コクピットという言葉がクルマの世界にはある。なんだかオイルと煙の匂いが漂ってきそうな世界観だ。クルマ好きが好む場所である。でもいま、このコクピットが、まったく新しい世界に変わりつつある。

いまクルマ好きが知っておいていいのでは、と思うのが「ユーザーエクスペリエンス」という概念だ。高級車の世界では、たいへん重要な技術で、とくにドイツのブランドは熱心な開発を続けている。BMWも例外でない。

新しい体験を楽しむ時代へ

「i4」のようにiシリーズはグリルのデザインも専用になる。
「i4」のようにiシリーズはグリルのデザインも専用になる。
新世代のiモデル(ピュアEV)の内装は、第8世代に入るiDriveの搭載とともに大きく変わる。
新世代のiモデル(ピュアEV)の内装は、第8世代に入るiDriveの搭載とともに大きく変わる。

2021年3月に、同社のミュージアム「BMW WELT(WELT=world)」が「フューチャーフォーラム」なるデザインのイベントを開催。3夜連続で、BMWとミニがユーザーにどんな楽しみを提供しようとしているか。最前線を、ヘッドオブデザインという肩書きのデザインのトップが登場して、ジャーナリストに説明してくれたのだった。

BMW(のサブブランドであるBMW i=アイ)は3月に、ピュアEVの4ドアクーペ「i4」を発表。まもなく、i3の後継ともいえるやはりピュアEVのSUV「iX」が登場を控えている。これらのクルマで大きく注目してほしい点として、インテリアをあげている。

「クルマは、以前はたんに移動の手段でした。そこから、いかに快適性を盛り込んでいくかに、私たちデザイナーは気を配るようになり、いま、さらに新しい体験へと飛躍の時期がきているのです」。そう語るのは、BMWのヘッドオブデザインを務める、フランクフルト出身のクロアチア人ドゥマゴイ・デュケック氏。

「クルマのインテリアを考えてみると、人間には五感(視・聴・嗅・味・触)があるのに、これまで、どれだけカバーできたでしょうか。私たちはほぼ視覚にのみ注意を払ってきただけです。ではこれからも、残りの4つの感覚を、そのままにほおっておいていいのでしょうか」

ドライバーとクルマとが新しい関係を築くために

数かずのデジタル技術採用でユーザーエクスペリエンスを拡大するiモデル。
数かずのデジタル技術採用でユーザーエクスペリエンスを拡大するiモデル。
ピュアEVのSUVである「iX」もまもなく発売に。
ピュアEVのSUVである「iX」もまもなく発売に。

今回、BMW iが採用するのは「BMWオペレーティングシステム8」。コンピューターの演算処理能力を大幅に高め、高速コネクティビティや、ヘッドアップディスプレイ、ボイスコントロールシステムなど、第8世代のiDriveとも呼ばれている。これが、湾曲した大サイズの画面をもつ新世代のデジタルコクピットと組み合わされている。

「iXは内側からデザインされたモデル。私たちの考えるあたらしいマン・マシーン・インターフェイスのありかたを体現しています。たとえば操作類は、いままでどおりボタンを押すのでなく、もっとシンプルかつナチュラルに操作できるよう設計しました。そこから使う喜びが生まれるよう考えて、デザインしています」

4ドアグランクーペと定義される「i4」。
4ドアグランクーペと定義される「i4」。

もうひとつのユーザーエクスペリエンスの例が、キーだ。iXではワイドバンドの周波数を使うことによって、キーを持ったドライバーの位置を車両が特定。3メートル以内に近づくとウェルカムライトを点灯。1.5メートルでは解錠。ドアを開けるとライトとメッセージで歓迎の意を評するというのだ。

デジタル技術を、ドライバーとクルマとが新しい関係を築くために使う。これこそが新世代のBMW車のありかたなのだそうだ。この「フューチャーフォーラム」では、第1夜に、デジタル技術を使ってアートを楽しませてくれることにかけての第一人者といえる日本のチームラボのスタッフが登場。デジタル技術を、ひとを楽しませるために使うチームラボの姿勢が、BMWデザインのコンセプトと合致していることが知れたのだった。

この記事の執筆者
自動車誌やグルメ誌の編集長経験をもつフリーランス。守備範囲はほかにもホテル、旅、プロダクト全般、インタビューなど。ライフスタイル誌やウェブメディアなどで活躍中。