人生を重ねた大人だからこそ見えてくる、豊かな暮らしとは?をテーマに、雑誌『Precious』編集部が総力取材する連載「IE Precious」。

今回は、アートディーラー・ファビアーニ 美樹子さんのご自宅を紹介します。「自分の"好き"を大切に、選び、愛し、語れるものがある。それがアートと暮らす醍醐味です」と語る美樹子さん。絵画やオブジェなど作品が映えるよう、床や壁の色や質感にこだわった内装。元気や勇気、希望や心地よさをもたらしてくれるアートの魅力を存分に発揮させてくれるお住まいです。

ファビアーニ 美樹子さん
アートディーラー
(ふぁびあーに みきこ)東京都生まれ。「MIKI FINE ARTS」代表取締役。成城大学で千足伸行氏に師事し、西洋美術史を専攻。卒業後、銀座の老舗画廊に勤務。その後、筑波大学大学院にて芸術教育学を研究し、修了後、結婚を機にパリへ。画商一家の長男に嫁ぎ、パリでの業務を開始。一女の母。子供向けの芸術教育支援活動「Future Art Lover Activity」も主宰している。インスタグラムアカウント@mikikofabiani、ギャラリーのHPはこちら

「自分の"好き"を大切に、選び、愛し、語れるものがある。それがアートと暮らす醍醐味です」

どの部屋にも光が差し込む、明るい家。加えて、最上階のテラスからはエッフェル塔やグラン・パレなどを一望できる美しい景観。

IE Precious_1
明るいキッチン。白いテーブルとベンチは、オランダ人デザイナー・Piet Hein Eekにオーダー。壁の水彩画は大沢昌助。紫のピーマン形の彫刻は、アーティスト・Patrick Larocheの作品。
IE Precious_2
コレクションしている洋画家・大沢昌助の油彩画。
IE Precious_3
サロン。展覧会に合わせて一気に作品を替えたり、お客様の好みに合わせて掛け替えている。

この家で暮らすファビアーニ美樹子さんは、その「明るさと景観」が購入の決め手だった、と言います。

IE Precious_4
美樹子さんのお気に入りの場所、最上階のテラス。「慣れないパリ暮らしに心が折れることもしばしば(笑)。ここでぼーっとパリの風景を眺めていると、この街も捨てたもんじゃないな、明日も頑張ろう!」と思えます。ひとりで読書をしたり、夏には家族でバーベキューを楽しむことも。

「当初住んでいた16区の家は、天井が高く開放感はあるけれど少し暗くて暖かさに欠ける場所。引越しを決めたとき、主人と話し合って最も大切にしたのは『明るさ』でした。実際の"明るさ"はもちろんですが、その場所がもつ"陽気"も含めて、一歩入った瞬間、いい! と感じる"気"って世界共通だと思います」

代々続く画商一家の長男である旦那様と結婚し、パリへ移住。自身もアートディーラーとして活躍する美樹子さんの自宅は一部、完全紹介制のプライベートビューイング・ギャラリーとしても機能しています。

IE Precious_5
エントランスでは、彫刻家・小畑多丘の木彫がお出迎え。自らもブレイクダンサーであり、その身体表現技術や躍動を彫刻でも精力的に表現し続けているだけあって、その鮮烈な作品はインパクト大!「その横にはあえて、ボルドー在住の日本人書家、マーヤ・ワカスギの掛け軸を。合うかな? と思いつつ、実際に配置してみると自然と調和する。力のある作品同士の化学反応がたまらなく好きなんです」
IE Precious_6
フランソワ・ラティの陶作品。「ピカソなどとも親交があった作家で、時間をかけ細部までこだわって創るため生涯遺した作品数が非常に少ない。木彫に見間違われるほどの独特の質感が特徴」
IE Precious_7
同じくフランソワ・ラティの陶作品。
IE Precious_8
季節の花は欠かさない。
IE Precious_9
陶芸家・奈良祐希の処女作「Bone Flower」。「陶器とは思えないほど美しく繊細な世界観の大ファンで、弊廊所属の大切なアーティストのひとりでもあります」
IE Precious_10
組子のパネルは、新潟の「猪俣美術建具店」に依頼して取り付けたもの。「日本の素晴らしい職人技を知ってもらうことも私の使命です」
IE Precious_11
自宅での仕事はキッチンの長テーブルで。「疲れたときに大好きな作品を見る。ビタミン剤のような役割を果たしてくれています」
IE Precious_12
美樹子さんの嫁入り道具として実家の両親がプレゼントしてくれた箪笥。パリで着物を着る機会が多く着物や小物の収納に愛用。
IE Precious_13
写真は、義理の叔母ミシェル・ダニエルと彼女の夫ジャン・ダニエル(フランス初のニュースマガジン『ル・ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール』の創業者)がキューバでカストロ議長と対談している様子を撮影したもの。フランスの写真家マルク・リブーが撮影。「リラックスしてベッドに横たわる叔母がなんとも美しく、当時の状況を物語っている空気感も素敵。現物を欲しいと長年思っていたところ、ご縁あり手元に渡ってきた作品」
IE Precious_14
写真家・森山大道の「桜」に、陶芸家グンナー・ニールンドの花器を合わせて。

1年かけた改装では、絵画やオブジェなど作品が映えるよう、床や壁の色や質感にこだわったといいます。

IE Precious_15
明るい寝室。ベッドは眠り心地を重視。
IE Precious_16
ダイニングに飾られた義父の肖像画の前で。作者はなんとキスリング。展覧会の際も、この絵と藤の絵は掛け替えないほど大切にしている作品。

「特にダイニングの白い棚は、陶器のコレクションが美しく配置できるようオーダーしました。サロンの役割があるとはいえ、家には夫と私の好きなもの、思い入れのあるものしか置いていません。コロナ禍でステイホームが続くなか、好きなものに囲まれる心地よさが、より大切になっている気がします」

IE Precious_17
ダイニングには、デンマークの巨匠コーア・クリントのテーブルセットを配置。ギャラリー「エリック・フィリップ」で購入。ベンチは、Folke Bensowの作品。1925年パリ万博で、スウェーデンのパビリオンの庭園に飾られていたもの。藤の絵は、洋画家・智内兄助の作品『かすみながらに空晴れて』。パリの「ギャルリーためなが」でご主人がこの作品を購入。当時東京の「ギャルリーためなが」で働いていた美樹子さんがこの作品の取材依頼をし、数年後パリの別のギャラリーのオープニングでご主人と再会した際、智内さんの作品の話で盛り上がり、後に結婚にいたった…という、ふたりの出会いのきっかけとなった思い出深い作品。

アートをうまく暮らしに取り入れるポイントはあるのでしょうか?

「自分のセンスをもっと信じてほしいと思います。大抵の場合、ご自身のチョイスに間違いはないんです。"好き"を大切に、長く愛せて語れるもの。それらは、元気や勇気、希望や心地よさをもたらしてくれます。アートと暮らす醍醐味はまさにそこ。値段や世間の評価、インテリアに合うかどうかは重要ではありません。好きだと思った作品は、不思議なことに必ずふさわしい場所が見つかります。そうそう、アートと暮らす最大のコツは"掛け替え"で遊ぶこと。気分によって気楽に作品の配置を変えてみてください。新たな魅力の発見にもつながります」

IE Precious_18
料理好きな美樹子さんが収納や高さ、冷蔵庫など、細部までこだわって作ったキッチン。ステイホーム中は、YouTubeを見ながらワイン片手にクッキングが最高の気分転換だとか。
IE Precious_19
夫妻のバスルーム。洗面所のシンクは佐藤オオキ氏が立ち上げたデザインオフィス「nendo」がイタリアのBisazza Bagnoのためにデザインしたもの。水場のタイルはすべて自身で選んで貼り直したそう。各所、各部屋に大きな窓があり、明るく心地よい空間。

美樹子さんのHouse DATA

間取り…リビング、ダイニング、キッチン、3ベッドルーム、3トイレ付きバスルーム、ドレッサー、家事室、トイレ、テラス、バルコニー
家族構成…3人(夫と娘)
住んで何年?…約2年

この記事の執筆者
TEXT :
Precious.jp編集部 
BY :
『Precious4月号』小学館、2021年
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
PHOTO :
篠あゆみ
EDIT&WRITING :
田中美保、古里典子(Precious)