ブランディングディレクターとして活躍中の行方ひさこさんに、日本各地で出会った趣のある品や、その作り手たちをご紹介いただく連載企画がスタートします。
第1回目の今回は、ドン・ペリニヨン公認のシャンパンクーラー「konoha」を生み出した中川木工芸比良工房をご紹介します。
【中川木工芸比良工房「konoha」】ドン・ペリニヨンも認める思考と技
日本人が生活文化の中で楽しんできた木の美しさと特性を活かした、ラグジュアリーなシャンパンクーラー。「ドン・ペリニヨン」に正式に認められた、中川木工芸の木の葉型にデザインされたクーラー「konoha」を目にしたことはがある人も多いのではないでしょうか。
もちろんシャンパンだけでなく、ワインや日本酒を冷やすのに使っても。和のテーブルだけでなく、ジャンルを問わずスッと馴染んでくれるシャンパンクーラーが生まれた現場を訪れました。
中川木工芸とは
滋賀県琵琶湖のほとりにある中川木工芸比良工房は、木桶やおひつを作る工房です。初代亀一さんが京都白河に工房を開いたのが始まり。2代目清司さんが京都工房を主宰しており、3代目周士さんは2代目清司さんの重要無形文化財認定後、生まれ育った土地を離れてこの地、滋賀に工房を開きました。
桶屋という職業は、次の世代やその次の世代には必要がなくなると思った周士さんは、常に伝統工芸を新たなステージに引き上げようと、職人仲間たちと意欲的に様々な取り組みをされています。
職人が暗黙知で語り継いでいることを、テクノロジーで紐解いていく
桶は、側面の木と底の木を寸分の狂いなく組み合わせ、最後に金属で出来た「タガ」と呼ばれる輪で締めあげたもの。「タガ」で締め上げた木桶の中に水を入れると、水を吸った木が膨張する。それを「タガ」が止めて、水を入れれば入れるほど水漏れがしなくなるという不思議な構造なのです。
そもそも木桶は、高野槇という日本古来の木材で作られているので、その材質の特性から水に強く結露をしません。指物で作られる桶ですので、錆の心配もありません。
指物ならではのシンプルな作りは、壊れた際の修理がしやすいという点から、長年日本人の日常生活を支えてきました。「風が吹けば桶屋が儲かる。」なんてことわざになるほど生活に密着していたんですね。
側面の板、底の板、そして「タガ」と材料は少ないのですが、板を形成するまでには300種ものカンナや刃物を使い分け、気が遠くなるほどの精密な技術を要します。
木桶の造形に変化を生み出すには、側面の板の角度がカギ。従来の桶より特殊な構造の桶を作るには、より高い精度が求められます。
中川さんは、普通の桶作りでは使用しないPCを駆使し、設計図をもとに3Dモデリングソフトによる解析をし、細かな数値を計算。ロジカルな仕組みを作ることで、抽象的な職人技を数値化し、より複雑な形状の製品づくりができるようになったんだそうです。
700年ほど続く伝統的な木桶製作の基本的な動作は今も変わらないけれど、最新のテクノロジーで従来では見えなかった領域へと進化しているのです。
チャレンジし続けること
さらに、中川さんは桶には使えない木材で新たな作品を生み出しています。これらは下の「タガ」が、上の木を閉める桶と同じ原理を利用しているんだそう。こちらは桶の形状と違って、木そのものの形を活かした唯一無二の姿をしています。
職人によって作られた作品は大量生産の品と違い、壊れても修理をすることで長く使うことができます。中川木工芸には、100年前につくられた桶が今も修理に持ち込まれるといいます。
中川さんが作る木の桶は、日本人が愛してきた木の美しさと温かみと、ものを大切に使うという精神も表現しています。新しいチャレンジをし続ける、中川さん。次の作品への期待も高まります。
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- TEXT :
- 行方ひさこ ブランディングディレクター
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- WRITING :
- 行方ひさこ