クルマに乗ることはある種のスポーツだ。そう思っているひとは、運転技能が試されるスポーツカーに惹かれる。いっぽう、日常生活にあって、スポーツカーほど求道的にならず、運転の楽しみを提供してくれるクルマもまた、おおいに魅力的である。2021年5月に日本発売された新型「アウディS3スポーツバック」は、ファントゥドライブな1台だ。
運転するとクオリティ感の高さがわかる
同時に発売されたA3スポーツバック(とA3セダン)とともに、新しくなったS3スポーツバック(とS3セダン)。従来のMQBエボなるシャシーをアップデートしての登場だ。A3が999cc3気筒であるのに対して、S3は1984cc4気筒と倍の排気量。駆動方式も、前輪駆動に対してクワトロとよぶフルタイム4WDが採用された。
最高出力は228kW(310ps)で、最大トルクは400Nm。数値から期待できるとおり、走らせると、気持ちよい加速感である。ロケットのようなハッチバックを欲しいひとは、おそらくこのあと登場するRS3に期待したほうがいいと思うものの、足まわりのしっかりしたS3は、日本のワインディングロードを楽しむのに、うってつけだ。
S3をこのサイトの読者に勧めたいのは、クオリティ感の高いドライブが味わえるからだ。さきに触れたように、ワインディングロードでは、確実なステアリングフィールと、安心感の高いサスペンションの設定で、不安なく、かつスピード感のあるコーナリング性能を発揮する。
エンジンフィールも、ロケットのような加速ではない。400Nmもの太いトルクがどんどん積み上がっていくかんじが、2クラスくらい上のクルマを運転しているような気持ちよさにつながる。
S3は、専用のスポーツサスペンションと、やはり専用のプログレッシブステアリングシステムをもつ。後者は、中立ふきんから左右いずれかに操舵したときに、車体の反応がより速いような設定なので、カーブでは切れ角すくなく速い速度で走れるなどメリットをもつ。
アウディらしい演出が満載!
試乗車には、加えて、ダンピングコントロールサスペンションというオプションが装着されていた。いわゆる電子制御ダンパーである。これが”いい仕事”をしてくれていて、乗り心地のよさとともに、ハイスピード時の操縦性を引き上げてくれているのだ。
シートは中央部のからだが触れるところが(レースカーのように)人工スエード張りなので、ホールド性が高い。太めのグリップの小径ステアリングホイールを握ったかんじは、アウディのスポーツモデルに接したことがあるひとなら先刻ご承知のとおり、かなりやる気をあおってくれる。うまいデザインだ。
かつ、新型S3はコクピットまわりのデジタル化が進んでいる。たとえば、計器盤のバーチャルコクピットととともに、ダッシュボードセンター部に12.3インチの大型インフォテイメントシステム用の液晶コントロールパネルがそなわる。
スマートフォンを(コードレスのまま)接続することができ、スマートフォン内のナビゲーションや音楽やメールなどのデータをクルマのモニターに反映させることが出来るし、車外からいくつものコマンドが可能になっている。
30色のアンビエントライトがモニターで選べるのは、今回の特徴で、気分で色を変えられるインテリア感覚が、なかなか好ましいのだ。インテリアの主要構造にかけるコストは抑えつつ、モニターやこうした照明で質感を上げる、いわゆるバリューエンジニアリングの成功例といえる。
運転支援システムも、S3は標準装備が多い。アダプティブクルーズコントロール、アクティブレーンアシスト、トラフィックジャムアシストを統合した「アダプティブクルーズアシスト」を搭載している。
S3スポーツバックの価格は642万円。今回乗ったのは「1st Edition」という限定モデルだ。19インチホイール、スポーツシート、ブラックスタイリングパッケージ、ブラックエクステリアミラーなどをそなえて711万円。ちなみにS3ではセダンも同時発売され、こちらは661万円である。
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- 小川フミオ ライフスタイルジャーナリスト