「時に磨かれ愛され続けたものと暮らしたい」「機能や効率と距離を置いた価値観が心地よい」という思いを、このページを手繰ったあなたなら一度は抱いたことがあるだろう。

とはいうもののクルマの場合、古いものは維持するのに膨大なノウハウと手間を要し、入手は厄介だ。

昔からヒストリックカー愛好家の多い英国で、木骨のフレームを持つスポーツカーやバイク用エンジンを使った三輪自動車をつくり続けてきたのがモーガンだ。そのトップモデル『プラスシックス』は昨年、大幅に刷新されたが、アルミ製フレームの一部には今も木骨が使われている。車体は時間をかけて手づくりで組み立てられているが、その心臓は、実は最新のBMWと共通だ。

初めての一台にモーガンを!

強烈な加速が味わえる英国屈指のスポーツカー

モーガン『プラスシックス』

ハイパワーを受け止めるべく車幅とタイヤは拡大されている。しかし長いボンネットに直立したウインドシールド、後輪のすぐ前に座るレイアウトは昔のまま。細いアルミの骨組みにキャンバスを張った幌はあくまで強い雨が降ったときの緊急用だ。

ドアの上半分は取り外し式で、ひじから上があらわになる。走り出せば、速度の高まりに応じて風にさらされる。モーガンは新車で可能なオープンカーで、最も高い開放感を得られるモデルのひとつだ。日産『フェアレディZ』を上回るパワーに対し、車重はマツダ『ロードスター』と同等程度しかない。動かすだけなら容易いが、横滑り防止装置は備わらないので速く走らせようとすれば相応のマナーが求められる。

アクセルペダルを全開にすると、強烈な加速とともにウインドシールドを越えて熱波が襲ってきた。われわれは車体というカプセルに包まれているだけで、BMWのエンジンには依然として野性が宿っていることに気づかされた。

信頼のおける現代のパワーユニットを得て、何の心配もなくクラシカルなスタイリングとオープンエアを楽しめる。エンジンと運ばれる人以外に何の制約もなく生み出された、スポーツカーならではの走りだ。新しいモーガンからは英国のクルマ文化の伝統と熱い思いを感じた。(文・田中誠司(著述編集者))

モーガン『プラスシックス』

ボディサイズ:全長3,890×全幅1,756×全高1,220mm
車両重量:1,075kg
エンジン:直列6 気筒ツインターボ
総排気量:2,997cc
最高出力:250kW(340ps)/6,500rpm
最大トルク:500Nm
トランスミッション:8速AT
価格:¥12,900,000~(エスシーアイ)※税抜

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MEN'S Precious編集部 
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MEN'S Precious2020年秋号より
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平群政宏