欧州でメルセデス・ベンツといえばEクラス、とだいたい相場が決まっている。高い質感と、操縦性、そして(さいきんでは制約も多いけれど)長距離移動に適した快適性と、たいへんバランスのいいクルマだからだ。

2020年9月に、スタイリングや装備など、さまざまな改良を受けた“新型”Eクラスが日本で発売された。「ダイヤモンドグリル」と呼ばれるキラキラと宝石が輝くようなナゲット(小片)で構成されたフロントグリルをはじめ、ちょっとアグレッシブな雰囲気になったつり目のヘッドランプ、そして橫基調になったリアコンビネーションランプなど、ひと目みて新鮮と感じるデザインが採用されたのだ。

がんがん乗って使い倒しても格好いい

全長4955ミリ、全幅1850ミリ、全高1465ミリ。
全長4955ミリ、全幅1850ミリ、全高1465ミリ。
バンパー上から開く大きなテールゲートによる機能主義的デザインは健在。
バンパー上から開く大きなテールゲートによる機能主義的デザインは健在。

ここで紹介したいのは、実用性というEクラスがもっとも得意とする機能をフルに味わえる「E200ステーションワゴン」。全長4955ミリののびやかなボディに、前後長の長いルーフで、荷物の積載量が多く、かつ、リッターあたり12.7キロという好燃費のエンジンで、まさに欧州人のようにがんがん乗って使い倒したい、と自動車好きに思わせるモデルだ。

135kW(184ps)の最高出力に280Nmの最大トルクを持つので、余裕あるボディサイズであるものの、じゅうぶん力強い。BSGとメルセデス・ベンツが呼ぶ、加速時のみ電気モーターが補助してくれるマイルドハイブリッドなので、街中の出足もいいし、高速道路での追い越し加速時の、速度の伸びも期待いじょうにするどい。エンジンは(なんと)1496ccの4気筒ターボとは思えない。

2000年代にドイツ車を中心に、小排気量でも高効率のパワープラントを、という動きが出てきた。昨今は、やたら排気量をしぼればいいというものでもない、と針がまた逆に振れはじめたところあるとはいえ、少なくもE200は1.5リッターで充分だ。

Sクラスで1.5リッターでは、オーナーが“いくらなんでもイメージが”と難色を示すかもしれない。でも従来の自動車の“排気量神話”にしばられず、快適で高効率ならばそれでよし、とする、いってみれば健康的な考えが出来るのがEクラスのふところの深さだ。

歴代Eクラスのいいところが継承されている

ステアリングホイールは新デザインになり、指先の動きでインフォテイメントシステムが操作できる機能追加。
ステアリングホイールは新デザインになり、指先の動きでインフォテイメントシステムが操作できる機能追加。
レザーシートや後席シートヒーター、後席のプライバシーガラスなどからなるAMGラインインテリアパッケージ(オプション)装着モデル。
レザーシートや後席シートヒーター、後席のプライバシーガラスなどからなるAMGラインインテリアパッケージ(オプション)装着モデル。

操縦性は、ザ・メルセデスともいえる、安定して心地よいもの。いちど体験したら病みつきになる独特なステアリングフィールは健在だし、高速走行では足まわりがよく動いて、フラットな姿勢が保たれる。疲労度も少なそうでロングツアラーとしても抜群の性能ぶりだ。

今回は指二本の動きを車内のカメラがとらえて、あらかじめプリセットしたあったコマンドを実行する機能がMBUX(メルセデス・ベンツ・ユーザーエクスペリエンス)に盛り込まれた。

たとえば、旅先。自宅を登録してあれば、無言でさっとVサインをセンターコンソールふきんに出すだけで、ナビゲーションシステムが起動して自宅への道案内が開始される、というぐあい。

加えて「ARナビ」も特筆すべき機能だ。実画像に虚像を重ねて表示するAR(オーギュメンテッドリアリティ)技術が採用されたため、モニターに行き先の画像が映ると同時に、行くべき方向を指し示す矢印が現れる。知らない場所での複雑な交差点などではたいへん便利な機能だ。

乗っていると、自然となじむ。歴代Eクラスで感じた長所がそのまま残っている。新しい技術が利便性を補完してくれるので、日常生活での使い勝手はますますよくなっているだろう。

マイナーチェンジで顔つきは従来よりスポーティな雰囲気になった。とはいえ、Eクラスの身上である“さりげなさ”がいい。このクルマを使いきってこそ、本当の自動車乗りといってもいいようにすら思える。さりげない、とはいえ、E200ステーションワゴン・スポーツの価格は810万円だから、りっぱな高級車である。それは事実だ。

荷室の容量は通常時でも640リッターと大きい。
荷室の容量は通常時でも640リッターと大きい。

問い合わせ先

メルセデス・ベンツ

TEL:0120-190-610

この記事の執筆者
自動車誌やグルメ誌の編集長経験をもつフリーランス。守備範囲はほかにもホテル、旅、プロダクト全般、インタビューなど。ライフスタイル誌やウェブメディアなどで活躍中。