シチリア最高峰、エトナ山北斜面には山肌に沿って小さな集落が点在している。東から順番にPiedimonte Etneo(ピエディモンテ・エトネオ)、Linguaglossa(リングアグロッサ)、Solicchiata(ソリッキアータ)、Passopisciaro(パッソピシャーロ)、Randazzo(ランダッツォ)と続くけれど、特に優秀なワインを生み出しているのがソリッキアータとパッソピシャーロの中間に位置するCastiglione di Sicilia(カスティリオーネ・ディ・シチリア)だ。「エトナ・ノルド」はカスティリオーネ・ディ・シチリアの、小さいけれど意欲的な生産者が集まって作った新しいプレミアム・ワインだ。

シチリア最高峰エトナ山生まれのワイン「エトナ・ノルド」

カスティリオーネ・ディ・シチリア周辺には火山性土壌を利用したブドウ栽培が盛んだ。
カスティリオーネ・ディ・シチリア周辺には火山性土壌を利用したぶどう栽培が盛んだ。

エトナ山には噴火でできたクレーターが大小合わせて実に400以上あり、それぞれ火山岩と火山灰の比率や地形が異なる非常に複雑な土壌を形成している。最高地点の標高は3326mとイタリアの活火山の中でもずば抜けて高いことから高地は冷涼な気候でシチリアのアルプスとも呼ばれ、昼は暑いけれども夜は激しく冷え込み、1日の気温差は30度を超えることもある。

シチリアの太陽を浴びて育ったネレッロ・マスカレーゼは、エトナ山ならではの赤ワインを生み出す。
シチリアの太陽を浴びて育ったネレッロ・マスカレーゼは、エトナ山ならではの赤ワインを生み出す。

温暖な地熱を利用してオレンジをはじめとした柑橘類の大規模栽培が行われている南斜面とは違って北斜面は降雨量も多いのだが、山から海へ常に吹く風がぶどうを病気とは無縁の健康な状態に保ってくれているのだ。

「エトナ・ノルド」の共同経営者の一人ダヴィデ。自らワイナリーを持つオーナー同士が集まって作った新しいブランドだ。
「エトナ・ノルド」の共同経営者の一人ダヴィデ。自らワイナリーを持つオーナー同士が集まって作った新しいブランドだ。

「エトナ・ノルド」の主要メンバーの一人、Davide Di Bella(ダヴィデ・ディ・ベッラ)が所有する5ヘクタールの畑「Tenuta Antica Cavalleria(テヌータ・アンティカ・カヴァッレリア)」はカスティリオーネ・ディ・シチリアのコントラーダ(地区)カヴァレッリアとピエトラマリーナにまたがる標高600mの場所にある。

カスティリオーネ・ディ・シチリアは多くのコントラーダから構成されているが、それぞれ地形も土壌も異なるコントラーダはミクロクリマを形成し、ワインをより複雑かつ個性的でエレガントなものに仕立ててくれるのだ。エトナ山の代表的な品種は黒ぶどうがNerello Mascarese(ネレッロ・マスカレーゼ)、白ぶどうがCarricante(カッリカンテ)だが、ダヴィデが作るネレッロ・マスカレーゼはネッビオーロやピノ・ネロのようなニュアンスがある。事実ダヴィデが目標とするのはブルゴーニュやランゲのエレガントだがタンニンもしっかりとある長熟タイプのワインなのだ。

日本未輸入の優秀なシチリア・ワイン

ダヴィデが作る赤ワイン「ダーム」は熱くて濃いシチリアワインの対極にあるような、エレガントで果実味に富む赤ワイン。
ダヴィデが作る赤ワイン「ダーム」は熱くて濃いシチリアワインの対極にあるような、エレガントで果実味に富む赤ワイン。

Etna Rosso DOC「DAM(ダーム)」はそうしたダヴィデの指向を最も色濃く反映したワインだ。華やかで果実味あるネレッロ・マスカレーゼにネレッロ・カプッチョが力強さを加え、非常にバランスよく仕上がっている。ステンレスタンクで発酵させたあとフランス製トノーで15か月熟成させ、ダークチェリー、ブラックベリー、リコリス、バニラのようなニュアンス。

あわせるならエトナ山西部ネブロディの黒豚「スイーノ・ディ・ネブロディ」で作るサルシッチャのグリルならば理想的。シチリアのテロワールを体感できる最良の組み合わせではないかと思う。

一方ネレッロ・マスカレーゼとネレッロ・カプッチョで作るEtna Rosato DOC 「DAME(ダーメ)」は美しい桜色のロゼワイン。ほろ苦い後口、食中酒に最適。白い花、特にマーガレットや北方系のエーデルフラワーのような香りで、味わいは洋梨、若いチェリー、ピンク色のリンゴ。これは夏ならば冷たいカポナータ、あるいは若いフォルマッジョ・ラグサーノにあわせたい。

カッリカンテとカタラットを使い、ミネラル豊かな白ワインを作るのはジュゼッペ・プラタニア。
カッリカンテとカタラットを使い、ミネラル豊かな白ワインを作るのはジュゼッペ・プラタニア。

一方ダヴィデの共同経営者の一人、Giuseppe Platania(ジュゼッペ・プラタニア)がサンタ・ドメニカ地区で栽培するのは白ぶどう、カッリカンテとカタラット。Etna Bianco DOC 「BIZANTINO(ビザンティーノ)」シチリアに大いなる足跡を残したビザンチン文化へのオマージュ。

カッリカンテの力強さが際立つ麦わら色のしっかりとした白ワインで、バリックで2〜3か月熟成させて仕上げる。アロマティック品種のような芳香に加えバナナやパイナップル、マンゴーなどのトロピカルフルーツの香り。味わいはレモンのようにシャープな酸もあり、ジネストラ(エニシダ)のような黄色い花の印象も感じる。シチリアらしいしっかりとした白はイワシのブカティーニやカジキのインヴォルティーニといった魚介料理と共味わえば、それはそれは素晴らしいはずだ。

樹齢60年のカッリカンテで作る白ワイン「クオーレ・ディ・マルケーザ」(左)とアンフォラで熟成させた赤ワイン「マルケーザ」(右)
樹齢60年のカッリカンテで作る白ワイン「クオーレ・ディ・マルケーザ」(左)とアンフォラで熟成させた赤ワイン「マルケーザ」(右)

コントラーダ・マルケーザにある畑、パパ・マリアで作られるのはEtna Rosso DOC 「Marchesa(マルケーザ)」とEtna Bianco DOC 「Cuore di Marchesa(クオーレ・ディ・マルケーザ)」だ。前者はトノーで20日果皮ごとしぼり汁に漬け込んだあと、素焼きのアンフォラで18か月熟成させて作る長熟タイプの赤。

濃いルビー色でチェリーのジャム、ブラックベリー、ザクロといった香りでタンニンも滑らか。何よりも古代ローマ人が地中海交易に使用した素焼きのアンフォラで熟成させるというのが、なんともロマンがあっていいではないか。この赤ワインには濃厚なズッパ・ディ・ペッシェや羊の煮込みをあわせるのがベストか。一方白ワイン「クオーレ・ディ・マルケーザ」は10月下旬に収穫した樹齢60年のカッリカンテを使用。少量生産の限定ワインで、優しくおだやかな酸はウニや貝など魚介類の前菜や、アーティチョーク、若いトマトなどと相性がよさそうだ。

「エトナ・ノルド」の現行ラインナップ。いまだ日本未輸入の優秀なシチリア・ワインは多いが、いつか日本で味わえるようになるか?

また、ダヴィデはプール付きのアグリツーリズモ「テヌータ・アンティカ・カヴァレリア」も所有しているので、次回シチリアを旅する機会に恵まれたら是非とも滞在してみたい。エトナ山が育むワインとピュアなシチリア料理を堪能。夜はエトナ山の夜景を眺めつつ眠りにつく。そんな旅がまた1日も早くできるようになることを祈りたい。

Etna Nord

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