このコロナ禍で、買い控えと強烈な物欲が交互に押し寄せてくる。買い控えとは、コレを手に入れたら、何か昨今の風潮に反しているのではないかという迷い。強烈な物欲とは、「これは着たい」と思う服に出合ったときだ。

今年の春夏ファッションは少し残念な状況になってしまった。コロナの影響はあまりにも大きく、多くの新作アイテムと直に出合うのが難しかった。そんな状況を打破するかのように、香港の名店「アーモリー」の共同オーナー、マーク・チョーさんが以前から自ら着用していた軽快極まるブルゾンを、メイド・トウ・オーダーで日本でも手に入れられるようにしたのだ。マークさんは、3つのポケットをデザインしたブルゾンに『スリーポケットブルゾン』とモデル名を付け、通称『3PB/スリーピービ―』とした。もちろん、企画・デザインはマークさんだ。

サルト銀座店でメイド・トウ・オーダー!

爽やかなリネン素材との相性もいい『3PB』。左胸のポケット、左右の脇ポケットが象徴的なデザインを生み出す。ワークウエアの雰囲気を彷彿とさせる、機能的な形状のポケットだ。
爽やかなリネン素材との相性もいい『3PB』。左胸のポケット、左右の脇ポケットが象徴的なデザインを生み出す。ワークウエアの雰囲気を彷彿とさせる、機能的な形状のポケットだ。
前立てやカフスのボタンホールは、すべて手縫いで仕上げる。繊細なステッチに「アスコット・チャン」の巧みな仕事が垣間見られる。
どの生地を選んでも身頃の裏に付けたオレンジ色のタグが、絶妙なアクセントとなる。
どの生地を選んでも身頃の裏に付けたオレンジ色のタグが、絶妙なアクセントとなる。

英国ブランドの“ドレイクス”のオーナーでもあるマークさんは、かねてから同ブランドのワークウエア『チョアジャケット』を愛用していた。これはあくまでも私の想像だが、『チョアジャケット』からクリエイションを広げ、より軽快なアイテムに行きついたのが、『3PB』ではないのだろうか。ワークウエアの着やすさと気軽さをブルゾンに落とし込んだ感じである。短めに設定した着丈、3つのポケットで象徴的なデザインをつくり上げ、左胸のポケット、左右の脇ポケットが強く印象に残る。

パターンづくりと縫製は、1952年に創業した香港の老舗テーラー「アスコット・チャン」が担当。当地きってのオーターメイド店による手練れの仕事だ。

今、季節は冬真っ只中だが、『3PB』をあえて次シーズンの春夏アイテムとして準備する。

メイド・トウ・オーダーの手順は、まず自分の身体の感覚に合ったXS~Lサイズの『3PB』を着用。そで丈、身幅(ウエスト)、着丈、肩幅の4か所から、各2.5cm程度の修正が可能だ。基本の仕立ては裏地無しだが、そで裏は付けることもできる。『3PB』の象徴的なデザインを損ないかねないため、ポケットの位置や大きさ、襟幅の仕様変更には対応しない。

生地は、「アーモリー」が仕入れるヴィンテージ素材も含め、バンチなどから約2000種以上から選ぶことができる。春夏に向けてのメイド・トウ・オーダーを提案するが、もちろん、多彩な生地から秋冬用のブルゾンとして仕立てるのもいい。『3PB』は、1年を通して着られる軽快なデザインが秀逸だ。

一着あればカジュアルからタイドアップまで着こなせる!

ピッティ会場で『3PB』を着用した、マーク・チョーさん。カジュアルからタイドアップまでの着こなしを楽しんでいるそうだ。
ピッティ会場で『3PB』を着用した、マーク・チョーさん。カジュアルからタイドアップまでの着こなしを楽しんでいるそうだ。

フロントとカフスのボタンホールは、すべて手縫いで施す。サルトリアの服も愛するマークさんの感性を、カジュアルなブルゾンにもさりげなく活かしている。

私にとって今、率直に「これは着たい」と思える服のひとつが『3PB』である。

問い合わせ先

サルト銀座店

TEL:03‐3567-0016

住所/東京都中央区銀座2-6-15 第一吉田ビル2F
営業時間/12:00~18:00(現在、完全予約制)
休業/水曜日
納期/1か月~2か月
※生地で異なるが、平均的な価格は¥85,000~¥95,000

この記事の執筆者
ヴィットリオ矢部のニックネームを持つ本誌エグゼクティブファッションエディター矢部克已。ファション、グルメ、アートなどすべてに精通する当代きってのイタリア快楽主義者。イタリア在住の経験を生かし、現地の工房やテーラー取材をはじめ、大学でイタリアファッションの講師を勤めるなど活躍は多岐にわたる。 “ヴィスコンティ”のペンを愛用。Twitterでは毎年開催されるピッティ・ウォモのレポートを配信。合わせてチェックされたし!
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