もう存在しない花火師の屋号を惜しみ、呼び続けたのではないでしょうか?
さて『鍵屋』ですが、実は現在も15代目が、現役花火師として活躍しておられます(株式会社宗家花火鍵屋)。15代目は女性で、花火師として活躍する傍ら、芸術学博士の博士号も取得されるなど、精力的に活動なさっているようです。
「た~まや~」の掛け声は様式美として残していきたいものの、筆者は『玉屋』『鍵屋』に限らず、目の前であがる花火は誰があげてくれているのか?を知って、掛け声をかける…という形もあっていいのでは?と思います。
本日は、
・贔屓(ひいき)
・判官贔屓(ほうがんびいき/はんがんびいき)
という日本語と、
・花火大会にまつわる歴史トリビア
をお送りしました。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- BY :
- 参考資料:株式会社宗家花火鍵屋ホームページ/落語『たがや』三代目古今亭志ん朝
- ILLUSTRATION :
- 小出 真朱