リニューアルした伊勢丹新宿店メンズ館5階のビジネスクロージングフロアでは、話題のブランドを好みの仕様に仕立てられる出張オーダー会=トランクショーを定期的に開催している。この秋には、英国サヴィルロウの名門、「ヘンリー プール」でシニアカッターを務めるアレックス・クック氏が来日した。数々の名士を魅了してきた格調高きスーツスタイルの秘密を、メンズプレシャスのエグゼクティブファッションエディター・矢部克已が解き明かす。
世界中のテーラーに影響を与えた名門!
1806年に創業した「ヘンリー プール」は、ロンドンのサヴィルロウに現存する最古のテーラーである。古くは、英国だけでなく日本の歴史上の要人も同ブランドで仕立て、世界各国のワラントを保有する名門中の名門。スーツの源流にして、世界のテーラーにも影響を与えたのが「ヘンリー プール」なのである。現在、シニアカッターを務めるアレックス・クック氏に、そのスーツづくりに迫った。
卓越した技術でトレンドを盛り込みながらもスタイルを貫く
「ヘンリー プール」のハウススタイルといえば、ブリティッシュ・ドレープと呼ばれる胸に立体的なボリュームを備えた、シングル2ボタンのスーツにある。創業200年を超える歴史のなかで、その伝統は変わることなく受け継がれてきたのだろうか。
「ハウススタイルは、しっかりと継承されています。しかし、長い歴史のなかでトレンドは移り替わり、顧客の思考も変化してきました。テーラーとして、顧客が望むスタイルに寄り沿うことは大切です。ですので、『ヘンリー プール』らしさを固持しながらも、ディテールは時代に合わせて少しずつ変化しています」
頑なにハウススタイルを守る一方で、顧客の好みを反映させたスタイルも自在に取り入れられるのが、名門の卓越した技術。クック氏によれば、1960年代は胸周りにドレープを入れて仕立てたスタイル。70年代はトレンドのスタイルに乗っていたものの、「ヘンリー プール」の服づくりから、やや逸脱した感があった。80年代は肩幅を大きくつくるようになり、90年代になるとミリタリーの要素を加えたスタイルが評判になった。そして現在は、「ヘンリー プール」らしい本来のクラシックなスタイルが再び人気だ。このところのメンズファッションの傾向である原点回帰が、「ヘンリー プール」にも起こっている。伊勢丹メンズ館に訪れる男たちも、より正統的なスーツを求めているのだ。
名門は、いつの時代も顧客に寄り添う
「お客様からのオーダーのうち、約90%はハウススタイルです。迷われている方にもテーラーの歴史や仕立てのお話をすると、ハウススタイルに一層興味を示してくれます」
伝統ある名門ゆえに、初めてオーダーする際に、敷居の高さを感じる人も多いのではないか。そんな問いに対し、クック氏は、「肩の力を抜いて」とジェスチャーを加えながら、こう答えてくれた。
「確かに、すごく緊張している方もいらっしゃいます。そんなときはリラックスしてもらうために、我々スタッフはジョークを交えて話したり、フレンドリーに対応します。何か飲み物をサービスし、まずは寛いだ雰囲気になじんでもらう。それから、ゆっくりと好みの服を伺っていきますので、どうぞお気軽にお越しください」
クック氏が語る「おもてなし」の哲学は、「ヘンリー プール」を扱う伊勢丹メンズ館でも変わることはないし、リニューアルした5階のビジネスクロージングフロアには、居心地のいいバーカウンターもある。イタリアのサルトリアがつくる、柔らかで色気のある服を眺め、試し、メイド トゥ メジャーの中核を成す「ヘンリー プール」で、自分なりのこだわりを込めた正統派のスーツを誂えるという贅沢……。これぞ、伊勢丹メンズ館が「ビジネスマンの聖地」と呼ばれる所以である。
■問い合わせ先
伊勢丹新宿店
TEL:03-3352-1111(大代表)
http://isetan.mistore.jp/store/shinjuku/
関連記事
- MEN'S Precious × 伊勢丹メンズ館 スペシャルコラム【1】
- MEN'S Precious × 伊勢丹メンズ館 スペシャルコラム【2】
- MEN'S Precious × 伊勢丹メンズ館 スペシャルコラム【3】
- MEN'S Precious × 伊勢丹メンズ館 スペシャルコラム【4】
- TEXT :
- 矢部克已 エグゼクティブファッションエディター
Twitter へのリンク