イタリア人ほど、モノの本質が見えている国民はいないと思う。たとえば子供向けのお菓子でも上等なガトーショコラの味がするし、シャツ一枚、パンツ一本とっても、人の骨格の本質を捉え仕立てられている。最新のテクノロジーを駆使しながらも、それだけに頼ることなく必ず人の手が加えられている。そうして生み出されるモノは、そこにあるだけで場面や空気を変えられる、神秘性を伴った実用性へと変わる。たとえば、究極にデザインされた「イタリア名品」の代表にポルトローナ・フラウの名作『バニティフェア』がある。半世紀以上前に誕生した当時は恐ろしく先鋭的で、アヴァンギャルドだったろう。背もたれやアーム部分の曲線は、今見ても驚くほどモダンで温かみがある。これこそ職人の手が生んだ最高の造形物のひとつだ。イタリアには今もレオナルド・ダ・ヴィンチに遡さかのぼれる芸術性と技術、そして高い美意識を併せ持った職人が多い。それゆえ、彼らの手による「名品」が、数あまた多存在するのである。ここで紹介する「イタリア名品」を通して、モノの魅力に秘められた人の手の物語をぜひとも皆様に堪能していただきたい。

「名品」のルーツを辿れば、イタリアの地勢が見えてくる

 1861年にイタリアが統一され王国となって以降、国家戦略のひとつとして、建国当時の首都であったトリノほか、同じく北部の有力都市のミラノ、ジェノバを中心に、急速な工業化が始まった。そのため、イタリア経済の産業は、今なお北部に集まる機械、繊維、自動車等の製造業が中心だ。1950年代半ばの高度経済成長を支えた「フィアット社」をはじめ、自動車部品メーカーが数多く集まるトリノ。「ミラノコレクション」がスタートした’78年から、国際的なファッション都市として栄えるミラノ。古くから地中海貿易の中心となってきたジェノバ。ほかにも、伝統的な手工芸製品の技が守り続けられているベネツィア等々……。「名品」のルーツをたどれば、都市国家の地勢を活かし発展してきた、イタリア独自の歴史を垣間見ることができるだろう。

イタリア名品PART1. ポルトローナ・フラウの『バニティフェア』

トレンドを超越した現代アームチェアの原型

[高さ990×横940×奥行き910㎜]¥904,000(IDC大塚家具 有明本 社ショールーム〈ポルトローナ・フラウ〉)

 イタリア北部のトリノで1912年に創業した、ポルトローナ・フラウは、かつてサヴォイア家から王室御用達とされた由緒正しき老舗家具メーカー。フェラーリやマセラティ等の、高級イタリア車の内装を手がけていることでも有名。同社を代表する名作『バニティフェア』(写真)は、「ペレ・フラウ」(フラウの革)と呼ばれる3歳前後の牛の表皮(トップグレイン)のみを採用した最高級レザーと、伝統的な職人技術を用いて誕生した逸品。


イタリア名品PART2. ブリオーニのスーツ『ガエタノ』

 世界最高峰のスーツと呼ばれるブリオーニは、何が優れているのか。まず、既製服でありながら、すべて手仕事で完璧なスーツをつくり上げることにある。イタリア中部、ペンネの工場では、裁断、縫製、ボタンホールの穴をあけるところまで、熟練した「職人の手」がスーツづくりを支えている。1945年の創業以来、受け継がれている哲学だ。

世界のVIP御用達ブランドからクラシックモダンな新モデルが登場

特徴は、同社のスタンダードなジャケットに比べ、着丈が、1~2.5㎝短く設定されていること。また、胸ポケットやボタンホール、ウエスト位置は高めの位置に。アームホールや肩幅も若干タイトになり、よりモダンな雰囲気に仕上がっている。全国9店舗ある直営店では、『ガエタノ』をベースに、ス・ミズーラ(オーダーメイド)も可能。スーツ¥530,000・チーフ¥15,000(ブリオーニ ジャパン)

 多彩なモデルの展開でも傑出している。スーツの表情を決めるラペルや肩回りを、時代の空気に合わせて巧みに進化させるのだ。

 モデル『ガエタノ』は、2012年にブリオーニのクリエイティブディレクターに就任したブレンダン・ミューラン氏が、はじめて手がけたスーツ。

 ブリオーニで人気の高いモデル『ブルニコ』を基に、ウエストラインを強調した、「クラシックモダン」なスタイルだ。ブリオーニの創業者のひとりが、ガエタノ・サヴィーニ氏。ミューラン氏が、オマージュを捧げるモデルでもあるのが、この『ガエタノ』だ。(文・矢部克已)


イタリア名品PART3. ボルサリーノのパナマハット

 ボルサリーノは、1857年、ジョゼッペ・ボルサリーノによってイタリアのアレッサンドリアで創業したブランドだ。紳士用帽子の代名詞的存在で、ボルサリーノをかぶることは世界最高峰の帽子を身につけることであるといわれている。

紳士のステータスシンボル! 世界一粋な中折れ帽子

エクアドル産の本パナマを採用したボルサリーノを代表する定番モデル。本パナマの原材料となるトキヤ草(ヤシ科の一種)は、エクアドルの豊かな土壌と海風によって育まれた高級素材を厳選。現地の限られた職人が手作業で原型となる型に編み込んだ後、イタリアの「ボルサリーノ社」にて、素材の厳選、型入れ、リボン付けが行われる工程は、今も守り続けられている。¥81,000(ボルサリーノ ジャパン)

 ソフト帽が同ブランドの代表作だが、春夏の紳士の装いに欠かせないのがパナマハットだ。名前からパナマ産と誤解されるが、実は故郷はエクアドル。この地で採られるトキヤ草の若葉が原料だ。長いもので数か月もかけて完成するが、人の手で編まれたとは思えないほど、仕上げが緻密で美しい。

 ミディアムサイズのつばが付いたこのモデルは、「エクストラファイン」と呼ばれる厳選された素材が使われている。涼しげで、風通しもよく、日除けにも最適だ。そしてソフト帽同様、斜めに傾けてかぶるのが、イタリア伊達男の流儀。日焼けした肌にナチュラルなパナマハットが絶妙にマッチする。彼らは、それが男っぷりを上げることを十分計算しているに違いない。(文・小暮昌弘)


イタリア名品PART4. トッズのゴンミーニ

 イタリアの男にとって、服と同じくらい重要なのが、クルマである。しかもただのクルマ好きではない。だれもがエンスージアスト=熱狂的なファンで、クルマとその周辺に対して一家言を持っている。ドライビングシューズの元祖、トッズの『ゴンミーニ』は、そんなクルマ好きのイタリア男たちのスタイルが投影された名靴といえる。

ドライビングシューズのジャンルを確立した名靴

ステッチやラバーペブル(ゴム突起)の配色も、実にイタリア的なセンスが香る。また、2013年にデビューしたハイエンドな靴コレクション『J.P.トッズサルトリアル』の他に『ゴンミーニ』が発売。今すぐチェックしたい。レッド、ブルー各¥49,000・ホワイト、ベージュ各¥46,000(トッズ・ジャパン)

 極上の革を使い、足を包み込むようなやわらかなこの靴のはき心地は、しなやかな革を使ったドライビンググローブを連想させる。アイコンのラバーペブルや曲げやすく薄いソールも、クルマのペダルを踏むことを想定したデザイン。少なくとも硬い石畳よりもクルマのマットの上のほうが、快適さが実感できる。トウにかけての精悍なシルエットに至っては、伊達男たちがスポーツカーのドアを開け、日焼けした長い脚を伸ばした、その瞬間を思い描いて線を引いたと思えるほど流麗だ。この靴を見ると、そんな妄想にいつも駆られてしまう。(文・小暮昌弘)


イタリア名品PART5. グリベルのピッケル『モンテビアンコ』

 19世紀半ば、英国上流階級の男たちは未踏峰攻略という大いなる名誉を手にするため、アルプスを目ざした。周辺の村や町では、訪問者の求めに応じ、さまざまな農工具や靴の職人たちが登山専用の道具をつくりだした。

アルピニストの永遠の憧れ! 世にも美しい山道具

アルピニストの間では知らぬ人はいない、イタリアの老舗グリベル。写真のピッケル『モンテビアンコ』(=仏語ではモンブラン)は、雪山だけでなく、険しいヨーロッパのアルプス登山者に愛用されている逸品。シャフトは、ヒッコリーの木材にカーボンプレートを挟み込み、現在の基準に合わせた頑丈なつくり。ヘッド部は、熱鍛造クロモリ鋼。シャフト長75㎝/690g¥21,000(カラファテ〈グリベル〉)

 こうして近代登山=アルピニズムの発展とともに、イタリアの登山道具は信頼を高めていく。農具をつくる鍛冶屋から始まったグリベルもそのひとつだ。熱鍛造一体成型クロモリ網ヘッドに伝統的なウッドシャフトを組み合わせた『モンテビアンコ』は、世界のアルピニストたちが憧れる逸品。シャフトの素材は、強度と衝撃吸収性に優れるヒッコリー。さらに2枚のカーボンプレートを挟み込むことで、長年使い続けても狂いのない頑丈ぶりを実現した。シャフトの耐久性を高めるために亜あ麻ま仁に油を塗るのが、おなじみの儀式。飴色に変わっていく様を楽しみたい。(文・櫻井 香)


イタリア名品PART6. ボッテガ・ヴェネタの『カバ』

 ブランド名をひけらかさない、アンダーステイトメントの精神はイタリアの多くの名品に息づいている。そのひとつが、ボッテガ・ヴェネタのイントレチャート(編み込みレザー)を用いたバッグ。ブランド名を飾らずともそれとわかる、圧倒的なオーラに心を惹かれるのだ。

磨き上げられた職人技が可能にした ラグジュアリートートの代表格

熟練の職人によるワンテクニックが、男心をくすぐる表情豊かな逸品。そもそも『カバ』は、レザーテープをダブルフェイス使いしているため、バッグの内側も外側も同じ仕上がりになっている。さらに極上のナッパレザーの量を2倍も要して完成するため、ラグジュアリー感も倍増。¥1,720,000(ボッテガ・ヴェネタ ジャパン)

 ボッテガ・ヴェネタのトートバッグ『カバ』。クルマの世界観に想を得たという、タイヤの溝を思わせるひだ状に浮き上がったナッパレザーが特徴だ。これは定番のイントレチャートとは違い、およそ2倍のレザーを必要とし、また特殊な技法を使って、限られた熟練職人によってつくられている。新作の青みがかった黒の『カバ』が発する、控えめでありながらも唯一無二の高級感は、やはりアンダーステイトメントの精神に基づいている。
 通常は旅に出る目的があってバッグが必要になるものだが、この『カバ』はこれを持ちたいがために旅に出たくなる。そう、旅に誘うバッグなのである。(文・鷲尾顕司)


イタリア名品PART7. サンタ・マリア・ノヴェッラのオーデコロン

 世界最古の薬局と呼ばれるサンタ・マリア・ノヴェッラ。その歴史は、1221年、フィレンツェにあった小さな修道院にまで遡る。ここで修道僧たちは栽培した草花を調合し、植物が持つ薬理的効果から、薬剤などを処方していた。そして、植物エキスを抽出した香りの水もつくられていたのだが、実はこれがオーデコロンのルーツになる。

世界最古の薬局を日常に愛用する贅沢

同社が展開する40種類のオーデコロンのなかから、ブランドの名を冠した500年以上継承される歴史的な香り『サンタ・マリア・ノヴェッラ』をはじめ、『サンダーロ』(白檀)、『メログラーノ』(ザクロ)、『ポプリ』等、メンズプレシャス世代に人気の高い6点を厳選した。すべて天然香料が用いられているため、本物を知る紳士が顧客リストに名を連ねるのも頷ける。メンズグルーミング用品からオーラルケアまで、幅広い商品がそろう。100ml各¥14,000・『シチリア』のみ¥16,000(サンタ・マリア・ノヴェッラ丸の内)

 その香りの水を、16世紀のフィレンツェを支配していたメディチ家の娘、カテリーナが、フランス王家のアンリ2世に輿入れするときに持ち込んだことで、王侯貴族の間で大流行。それが隣国フランスで香水文化が花開くきっかけとなったのである。

 数多くの香水ブランドが台頭している現代でも、サンタ・マリア・ノヴェッラが代々受け継いできたレシピや天然香料へのこだわりは当時のまま。人工香料を使うことも、時代のトレンドを追うこともなく、ルネッサンス黄金時代の名香を、時を超えて、今に伝え続けている。(文・加藤智一)


イタリア名品PART8. エトロのポケットチーフ

紳士のジャケットの胸ポケットには、2枚のポケットチーフが必要だ。1枚は、白無地のリネン製。そしてもう1枚は、華やかな色柄のシルク製。さらに後者には何を選べばよいかという問いに対して、私ならエトロの象徴的モチーフ、ペイズリー柄と即答する。

イタリアンスタンダードのポケットチーフ

同社が誇るペイズリー柄のポケットチーフは、実は伊達男の間で密かな人気を集める隠れ「名品」。毎シーズン次々欲しくなる色柄が充実するが、ひと目惚れした一枚に出合った際は、即購入をおすすめする。写真のグリーンのほかに、ブルー、ピンクの3色展開。[縦45×横45㎝]¥14,000(エトロ ジャパン)

 その紋様は個性的だが実に上品で、派手さよりもエレガントな印象が先にたつ。しかもその多色使いは、意外にも単色ものに比べて合わせるシャツやタイを選ばない。無造作に胸ポケットに挿すだけで、華やぎつつも調和のとれたカラーコーディネートを完成させてくれるのだ。まさにイタリア流色彩美学の権化ともいえるこのチーフは、胸元のお洒落は難しいと思っている方にこそ試してもらいたい!(文・山下英介)


イタリア名品PART9. フライのドレスシャツ

 1962年、ボローニャで生まれたフライのシャツに宿っているのは、イタリア人の美を極める精神ではないだろうか。

紳士御用達、イタリアカミチェリアの至宝

シルキータッチな極上素材と繊細なディテール、腕の動きにストレスのない、丁寧な仕立てに定評があるフライは、タイをしたときの襟元のエレガントさも格別。¥51,000(ストラスブルゴ〈フライ〉)

「コレッタイオ」と呼ばれる襟づくり専門職人が仕上げるネックラインのエレガントさ。精緻なステッチやボタンホールの端正な仕上がり。

 しかし、仕立てやデザイン以上にだれもが魅了されるのは、素材に違いない。生地の宝石ともいわれるイタリアの名門「カルロ・リーバ」やスイスの老舗「アルモ」など、世界一級のシャツ生地を惜しげもなく使い、正確なカッティングで、素肌に吸い付くような、極上シャツをつくりあげる。このパーフェクトな完成度に、イタリア人の、シャツへの美意識が凝縮されているといっても過言ではない。(文・小暮昌弘)


イタリア名品PART10. ヘルノのダウンベスト

 ダウンベストには長く世話になっている。アウトドアスタイルが流行った時代、ジージャンの上などにアウターとして重ねる着こなしに憧れ、即購入したのが始まりだ。

ダウンの常識を覆したイタリア男の春の大定番

もはや洒落者の春のマストアイテムに数えられるヘルノのダウンベストは、一般的なベストよりボリュームが抑えられた細身シルエットのため、オン&オフ兼用で着られる汎用性の高さが魅力。襟も低く小ぶりに設定されているから、タイドアップ姿も決まる! 各¥49,000(ヘルノプレスルーム)

 そして時代は経って21世紀。ヘルノのダウンベストは当時のモコモコかつ武骨なアウトドア系とは異なり、非常にエレガントで薄地だ。聞けばテーラードジャケットの下などに、インナーとして着込むものだという。従来ならセーターを挟むところを、ダウンベストを重ねるというこの新発想。クラシコスタイルにアクティブな要素を品よく加えようという趣向だ。さすがは高感度なイタリアンブランド。お洒落にはまだまだ組み合わせの妙があることを、この一着によって教わった。(文・長谷川 剛)


イタリア名品APRT11. インコテックスのスラックス

 イタリア随一の人気を誇る、パンツブランドのインコテックス。直訳で既製繊維品産業を表すイタリア語の「Industrie Confezioni Tessili」からINCOTEX(インコテックス)と命名。

既製品の概念を超えた究極のパンツ

『ハイパーサルトリアル』コレクションの1本は、クラシカルな仕立て技が随所に満載。しかもスーパー130’sのトロピカールウール×モヘアの高級素材が採用されているため、はいたときのドレープの美しさは、既製服の限界を超える。¥60,000(スローウエアジャパン〈インコテックス〉)

 美脚パンツの先鞭をつけたインコテックスはシルエットの美しさで、今も他のパンツブランドの追随を許さない。写真で紹介している『ハイパーサルトリアル』は、伝統的な仕立て技を取り入れた極上パンツだ。

 後ろ身の部分は、ベルト地を配さずに、生地一枚で腰までつなげる超絶技のパターンを取り入れる。これまでも『サルトリアーレ』ラインを展開していたが、『ハイパーサルトリアル』は、まさにその到達点といえる至高のできばえである。(文・矢部克已)


イタリア名品PART12. ギアンダのコーヒーテーブル『Kyoto』

 色鮮やかなプラスチックや金属、あるいはガラスでつくられた什器だけが、イタリアを象徴するインテリアではない。イタリアでは古くから木工技術が栄え、優れた指物をつくる手練の職人が多くいる。その木工職人の頂点に立つマエストロが、ギアンダ工房を率いるピエルルイジ・ギアンダ氏。御年87歳となる老練の匠である。

神の手を持つ木工マエストロが挑んだ日本へのオマージュ

金具を一切使用せず、木材のはめ込み技術のみで完成した圧巻のコーヒーテーブル『Kyoto』は、1974年に誕生。写真右奥は、87歳にして現役の木工マエストロ、ピエルルイジ・ギアンダ氏。これまで木製のブックマークやダストボックス等々、数えきれないほどの「名品」を世に送り出してきた。すべての商品に刻印された樫の木のアイコン(写真左)は、ギアンダ=樫の木に由来。ビーチ材+黒檀[高さ350×横900×奥行き900㎜]¥1,200,000(カッシーナ・イクスシー青山本店〈ギアンダ〉)

 超軽量の傑作椅子『スパーレジェーラ』をデザインしたジオ・ポンティ氏やオリベッティのショールームなどを設計したガエ・アウレンティ氏といった世界的に有名な建築家とも交流があり、北イタリアの一流建築家たちの間で、ギアンダ氏のことを知らない者はいない。建築家やデザイナーたちの精密な模型をつくる、木工職人でもある。

 コーヒーテーブル『Kyoto』の誕生は、1972年にイタリアの名建築家、ジャンフランコ・フラッティーニ氏とともに来日したことが端緒となった。

 ふたりで京都の木工職人の工房を訪ねたときだ。巧みな色の表現や緻密な仕事にフラッティーニ氏は惹かれた。そこで発した言葉は、「日本のような組み木細工は、イタリアでは無理だろう」と。それは、フラッティーニ氏が木工の名産地、イタリアのブリアンツァで1889年に創業した、ギアンダ工房の仕事を正確に知り得ていなかったために零こぼれたひと言だった。その後、ふたりは釘や接着剤を一切使わない、テーブルの作製に着手。そして、完成したのが『Kyoto』である。

 精緻な組み木でつくられた、この上なく端正な佇まい。何工程にも及んで、ビーチ材を丹念に磨き上げた木工特有の滑らかな質感と、連続する小さな正方形のグラデーションが相まって、より艶やかに、そして幻想的にも見える。テーブルに映し出された光と影のコントラストは、イタリア人から見た「キョウト」の詩情豊かな陰翳礼賛を見事に演出しているかのようだ。

 ギアンダ氏は、自社工房を訪ねてくる、建築家やデザイナーたちに必ず掛ける言葉がある。「木材は見ているだけでは、何もわからない。手で触り、感触を楽しむことで、木材の心地よさがわかってくる」と。『Kyoto』は、木材の魅力を最大限に発揮し、日伊の感性を詰め込んだ逸品なのである。(文・矢部克已)


イタリア名品PART13. ジョルジオ アルマーニのダブルジャケット

 1990年代初頭あたりまで、何を隠そう私は無類のアルマーニマニアだった。スーツ、ジャケット、シャツ、タイ、そして靴までも、日本やイタリアで手に入れていた。

イタリアンモードを愛する伊達男のための薄軽ジャケット

コットンにナイロンが混紡されたストレッチ素材により、見た目の隙のなさとは裏腹に、ストレスのない極上の着心地。肩パッドを省く事で得られる軽やかさ、そでを通したときの体に沿った立体的なシルエットも秀逸。裏地もストレッチ仕様に。¥290,000(ジョルジオ アルマーニ ジャパン)

 虜になった理由は、優しい中間色のグラデーションで重ねるコーディネートや、ゆったりと体を覆うシルエット、歩いたときの流れるようなドレープ……。それだけではなかった。

 より強く感じていたのはジョルジオ アルマーニを着ていることの喜びと幸福感だった。どんなに優れたデザイナーでも、そこまで心を豊かにさせる服はなかった。

 写真のダブルジャケットは、すそがノーベントで、はおっていることを忘れさせるような軽やかな着用感。デザインの根幹と匂いが、今も当時と変わらずに保たれているのがジョルジオ アルマーニのカリスマ性だ。このジャケットにそでを通すと、デザイナーのジョルジオ・アルマーニ氏が、今もイタリアンモードの頂点に輝き続けていることを体感できるのだ。(文・矢部克已)


イタリア名品PART18. ロロ・ピアーナのカシミアウエア

 イタリアの男は素材について話し始めたら止まらない。ピッティ、ミラノコレクションなどを通じ、何人もの伊達男たちを取材してきたが、服について尋ねると、彼らは「まず、触ってみてくれ」とうながす。

老舗イタリアブランドのオーラ

世界トップクラスのテキスタイルブランドでもあるロロ・ピアーナには、極上のカシミアウエアがある。たとえば、オン&オフ兼用で着られるベビー・カシミア製の一枚仕立てのジャケット。ニットや大判ストールも、季節を問わず不動の人気定番だ。ジャケット¥621,000・ニット¥117,000・ストール¥126,000(ロロ・ピアーナ ジャパン)

 そして「どうだ! 気持ちがいい手触りだろう? これはどこそこで…」と大きなジェスチャーを交えて話し始めるのだ。ロロ・ピアーナの故・セルジオ氏もそうだった。カプリ島付近でのクルーズで、肩掛けにしていたカシミアのセーターを触らせて、その品質を教えてくれた。

 ロロ・ピアーナのカシミアは、他のカシミアとは違う。特にベビー・カシミアは、1着のセーターをつくるために生後12か月に満たない子山羊の、一生に一度だけ採取できる下毛を約19頭分必要とする。やわらかさは筆舌に尽くし難いほど。日本ではカシミアは冬素材というイメージだが、実は通気性にも優れ、通年素材だと教えてくれたのも氏だ。カプリ島からローマに移動して手に入れたカシミアのマフラーは、今も氏の思い出とともにある。(文・鷲尾顕司)


イタリア名品PART19. プラダの「サフィアーノ」レザーのバッグ

 プラダの新作バッグを目にしたとき、僕はポストモダンの巨匠、※A・メンディーニを思った。彼の椅子を燃やすパフォーマンスや18世紀の家具に点描を施し、新しいプロダクトの完成だと言いきる行為に、僕は新鮮なショックを受けたことがある。

 この鞄たちにそんな背景があるかはわからない。

アイコンレザーを採用したモードなビジネスバッグ

同社の伝統的な素材、「サフィアーノ」レザー(カーフの型押し)が採用されたブリーフケース。クラシックなスタイルでありながら、センターにベルトを配する事で、新鮮かつモードなビジネスバッグが誕生した。クラッチバッグは、定番で展開するモデルの新色。上[縦31×横43×マチ12㎝]¥280,000・下[縦26×横36㎝]¥147,000/ともに予定価格(プラダ ジャパンカスタマーリレーションズ)

 しかしあえて色をつけセンターに配したベルトや、鮮やかなカラーに替えたフラップを見ると、お約束に対する反動があるように思われてならない。プラダのウエアには、アロハモチーフをダークトーンにて表現するというものがある。これもまたひとつのアンチ精神とはいえないか。奇しくもメンディーニもプラダもイタリア人だ。保守への愛着とアバンギャルドへの衝動。プラダの新作バッグには、※『プルーストの安楽椅子』にも似た刺激がある。(文・長谷川剛)


イタリア名品PART20. フェンディのレザーコート

 初めて「革ジャン」を手に入れたときの高揚感。そして寝るときですら着ていたくなるような、たまらない愛着……。

 フェンディの名品バッグ『セレリア』の名を冠したレザーコートは、歳月を経て少々目が肥えてしまった私にも、そんな10代の頃のような初々しい気持ちをよみがえらせてくれる一着だ。

明らかに手縫いとわかるハンドステッチの高貴なるオーラ

伝統的なステッチの手法を取り入れた、『セレリア』シリーズの新作。工程のすべてを手作業で完成させるレザーコートは、失敗が許されない革製品だけにその技術の高さを物語る。また、ディアスキン(鹿革)がダブルフェイス使いされたコートの色は『MEN’S Precious』イチ推しのグレージュがベース。サフランイエローとの配色も、実にフェンディらしい選択。¥798,000(フェンディ ジャパン)

 素材は極上の手袋に使われるような、きめ細かなディアスキン(鹿革)。しかもライニングを使わず、裏にも同じ素材を貼り付けるダブルフェイス仕立て。さらに驚くべきは、その縫製はほとんどが『セレリア』伝統のハンドステッチ……!

 この贅沢さに心を動かされない人間がいたら、ぜひ教えてほしいものだ。とはいえ鮮やかなバイカラーやシャープなシルエットは実に軽快で、名品然と威張ったところがないのも魅力。大人になった今は、こんなイタリアならではのレザーと構えず向き合いたい、と素直に思う。でもこれを手に入れたその夜は、きっと昔のように着たまま寝てしまうのだろうな。(文・山下英介)



イタリア名品PART21. ビアレッティの『モカエキスプレス』

 イタリアでコーヒーといえばエスプレッソのことを指す。カプチーノやラテといった独自の飲み方もイタリアから発展した。そういえばマキアートもイタリア語だ。

 深煎りの、それも細かく挽かれたコーヒー豆を、加圧した沸騰水で淹れるこの飲み方が一般的になったのは、1933年に「ビアレッティ社」がこの『モカエキスプレス』を発売してから。

イタリアでは一家に一台は当たり前! 直火式エスプレッソマシーン

イタリア・ピエモンテ州北部(スイスとの国境沿い)の家庭用品の街オメーニアで創業。アレッシィも同地域にあり、創業者同士は友人関係にある。写真の『モカエキスプレス』は、イタリアでは、「マネキッタ」(小さなエスプレッソマシーン)と呼ばれているが、今では1カップ用から18カップ用の特大サイズまで展開。アウトドアでも重宝する。ニューヨーク近代美術館の永久展示品にも選ばれている。写真上から3カップ用 ¥4,800・1カップ用 ¥4,200・6カップ用 ¥5,300(クリンプ〈ビアレッティ〉)

 当時、ようやく量産化されるようになってきたアルミニウムをボディに使用し、ハンドルはベークライト製、注ぎ口も含めた12角形のスタイリッシュな製品だった。

 密閉された本体の中で加熱された水が、加圧された水蒸気となり、その勢いでコーヒーを抽出する。理科の実験で学ぶような仕組みであるが、それを美しくデザインして製品化するところがイタリア人の真骨頂。アトリエリスタと呼ばれる工業や芸術分野の専門職が伝統的に育つ環境だからこそ、こんな魅力的な製品が生まれるのだろう。電気式ではなくアナログなモカ・ポットの代名詞である。(文・土居輝彦)


イタリア名品PART22. マジスの『エアチェア』

 現代における家具のトレンドは、アウトドア家具だといわれている。家具は室内で使うもの、というあたりまえのような認識はもう、前世紀の価値観と言わざるを得ない。そんなムーブメントの、ひとつの契機となったのがイタリアの「マジス社」から発売されたこの『エアチェア』だ。

最先端技術が投入されたミレニアム生まれの名作椅子

つなぎ目が一切ない、極限までにシンプルなデザイン構造の『エアチェア』は、2000年の誕生以来、世界中の公共施設やカフェ等でも積極的に採用されている。防水性に優れたグラスファイバー入りポリプロピレン素材が採用されているから、屋外での使用も可能。全8色展開。¥17,000(マジスジャパン)

 デザイナーは英国人のジャスパー・モリソン。現在最も影響力のあるデザイナーのひとりとして知られている。『エアチェア』は文字どおり空気のように軽やかなフォルムと、角を排した特徴的なスタイリングを持つ。スタッキング(重ね積み)が容易で、重ねたときの美しさも含めたデザインは秀逸である。実はイタリア・ブランドは、家具の世界において早くから大量生産が可能な新素材の導入を行ってきた歴史がある。比較的安価な新素材の製品に、ある一定以上のデザイン的な価値を持たせるのは、家具に限らず多くのイタリア製品に共通する特徴だ。柔軟な発想はイタリア人が持つ宝物のような気質。1976年創業の同社にもその血は脈々と流れている。(文・土居輝彦)


イタリア名品PART23. ドルチェ&ガッバーナのテーラードジャケット

 まるでレントゲン写真のようだが、驚くなかれ。こちらはシルクのオーガンジーを表地に使い、わざとその構造が透けるように仕立てた、前代未聞のジャケットなのだ!

イタリアサルトのルーツが香るモードブランドの粋な演出

仕立て技術のひとつ、毛芯をデザインに採用しているため、胸部からウエストにかけての立体的なシルエットは絶品。ラペルもまた、やわらかな表情に仕上がっている。¥428,000(ドルチェ&ガッバーナ ジャパン)

 前身頃に張り巡らされた馬毛による芯地や、それらを表地となじませるために施された「ハ刺し」というステッチ。それらは現代ではなかなかお目にかかれない、古典的な仕立ての技法。よほどの自信がなければ、これをデザインとして露出させることはできないだろう。そして襟から二の腕にかけて吸い付くように流れるライン。男らしい胸回りのボリューム感。そして砂時計のようにメリハリの利いたシルエット……。

 そんなドルチェ&ガッバーナのジャケットの美しさが、決して伊達じゃないことの証明だ。そう、この一着はシチリアの仕立て屋の息子として育ったデザイナー、ドメニコ・ドルチェの強烈な自信の表れであると同時に、本質よりイメージで洋服を選びがちな私たちに対する、少々挑発的なメッセージなのだ。(文・山下英介)


イタリア名品PARR24. ペルソールのサングラス

 イタリア男の定番サングラスと呼び声の高いペルソールのなかで、半世紀にわたりベストセラーを続けるのが、この折りたたみ式サングラス『714』である。

大人の男の色気が香るふたつ折りサングラス

今なおかっこいいサングラスのお手本として憧れを集める、スティーヴ・マックイーン愛用モデルとして知られる同社の『714』モデル。ちなみにブランド名のペルソールとは、「太陽を防ぐ」というイタリア語に由来する。写真の茶、黒のフレームの他、淡茶有り。各¥32,000(ペルソール事業部)

 そもそもトラム(路面電車)運転手の目を風塵から守るために開発されたモデル『649』を、コンパクトに持ち運べるよう折りたたみ式に改良したのが、『714』誕生のきっかけだ。

 折りたたみを適えるために採用されたヒンジも、イタリアブランドにかかれば、顔回りを華やかに飾る美しいフレームデザインに変わるから不思議だ。かつて『714』の魅力にいち早く気づいた稀代の伊達男たちにならって、大人の色っぽさが宿るサングラスに、この春、挑戦してみたいと思っている。(文・入江眞介)


イタリア名品PART25. PT01のパンツ

 パンツを装いの帳尻合わせのように選んでいた時期もあった。しかしPT01に出合ってその意識は完全に払拭された。

男のパンツにさらなる革命を起こす、イタリア屈指のパンツ

伝統的なスラックスづくりを出自とするPT01は、現代的な解釈とエッセンスを加えたパンツづくりが特徴的。どれもヒップや太もも回りにストレスがなく、脚長効果を備えた完璧なシルエット。写真上から『フライ』¥33,000・『ビスポーク』¥32,000・『サンバース』¥35,000(PT JAPAN〈PT01〉)

 まずテーラードを意識したていねいなつくり込みが素晴しい。それに加え、蝶の刺しゅうやカラフルな柄の内装など随所に遊びを取り入れており、ジャケットを買うときのようにワクワクしながら仕掛けやディテールを吟味する楽しみを備えているところにも感銘を受けた。イタリア人ならではの遊び心がついにパンツにまで及んだということだろう。人生を味わい尽くすのと同様、パンツもできるだけ個性を加えて楽しんでしまおうというその情熱。PT01の出現により、パンツはもはや脇役ではなくなった。装いにおける堂々の主役なのである。(文・長谷川 剛)


イタリア名品PART26. ベルヴェストの『ジャケット イン ザ ボックス』

『ジャケット イン ザ ボックス』が誕生したのは、ちょうど20年前。以来、ベルヴェストの巧みな服づくりを語るうえで、高度に機械化された同社工場の技術力を見せつける、重要なアイコンモデルとなってきた。

ジェットセッター必携! 薄軽ジャケットのキング

出張の多いビジネスマンから絶大な信頼が寄せられる同社の人気定番、『ジャケット イン ザ ボックス』。シルエットやディテールに大きな変更はないが、素材の持つ発色の美しさにより、シックでラグジュアリーに着こなせる。ウール100%。¥175,000(八木通商〈ベルヴェスト〉)

 芯地をまったく使用しない一枚仕立ては、ニットカーディガンのような軽快さを帯びている。どんなに極薄仕立てのジャケットでも、縫製やアイロン作業を通して美しく成形されているため、人気の衰えないロングセラーになっている。

 創業50年を超えた名門ブランド「ベルヴェスト」は、クラシックな服づくりを基本に、モダンなスタイルを発信するブランドの名品として、『ジャケット イン ザ ボックス』は君臨する。(文・矢部克已)


イタリア名品PART27. エンツォ ボナフェのコードバンシューズ

「九分仕立て」の靴を手がける、ボローニャの小さな工房エンツォ ボナフェ。

名だたるメゾンの靴を手がけるイタリアが誇る超実力派

「ホーウィン社」のコードバンが採用された、同社を代表する逸品。そもそも名だたるブランドの靴づくりに携わってきた靴メーカーだけに、その実力はヨーロッパのVIPも認めるほど。一生ものにふさわしい流行を超越した生粋のイタリア靴。¥155,000(オリエンタルシューズ〈エンツォ ボナフェ〉)

 「九分仕立て」とは9割手づくりという意味で、内部構造をすべて手縫いで仕立て、素晴しい足なじみと耐久性を実現するためのもの。当然コストがかさむため、今やイタリア国内の既製靴工場ではほぼ途絶えた製法である。しかしこちらが創業以来半世紀にわたり続けてきた、「九分仕立て」を捨てることはない。しかもその価格は、巷ちまたの機械縫いされた靴とほぼ同じなのだ……!

 もちろんそこには何のタネもなく、ただ小規模な家族経営ゆえの誠実さがあるだけ。質実剛健なデザインも実に好ましいその靴は、まさしくイタリアの良心を具現化した存在といえよう。(文・山下英介)

※価格は2014年春号掲載時の情報です。※価格はすべて参考価格です。

この記事の執筆者
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MEN'S Precious編集部 
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MEN'S Precious2014年春号 豊穣なる「イタリア名品」の誘惑より
名品の魅力を伝える「モノ語りマガジン」を手がける編集者集団です。メンズ・ラグジュアリーのモノ・コト・知識情報、服装のHow toや選ぶべきクルマ、味わうべき美食などの情報を提供します。
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クレジット :
撮影/戸田嘉昭・唐澤光也・小池紀行・辻郷宗平(パイルドライバー/静物)スタイリスト/武内雅英(code/ファッション)・石川英治(tablerockstudio/インテリア他) 構成/兼信実加子