車内で聴く音楽は、家とも電車ともちがい、ほかに替えがたい独特の魅力がある。動く景色や、クルマの加速感などと、密接に結びつくからだろう。しかし音づくりはかなり大変のようだ。アウディ本社では、2021年4月27日に「アウディテックトーク・サウンド&アクースティック」なるオンラインのプレゼンテーションを開催。いい音を作ろうとする現場の声を紹介してくれた。
困難な車内環境で最高の音を追求
「まず私たちは、開発センターに設けた音の評価ルームで、さまざまな音源を視聴します。そのとき心がけるのは、アーティストが音楽で何を伝えようとしているか。そしてもし小さな音がアーティストのつくる音楽で重要な役割を果たしているなら、それもていねいに再現するように、車内のハイファイオーディオの再生環境を作っていくのです」
アウディ本社でサウンドエンジニアを務めるミシャエル・ビスニウスキ氏はそう語る。
「私たちがつねに念頭に置いているのは、再生のポリシー。言葉にすると“ナチュラルサウンド”なるものです。日常生活で、抵抗感なく聴ける音にできるかぎり近い音の再生をめざしています。それこそ、プレミアムなサウンド。アウディ車だから体験できるオーディオの再生性なのです」
こちらは、サウンド&アクースティックの開発を担当する、トビアス・グリュンドル氏の発言だ。
カーオーディオは、さまざまな課題を抱えている。ホームオーディオは、部屋を鳥瞰図のように上から眺めたと仮定し、三角形を思い浮かべるとわかりやすい。2本のスピーカーシステムの距離がその三角形の底辺。その先にあるいわば頂点(かつ正しい耳の高さの場所)にリスナーがいればよい。
車内では、そうはいかない。運転席は右か左どちらかに寄っているし、助手席に座るひとも、後席(の左右どちから)に座るひとも、おなじようなサウンドが聴けないといけないからだ。
しかも、車内には音をさえぎったり、意図しないような反響を引き起こすものも多い。ベストはヘッドフォンをかけて音楽を聴くことかもしれない。でもそれだと、ドライバ−の注意力を奪い。いざというときの危機回避に支障を及ぼすおそれも。
2016年からは、高さの次元も表現
驚くのは、上記のように“劣悪な”環境なのにもかかわらず、いい音を聞かせてくれるクルマがあることだ。むしろクルマによっては、よりよい音を再生してくれることすらある。たとえば、いまの音源では、クラブで聴くような低音のニュアンスが大事な場合も。それもカーオーディオが上手にピックアップしてくれるのだ。
「車内の音作りは、いわばオーケストラのようなものだと思っています。音源から出てくるさまざまな周波数の音をまとめて、きれいに整えて“いい音”にするのが、私たちの仕事です」
オンラインの画面上で、サウンドエンジニアのビスニウスキ氏は、自分たちの役割を説明してくれた。同時にサウンド&アクースティック部門のエンジニアたちは、騒音低減にも日夜尽力しているという。
アウディらしい音とはなにか。おなじグループ内企業である、フォルクスワーゲンやポルシェと、アウディのオーディオサウンドは同じではないのか。オンライン上での質疑応答で、私はこの質問をなげかけてみた。
「一般的にいって、アウディらしい音とはさきにも触れたように、ナチュラルな音、とされています。ほかのブランドとは同じ音づくりを目指しているのではない。どこがどう違うかは、これは言葉にするのは、むずかしい。じっさいに自分の耳で確認していただかないと」
いま、アウディのサウンドエンジニアが追究するのは「3Dサウンド」。60年代に生まれたステレオサウンドが「1D」で、2000年代に主流となった「2D」は、サブウーファーと、前面、後面、側面に設置された複数のスピーカーで構成されたシステムを使う。
高さの次元もサウンドに組み込むことを可能にしたのが、アウディが2016年に発表した現行「アウディQ7」で採用した「3D」サウンドなのだ。
いい音はなぜ重要かという質問に対して、ビスニウスキ氏は「これから自動運転のレベルが上がれば、車内でリラックスするのにいい音は欠かせませんから」と答えたのだった。
- TEXT :
- 小川フミオ ライフスタイルジャーナリスト