レザーを使った服や小物は、使うほどに味が出て、無二の存在となって持ち主の人生を暖かく照らす。もちろん、レザーを使ったものならなんでもいいわけではない。厳選された素材をなめし、一流の職人が手仕事でつくっでできた極上の「レザー名品」だけが、身につける者の心を打ち、長い時間をかけて育っていくのだ。今回はそんな逸品を、目利きの解説で徹底紹介。「名品モノ語りマガジン」メンズプレシャスが総力を挙げて編集した、保存価値の高い情報ばかりである。
【序章】ファッションディレクター赤峰幸生が
30年以上着込んだ、コノリーレザーのブルゾン
足掛け30年着ている革のブルゾンがあります。前の持ち主が10年で私が20年。前の持ち主は、イタリアの小さな革製品工場の社長でした。ある日工場を訪ねると、社長が革のブルゾンを格好よく着こなしていたので、由来を尋ねると、工場で研究用につくった試作品とのことでした。
試作のデザインコンセプトはドライバーズ・ジャケットで、オープンカーを運転するときに着ることを想定してつくったといいます。素材は防寒のために、風を通さない革を選ぶけれど、バイクほど風の影響を受けないので、運転の操作性を向上させようと、軽さややわらかさ、伸縮性を意識したそうです。そのために、革は英国で高級車の革張りシートを手がけるコノリーレザーから薄地のヤギ革を取り寄せ、自社工場で特殊な処理を加えてから仕立てたとのことです。でき上がったブルゾンは一枚仕立てなので軽さがあり、肌にあたる内側はきちんとなめしてあるので滑りがよく、裏地がなくても着脱には不自由しません。薄地のカーディガンのように、街着としても年中着られそうな外観で、旅行に携帯しても重宝するだろうな、と思って見ていました。
イタリアは古くから皮革製品の産地として栄えてきました。その懐の深さを、こうした小さな工場の無名の職人のモノづくりに感じることがあります。世の中にあふれるモノの中で、魅力を感じさせるモノには、使うシーンが見えます。そんなモノに出合うと、料理が見える食材とでも言いましょうか、使い道やコーディネートへの想像力が広がり、見ているだけでも楽しくなってきます。イタリアの革職人たちは、ブルゾンひとつとっても、でき上がったモノとそれを使う人のイメージをしっかりと描き、そのための革選びと加工に工夫を凝らし、必要があれば新たな技術を習得します。その手間を惜しまず、当然のようにやる。世界のモノづくりの厨房といわれる所以は、そんな家族が4、5人ぐらいで手がける家内制手工業の工場が国中に数千ほどもあるからでしょう。味出しの根本は、見た目や手触りなど、五感を総動員して見極めます。ゆえに、ブランドや原産地、素材の銘柄など、能書きだけで判断できない味があるのです。
私の場合、海外の街角で見かける外国人で格好いいと思う人は、長年使い込んだ服を着ている人です。年齢とともに着る人の体になじんだ服は、髪の毛や肌の枯れ具合と調和して、全身の見え方をより存在感あるものにしてくれるので、参考にしています。日本では持ち物を新調することをお洒落と思う傾向にあり、服にほころびができると、外では着られないと思って捨ててしまう人が多いけれども、欧州の貴族の間では、何代も継承されたものを身につけることが名門家系の証とされ、新品ばかり身につけている人は成り上がりと見られます。西洋かぶれをしているわけではありませんが、やはり大工さんは、傷だらけの黒ずんだトンカチなんか持っていると、いかにも長年かけて仕事を極めているようで、魅力的に感じるものです。服にも同じような一面があるのです。特に革素材を使った服は、着込んだ味が顕著に出るので、それが楽しみになります。モノを大事にして長く使うライフスタイルが注目されると、革の価値も見直されてくるでしょう。
社長が着ているブルゾンを見ながら、そんな話を続けていたら、社長はブルゾンを脱いで「これ、君にあげる」と言って、私に手渡してくれました。それ以来ブルゾンは、私の旅の伴侶として一緒に世界をめぐり、近頃ようやくよい味が出てきたと思うようになりました。(ファッションディレクター/赤峰幸生)
レザー名品 PART1.デンツのグローブ
デンツのグローブとは一生つきあっていきたい。ペッカリー革のデンツを何年も使い続けて得た結論だ。フィットはグローブの最も重要な条件だと思う。そのフィット感を、この上ない肌触りで味わわせてくれるのがこの名品の素晴しさ。バッグのハンドルなどを摑んだときの、キュッとした手の甲側のしなりは、ほかの手袋では決して味わえない極上の感覚だ。
伊達男必携! レザーグローブの最高峰
デンツの創業は1777年。革の鑑別と裁断技術の天才だったジョン・デントは「シークレット・フィット」と呼ばれる技で名を馳せ、グローブ一筋で238年の歴史を重ねる同社の礎となった。あのエリザベス2世の戴冠式用手袋も任された、ハンドメイド手袋の最高峰である。手首の内側でパチンと留めるホック、十字に縫い上げられた指先の特徴的な形、グローブをしたまま新聞をめくれると言われるほどのフィット感。繊細な指先を包む道具だからこそ、その上質さはダイレクトに伝わる。(文・モノマガジン編集ディレクター/土居輝彦)
レザー名品PART2.ベルルッティのダウンジャケット
靴づくりに起源を持つベルルッティは、トップグレードのレザーを熟知する名門ブランドである。靴の素材にふさわしい極上のレザーを吟味し、いかに魅力的な表情をたたえているかを見極める。
レザーを素材としたファッションアイテムも然り。
2WAY仕様の機能的ダウンジャケット
ベルルッティのアーティスティックディレクター、アレッサンドロ・サルトリ氏のイメージを具現化したのが、このレザーダウンジャケットだ。シルクのように滑らかな肌触りに仕上げたレザー素材は、ダウンジャケットをゴージャスなスタイルに格上げした。フロントボタンのフックや前立て部分に、身頃やそでとは微妙に色調が異なる、ブラウンのヌバックを使い、繊細な質感に深みを与えている。
そでを通せばわかる。ベルルッティのダウンジャケットは、本来、機能重視のスポーツアイテムだったことを忘れさせる、とびっきりのエレガンスを満たしていることを。(文・本誌エグゼクティブファッションエディター/矢部克已)
レザー名品PART3.フラテッリ ジャコメッティのスリッポン
トラッドな名靴の香りと美しさを感じさせ、靴にのせる個性的なレザーの魅力を打ち出すことで、今や上質な大人のスタイルに欠かせないのがジャコメッティのスリッポンである。ヴァンプ(甲革)の長い、新しい木型のスリッポンには、なんとアストラカンをのせる。靴デザインの常識を超えた一足が、実に強烈なインパクトを放っている。
足元に差がつく! プレシャスレザーの一足
アストラカンといえば、外套の素材として珍重されているが、スリッポンに使ったことで、同素材のコートとのまれなる組み合わせも楽しめる。時に挑戦的なデザインがジャコメッティの醍醐味だ。(文・矢部克已)
レザー名品PART4.フラテッリ ジャコメッティとマルモラーダの登山靴
一方のルモラーダは、ジャコメッティのトレッキングブーツに特化したレーベル。靴業界をあっと言わせた、レザーにカビが付着したように見せたモデルで人気を獲得した。
プレシャスレザーのブーツに山男も驚愕!
以来、今も新鮮さを失わずに、伊達男たちのラギッドな足元を飾れる理由は、往年の名登山靴からインスパイアされた普遍的な木型に加え、写真のエレファントやオーストリッチなど、多彩なプレシャスレザーを投入しているからだ。スポーティなスタイルだけではなく、ジャケット&パンツとの相性がいいのもマルモラーダの奥深い魅力となっている。(文・矢部克已)
レザー名品PART5.ルイ・ヴィトンのキーポル・バンドリエール50
数々の名品バッグを擁するルイ・ヴィトンだが、今や定番になったキーポルは、旅のスタイルに、多大な影響を及ぼした。’50年代に耐久性と防水性を備えたキャンバス地を採用したキーポルが登場。それはルイ・ヴィトン初のソフトバッグであり、小旅行用として爆発的な人気を獲得。旅用バッグの主流が、ハードバッグからソフトバッグに移ったからだ。
ロングセラーモデルのレザーバージョン
その『キーポル』に今シーズン、レザー版の『キーポル・バンドリエール50』が加わった。新しいレザーコレクション、『オンブレ・ライン』のひとつで、深みのある発色が特徴だ。その秘密は、熟練職人が手作業にて何層にもわたり色を重ね、独自のカラーリングとエイジング加工を施していることにある。ベースのカーフが上質であるからこそ、繊細な色付けが映え、洗練された雰囲気を生み出している。ルイ・ヴィトンのレザーコレクションの頂点ともいえる『キーポル・バンドリエール50』を携えて、どこに旅行へ行こうか。(文・編集者/鷲尾顕司)
レザー名品PART6.吉村順三の、たためる椅子
ナイロンや帆布が主流のフォールディングチェアに、やわらかで肌触りのよい牛革を大胆に用いた『たためる椅子』。1988年に建築家の吉村順三が手がけた八ヶ岳高原音楽堂の客席用に設計された名作椅子である。
レザーソファーのごとく快適な、画期的な名作
驚くのは快適な座り心地だ。ゆったりした幅広の座面と背もたれには、スポンジやバネは一切なく、あるのはレザーならではの適度なフィット感とほどよいクッション。堅すぎずやわらかすぎないレザーの張り具合は、腰かけることで初めて実感できる。日本人の体型に合わせ座面を低く設計し、ゆるやかに傾斜をつけたことで、体全体がすっと沈み込む構造だ。小さくたためて運べる軽さとバランスは、建築を知り尽くした吉村だからこそ生み出せる画期的な発想。
たためるという機能を優先しながら、包まれるようなレザーのぬくもりと品格を兼ね備えた椅子は、今も根強いファンが多い。上質なレザーソファのようにゆったりとくつろげる座り心地を、ぜひ体感してほしい。(文・フリーライター/小池高弘)
レザー名品PART7.ボッテガ・ヴェネタのホームコレクション
ボッテガ・ヴェネタの名品と言えば、イントレチャート(=メッシュ編み)のレザーバッグが代表だろう。しなやかなナッパレザーに切り込みを入れ、テープ状にした同革を一本一本ていねいに編み込んで完成させる手法は、唯一無二の存在感を誇る。これも古くから革職人が集まるイタリア北東部のヴェネト州に拠点を構えているからかなえられた、手仕事と美意識の賜物。皮革の職人を養成する技術学校を設立する等、文化の継承を担う点も同社のモノづくりへの信頼性を高めている。
静謐な空間をつくり出すレザーアイテム
そんなボッテガ・ヴェネタのレザーアイテムを毎日の暮らしで堪能するなら、ローマやフィレンツェ、シカゴにある五つ星ホテルとスイートルームでコラボレーションをする、ホームコレクションがおすすめだ。イントレチャートをまとったリーディングランプやフォトフレームは、モダンでありながら和洋の空間に自然に溶け込み、極上のくつろぎを与えてくれる。上質な木材とはひと味違う、長く愛されるインテリアとして、確固たる地位を築いている。(文・フリーエディター/中村 賜)
レザー名品PART8.エルメスの自転車&サドルバッグ
エルメスは、馬具づくりからスタートした欧州屈指の老舗ゆえ、同社にとって皮革は特別な存在だ。ファッション以外にもこんなモノがあったらいいなと思う、レザーアイテムも充実している。数年前に見た野球グローブは、使うのが惜しくなるほどしなやかな革が使われ、飾っておきたいぐらいのでき栄えだった。
革好きの男を刺激するような自転車もそのひとつ。ここでは自転車に装着するためだけにデザインされたサドルバッグにも注目したい。素材は「トリヨン・クレマンス」と呼ばれる、エルメスを代表する牛革だ。カシミアのようなやわらかな風合いと表情豊かなシボが際立っている。
極上レザーの乗り物を所有する優越感・・・
以前、エルメスの皮革・馬具部門のクリエイティブディレクターと話す機会があった。彼女は「いい革を手に入れるのは至難だ。しかしいい革が手に入れば、自ずとつくるものも、デザインも決まる」と語った。エルメスの革に対する哲学は、彼女のこの言葉に表れている。(文・フリー編集者/小暮昌弘)
レザー名品PART9.大峡製鞄のブリーフケース
ランドセルでその名をご存知の方も多いであろう大峡製鞄は、東京の下街で製鞄一筋80年の日本を代表するファクトリーだ。特にフィレンツェ郊外のタンナーで、10世紀以上も続く伝統手法で完成したカーフレザーを使った鞄は、本物を知る男たちが絶大な信頼を寄せる一級品。
伝統手法の革でかなえるプリンシプルな一級品
創業のモットーは、「品質と職人技」。本物の革を見極める裁断師と、鞄を手がける職人の2名体制でひとつの鞄がつくられる。仕上がりの美しさを左右する「目打ち」と呼ばれる寸分違わないステッチ等、隅々にまでつくり手のプライドを実感できる鞄こそ、一生モノと断言したい。(文・中村 賜)
レザー名品PART10.ココマイスターのアタッシュケース
本誌発売と同時公開の『007/スペクター』。ダニエル・クレイグがトム フォードを着こなし、世界を駆ける。そんなスパイアクションに頻出する小道具といえばアタッシュケースだが、今作の最高級スーツと競演させても引けを取らないのが、ココマイスターの名品だ。
エグゼクティブが認めたブライドルレザーの風
10世紀以上の伝統を持つ、蜜ロウを染み込ませた英国製ブライドルレザーが、使い込むほどに美しい光沢を放つ。アタッシェケースづくりに不可欠な、革と木枠を同時に貫く稀少な専用ミシンと手作業によって完成したそれは、時代を超越した威厳と風格をたたえる。これこそ、戦う男が手に入れるべき名品だ。(文・編集部)
レザー名品PART11.ソメスサドルのクラッチバッグ
馬具づくりから発祥したソメスサドルは、人の体になじむ曲線を硬いレザーで成形する、馬具づくりの高度な技術をバッグづくりにも生かすブランドだ。このクラッチバッグは、モノを収納する本体部分の革に、型に入れて立体的に形づくった伝統的なしぼり製法を駆使する。
シュリンクレザーの名品で知的な手元を演出
そのため、ムダなステッチがなく、スッキリとした表情となる。カバーとなるシュリンクレザーは、ほどよいやわらかさになめすことで、本体との「硬と軟」の絶妙なバランスを保つことに成功。自然な曲線と感触を備えた、人に優しい形のバッグだ。(文・矢部克已)
レザー名品PART12.ユハクのダレスバッグ
B4サイズの書類も入る、堂々とした容姿のダレスバッグ。繊細で緻密に仕上げられた手縫いのステッチと、独自の存在感を放つレザーの表情が見事に調和している。
手染めレザーの芸術的な完成度に圧倒!
ユハクは横浜に工房を構える日本ブランドだ。その最大の特徴は、植物性タンニンのなめし革に、何種類もの色を染め重ねていること。しかもクリームで革の表面に色をのせる一般的な方法ではなく、染料を浸透させるというユニークかつ難易度の高い技法を採用している。色素が革の表面を覆っていないので、革本来の表情と手染めのニュアンスの双方が美しく響き合う。(文・ライター/ガンダーラ井上)
レザー名品PART13.エアロレザー/PART14.ルイスレザーズ
ライダースジャケット好きのアンディ・ウォーホルは、破天荒にもダブル襟のジャケットの上から革ジャケットを着たが、これほど「反逆=レベル」の強烈な存在感を放つ服もあるまい。10年や20年ぐらい着てもまったくやれない、鉛板のような分厚い革。私のように軟派な男性にはとても太刀打ちができない。
特に英国製のライダースジャケットが使う革は別格だ。この種のブランドでは最も古い歴史を持つルイスレザーズが使用するのは、光沢あるカウハイドが中心。そのまま服が立ってしまうのではと思うほどの屈強な素材とつくりだ。
一方、エアロレザーが使うのは、アメリカの「ホーウィン社」の希少なホースレザー。つまり馬革だ。クロームなめしを施した革は滑らかな上にほぼ完全防水である。
両ブランドともいまだに英国で製品をつくり続けている希有な存在だ。これほどの厚さを持つ革だから、ミシンの針を入れ、仕立てるのは、スーツ以上のテクニックが必要だろう。ジョンブルたちの魂がこもった渾身の革ジャンだ。(文・小暮昌弘)
レザー名品PART15.ポスタルコのステーショナリー
同じ質感のレザーをカットし染めあげ、見事にぴったりと重ね合わせた『レザースナップパッド』のカバー。モザイク柄の美しいグラデーションを見ると、新しいアイディアが次々に生まれそうな気分になる。
一生愛せるレザー製品
道具として愛され、使い続けることを前提に製作されたポスタルコの文具は、日本の職人たちの実直で繊細な仕事から生み出されている。手間と時間を惜しまず、植物成分でていねいになめした仕上げの美しさや、細部にまで至る工夫、確かな手仕事は国内や欧米でも高い人気を誇る。一生つきあえる文具との出合いほどうれしいことはない。(文・小池高弘)
レザー名品PART16.メゾン タクヤのレザー小物
レザー小物は、コンサバすぎてはつまらない。あるときは持ち主を元気づけ、またあるときは周囲との会話の糸口になってくれる、ぬくもりと洒落っ気のあるモノを選ぶべきだ。そこで導き出されるのが、究極のレザーと総手縫いにこだわるメゾンタクヤである。
こだわる男を魅了する、多彩な革のクリエーション
こちらの小物はクロコダイルからリザード、オーストリッチといった希少革から、カーフやヤギなどの定番に至るまで、素材の選択肢が驚くほど多彩。メンズでは類を見ない鮮烈な色バリエーションも大きな魅力だ。まるで厳寒の日のカイロのように心を温めてくれる小さな名品を、ぜひコートのポケットに忍ばせて。(文・山下英介)
レザー名品PART17.フェンディのピーカーブー
牧歌的で人懐こいイメージが根強い、イタリアのレザー製品。しかしローマの名門フェンディのバッグ、ピーカブーに限っては、そんな媚びとは無縁。むしろ持ち主を選別するかのような、気高いオーラを放っている。その秘密はレザーにある。
名門が誇る極上カーフのアイコンバッグ
「クオイオ ローマ」と呼ばれるクロムなめしのシュリンクカーフは、シボのキメ細さといい、しなやかさといい紛れもない絶品。夜の灯りに照らされたときの表情は、官能的ですらある。そしてもうひとつのポイントは、1000を超えるハンドステッチだ。繊細な「クオイオローマ」とは対極をなす太い糸、広めのピッチで施されたその縫い目は、素材の質感を際立たせるとともに、色気ある装飾としても大いに役立っている。
凜々しい直線と、レザーが描く優雅な曲線とを融合したデザインも、流行を超越したエレガンスの極致。これぞ貴族文化の名残を色濃く残す古都、ローマが生み出した名品なのだ。(文・本誌ファッションディレクター/山下英介)
エイジングしてからが本物!ヴィンテージ名品の誘惑
共に年を重ねる楽しみもよし、ヴィンテージショップで経年変化した逸品に出合うもよし、新品のときとは異なるエイジングされた圧倒的なレザーの存在感に惚れ込んだファッションプロが、「ヴィンテージ名品」をモノ語る。レザーアイテムならではの魅力あふれる世界を、お楽しみください。
レザー名品PART18.ダックスのエキゾレザー靴
静かなブームになっているアメリカのヴィンテージシューズ。筆者もこの5年で人には言えない数の靴を購入したが、いつしか古着屋の棚に質実剛健なカナダの靴が混じっているのに気づき、恋に落ちた。
希少革が多いカナダのヴィンテージシューズ
ダックスは1834年に創業した老舗メーカー。カナダ生産は終了したものの、現在もイギリス製で健在である。戦後すぐにトロントの会社に買収された後、その会社は1964年にイギリスのチャーチに買収された。瓜ふたつのモデルがあるのには気づいていたが、つまるところ「カナディアン・チャーチ」とも言えるような存在だったのだ。なかでも白眉なのが、様々なバリエーションのエキゾチックレザーの存在。
キャメルスキン、アザラシ、ウォーターパイソンなどの現代では希少な革の良質な靴が、驚くような価格で手に入るのだ。さよう、エキゾチックレザーを普段使いする贅沢を、私は薄い財布のまま堪能している。(文・ファッションジャーナリスト/増田海治郎)
レザーPART19.イーストウエストの、スモーク
伝説のレザージャケット、と呼ばれるのがイーストウエストの、スモークだ。
正式名はEast West Musical Instruments Campany。
1967年にサンフランシスコで設立。社名は、楽器の製作に由来する。顧客の中心はミュージシャンでジャニス・ジョプリンやデヴィッド・ボウイ、ミック・ジャガーらの特注品を手がけ、彼らのステージ衣装として脚光を浴びた。だが、イーストウエストは’70年代後半には消滅。実動は10年ほどで作品数は少なく、コレクターにはヴィンセント・ギャロやレニー・クラヴィッツの名が挙がる。
稀代の洒落者たちも愛し続けた、哀愁漂うレザージャケット
『スモーク』はレギュラーモデルの代表作。あのトム・フォードがグッチ在籍時、『スモーク』をサンプリングしたレザージャケットを発表した逸話を持つ。
これほどのストーリーに夢中にならない男はいないのではないか。私も例外ではいられなかった。職人技による革の芸術品であり、そこに当時の音楽カルチャーの熱狂が覆いかぶさり、圧倒されるほどのオーラを発するのだ。(文・鷲尾顕司)
レザー名品PART20.スタックスのヘッドホン
PART21.バング&オルフセンのヘッドホン
近年再び注目を集めるハイエンドオーディオの世界。中でもヘッドホンは、ハイレゾリューション、またはアナログのサウンドと「向き合う」ツールとして選ばれている。このヘッドホンにおいて、人間の触覚に関わるのがイヤーパッド。ヘッドホンの質に敏感なオーディオメーカーほど、この部分に革を採用している。
別格の音楽環境を演出する
「イヤースピーカー」を標榜するスタックス(写真左)は、日本が誇るオリジナリティあふれるオーディオメーカー。コンデンサー型という静電気で振動板を駆動・発音させる方式は、より繊細な音楽再生を可能にする。そして、そのサウンドの質感を保つべく、ハイエンドモデルにシープスキンのイヤーパッドを採用している。
また、機能性と音響双方を追求するバング&オルフセン(写真右)もまた、イヤーパッドにラムスキンを使っている。形状を記憶するフォームとやわらかな革のコンビネーションは、ワイヤレス&ノイズキャンセリングといった機能と併せ、快適な音楽聴取環境を実現している。(文・編集者/菅原幸裕)
レザー名品PART22.オールデンのVチップ
PART23.クライスのボストンバッグ
40年近く前、アメリカの老舗メンズ店で珍しい馬革の靴が売られていると耳にし、ニューヨークに出張する姉に懇願して買ってきてもらった。手にした靴は馬革特有の鈍い光をたたえ、独特の赤茶色であった。その革が「コードヴァン」という名で、靴はオールデンでつくられたものと知ったのは後のことだ。
「コードヴァン」の革は独特の弾力性と柔軟性を備えている。特に赤茶ははき続けていくとシワに濃淡の差がつき、深い光沢を宿す。新品のときに甲部を2本のボールペンではさみこみ、自分なりの2本のシワを最初から付けてしまう猛者もいると聞く。
この革に魅せられたのはオールデンだけではない。ドイツの皮革ブランド「クライス」は、この革で大型のバッグまで仕立てた。馬革は希少で、臀部から2枚の円形革しか製品にならない。幸運にもその革に出合った者は、あのいぶし銀の輝きを絶対に忘れることはない。(文・小暮昌弘)
レザー名品PART24.スピーゴラの外羽根シューズ
1786年、サンクトペテルブルグから英仏海峡をジェノヴァへ航海中、嵐に遭い海峡で沈没した「メタ・カタリナ号」。1970年代、英国のダイバーによって発見された沈没船には、長年海水に浸かっていたものの、泥に覆われていたことと、その素材特性ゆえに今なお使用可能な革があった。ロシアンレザー、またはロシアンカーフなどとも呼ばれるこの革は、18世紀当時から、ロシアにて独自の製法でつくられる、高品質かつ丈夫な革として知られていた。トナカイの原皮を使い、柳の木のタンニンでなめされ、バーチオイルを含ませる。表面の菱形の模様は、手作業で施されたものという。
幻のロシアンレザーが、華麗なる一足でよみがえった
爾後、主にビスポーク靴の世界において、この革の存在は取りざたされてきた。沈没船の積み荷は断続的に引き上げられ、いまだ海泥の中に革が眠るとも言われる。しかしいつ尽きるか不明な革との出合いは天啓のようでもあり、ゆえに多くの人を惹き付けてやまないのかもしれない。(文・菅原幸裕)
レザー名品PART25.ロエベのムートンコート
ジョナサン・アンダーソンがデザイナーに就任して以来、一躍モードの最先端に躍り出たロエベ。モードと定番は相反する要素だが、かれのデザインには不思議とその両方が宿っている。ロエベの歴史は、ドイツ生まれの革職人、エンリケ・ロエベ・ロスバーグがスペインでシルクのような上質な革に出合ったことに始まる。以来、最高品質の素材を使用し、革製品、ウィメンズ、メンズのプレタポルテとコレクションの幅を広げてきた。
極上ナパレザーに包まれる優越感
ジョナサンが指揮するロエベは、そうした伝統をしかと受け継ぎつつも、圧倒的にモダンである。ショールカラーのベーシックなムートンコートは、素材が最上級なのはもちろん、サイズ感やシルエットが絶妙に今っぽい。合わせる服を選ばないから、末長く冬の定番として活躍してくれるだろう。とかくジョナサンのクリエーションはエキセントリックに思われがちだが、実はベーシックの調理法が抜群に上手なのである。(文・増田海治郎)
レザー名品PART26.山本製鞄のクロコダイルトート
山本製鞄という社名からはわからないが、実はこの会社は約50年の歴史を誇るタンナー(皮革なめし工場)をルーツに、製鞄の工房をも併せ持つ、世界でもまれなファクトリーである。さらに珍しいことに、こちらが専門に手がけるのは、爬虫類を中心にしたエキゾチックレザー。表面がフラットな牛革と違い、個性豊かな凹凸を特徴とするこれらのレザーは、なめすのにも縫製するのにも、熟練した技術が必要だという。
エキゾチックレザーのプロが自信をもってお届け!
写真のシンプルなトートバッグに、その匠の技は凝縮されている。贅沢に2尾ぶん使ったナイルクロコダイルは、端正な斑ふといい、透明感あるマットなネイビーカラーといい、ため息が出るほど美しい。さらに断面の仕上げには、欧州の一流ブランドが得意とする「本磨き」という技法を採用。ほぼ丸1日かけて磨きあげたそのコバからは、従来の日本製品にはない、ヨーロッパ的な味わいや色気までもが漂っている。一生に一度は手に入れたい、クロコダイルのバッグ。ならば選ぶべきは、そのスペシャリストのものに限る!(文・山下英介)
以上、編集部が自信を持って推薦するレザー名品を26種紹介しました。
※価格はすべて税抜です。※価格は2015年冬号掲載時の情報です。
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2015年冬号男の魂を揺さぶる「レザー名品」物語
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- クレジット :
- 撮影/戸田嘉昭・唐澤光也・小池紀行(パイルドライバー) スタイリスト/武内雅英(code)