優れた道具が「名品」と呼ばれるのは自明の論理である。しかし、そこには使う人それぞれの想いや、使い方によっていくつもの方程式があるようだ。プロが選ぶ道具には、必然的な理由がある。それがなくては仕事にならないという確固たる存在意義がある。プロが日々の仕事を通じて向き合っている愛用品には、だから確かな名品たるゆえんがあるのだ。MEN'S Preciousが追い求める「名品」とは何か。その究極の答えがここにある

プロにとって名品たる道具とは何か?

 今では、あたりまえのようにダウンジャケットやフィールドブーツといったアウトドア・ガジェットがタウンユースのファッション・アイテムとして愛用されている。しかし、1970年代以前の日本で、それはあり得ない光景だった。そんなファッション・シーンをアッという間に一変させたひとりの男がいる。それが、日本初のアウトドア専門店として今や伝説的存在ともなっている「スポーツトレイン」を開いた油井昌由樹さんだ。油井さんは、それまで紹介されることのなかったL.L.ビーンやレッドウィングといったアメリカ発のアウトドア・ブランドを日本に紹介。いわば、道具選びにおける究極の目利きと呼んでも過言ではない存在なのだ。そんな油井さんにとってプロの道具とは何か、伺った。

それは、最高の仕事を成し遂げるための相棒

「俺にとってファッションは、人間という動物の最も外側にある組織、言い換えるならばもうひとつの皮膚だという意識がある。だからファッションっていうのは、第一義的な意味において、体を守るべき道具なんですよ。それは、アウトドアだろうが都会だろうが変わらない。ヘビーデューティであることが基本で、だからいつもそういう格好をして生きている。

写真は、油井さんがこの40年来欠かさず身につけているという、ジッポーがバックルに収まるスポーツトレインオリジナルのベルトと、そこに携行されるガーバーの「マルチツール」。これさえあれば生きて行けると油井さんが語る、究極の道具でもある。デニムもスポーツトレインのオリジナル(私物)。

 道具についてもまったく同じ考え方で、俺にとっては生きて行くために必要な物なんです。それで毎日身につけているのが、ベルトのバックルに忍ばせているジッポーのライターやガーバーのマルチツールといった道具。自分の体ひとつじゃどうにもならないことが起きても、道具があれば対応できるからね。そういう意味で携行しているし、自分の命をそれらの道具に委ねているということなんだよね。もちろん自分もそうだけど、これがあれば人を助けることができるかもしれないから。

 要するに、俺にとって道具とは、人が生きて行くために必要なモノだということなんです。道具の本質を語ればそういうことに行き着くんじゃないかな。プロの道具も同じことが言えるでしょ? 料理人が使う包丁だって、要するに人は食べなければ生きて行けないから料理があるわけで、それを生み出すために存在している道具なんだから。どんな道具も、これさえあれば人間が生き延びられる、っていうことに繫がっていると思う。そのためには、使う人間によって応用が利く道具でないといけない。

 どんな職種のプロフェッショナルも、恐らくは与えられた道具を自分なりに創意工夫して、最高の結果を導き出そうとしているはず。自分のほうがいかに道具に馴染んで、どう使えばよいモノができ上がるかを考えて日々、使っていると思いますよ。翻って言えば、そうやって道具と格闘することでスキルも磨かれて行くんじゃないかな。

 そういう意味では、プロの道具とは名品である必要はなくて、そのプロが最高の仕事を発揮できるかどうかで、初めて名品と呼ばれるようになるのだと思う。俺はそんなふうに考えています」

PROFILE
油井昌由樹(ゆい・まさゆき)
1947年神奈川県生まれ。’72年、日本初のアウトドア専門ショップ「スポーツトレイン」をオープン。L.L.ビーンやレッドウィングなどを輸入し、日本にアウトドアという概念を定着させた立役者。ヘビーデューティという概念を日本で初めてファッションの世界に取り込み、今も定番とされるメンズ・スタイルのひとつの礎を築いた。編集者としても『メイドインU.S.A.カタログ』、『ポパイ』などで手腕を発揮。また、俳優としても、黒澤明監督の『影武者』をはじめ、多くの作品に出演するなど多彩な顔を持つ。

玄人名品〜1「シャツ仕立ての名人が敬愛するアイロン」

佇まいが美しく、温もりさえ感じさせる

 シャツ職人である山神正則さんにとって、なくてはならない道具の筆頭がアイロンである。「シャツをオーダーいただいたお客様に、品物をお納めする最後の工程がアイロンがけです。ですから、自分が心の底から納得した道具で仕上げたい。それが最低限の礼儀だと思うのです。そういう意味でも、アイロンは最も重要なアイテムなんです」

 業務用のアイロンは、当然のことながら材質が金属ということもあって「無機質で冷たい印象のモノが多い」と山神さん。しかし、このタキイ電器製の『7型自動アイロン』は取っ手が木製であり、台面のフォルムも先端から後端にかけてのラインが、シャープでありながらふくよかであることから、佇まいがやわらかく感じられるという。「木製の取っ手は実際にプレスをかける際、手に自然にフィットするし、何よりモノとしての温もりを感じます。シャツの仕立ては子供を育てるような感覚があるので、道具も温もりのあるものを使いたかった。その理想に合致した道具がこのアイロンでした」『7型自動アイロン』の重量は、約2.8kg。手にするとずしりと重い。しかし、この重みが適度なすべりと自然なプレス感覚を生み出すという。スチーム機能は付いていない。しかし、熱を加えて生地を端正に仕上げるには、この単機能に徹した潔さが大いに役立つのだと語る。

木製のハンドルが見た目の温かみとともに、作業性の向上にも貢献。何より、底面を構成する部分の硬質クロームの輝きと美しいフォルムが、見るからに機能性の高さを演出。約2.8㎏という本体の適度な重量が、安定した手さばきを可能とし、美しい仕上がりを実現する。温度設定は70℃から240℃と幅広く、自動温度調節器を備える。7型自動アイロン¥37,500(タキイ電器)
PROFILE
山神正則(やまがみ・まさのり)
1976年生まれ。シャツ職人。丸縫いができる日本では希有な存在。南イタリアのシャツをベースに世界中のシャツを研究。そのシャツは、コンパクトなシルエットながら肩をふわりと包み込む着心地が特徴。本場、フィレンツェの職人組合の賞も受賞。

玄人名品〜2「南極観測隊の隊員が着用するアウター」

国内外の冬山などでも重宝。軽くて暖かい究極のアウター

「極地で着用するアウターに求められる要件は3つ。風を遮断してくれること、体温を保持してくれること、そして外皮が破れにくく丈夫なこと。この3点に尽きます。風に吹かれると体感温が下がります。外は風を遮断し、一番の断熱材になる空気の層を内側のダウンがつくってくれることが何より大切なんです」

 そう語るのは、女性記者として初めて第45次南極観測越冬隊(2003年)に参加し、以後も南極1回、北極滞在5回を誇る、極地取材のスペシャリストの中山由美さん。

 そんな中山さんが、「南極観測という特殊な用途だけではなく、冬山用のアウターとして、これは名品と呼べる存在」と語るのが、ここにご紹介するモンベルの『ポーラーダウンパーカ』である。

 このダウンパーカ、表地には耐摩耗性と引裂強度に優れたシェル素材を採用。内部には、800フィルパワー(フィルパワーとはダウンの品質を表す単位。600前後が一般的な良質ダウンで数値が高いほど高品質とされる。)を誇る良質な「EXダウン」が使用され、軽さとともに極めて高い保温性を確保していることが最大の特徴。また、野外での作業性を考慮して、内外合わせて10個のポケットが取り付けられているのも極地での作業効率を高めているという。さらに、凍傷防止のための樹脂性ジッパー、そで口からの寒気の侵入を防ぐフリース地による二重のインナーカフを採用するなど、寒冷地で作業する人たちのアイディアが細かいところに取り入れられているのも興味深い。

南極観測隊や極地冒険家の意見を取り入れ、極寒地にも対応できる保温性と機能性を確保したダウンパーカ。寒暖差の激しい気候で育てられたグースの羽毛だけを使い、暖かさと軽さを両立したEXダウンが特徴。モンベルのポーラーダウンパーカ¥36,500(モンベル・カスタマー・サービス〈モンベル〉)
PROFILE
中山由美(なかや・まゆみ)
朝日新聞報道局社会部記者。2003年秋から1年4か月間、女性記者として初めて第45次南極観測越冬隊に同行取材。これまで、南極2回、北極5回の滞在経験を持つなど極地取材のスペシャリストとして活躍。

玄人名品〜3「極上ワインを提供する店主が手放せないソムリエナイフ」

程よくこなれた頃の、美しい経年変化も愉しい

 ラギオールを使いはじめたのは、20年ほど前のこと。未だあまり出回っていない頃で、見たことがないものだから使ってみようか、というくらいの軽い気持ちだった。

 僕たちのようなプロにとって、道具とは毎日使う必需品。だから「何を使っているか」ということよりも、それを「どう使っているか」が大事。姿形が美しいとか、素材が純銀だからなんていうスペック的なことではなくて、どちらかと言えば、頑丈で日々の酷使に耐えてくれそうなものに自然と目がいってしまう。

 このラギオールのソムリエナイフも、スクリューの先端を針のように削るという、自分なりのカスタマイズに耐える強度がありそうだなと思ったので手にしたまで。実際、日に何十本とワインを開けても、このナイフはずっと耐えてくれたし、いつも数年間は活躍してくれる。

 それまでのものはやっと手に馴染んで来たなと思うとスクリューと本体を繫ぐ部分が折れてしまったり。でもこれはそういうことがない。その上、純銀製なので日々の使用でいい具合に経年変化がついて、実に味わい深い肌合いになってくれる。いい道具は手に馴染んでから長く使える。そして、派手さはないが、用途に対して実に理に適かなっているから別のものに替えようという気がおきない。だから一生使い続けたいと自然に思わせてくれる。そこが名品たる所以だろうか。(談)

シャトー・ラギオールはフランス・ティエールにて1850年に創業した洋食器、刃物メーカーが展開するソムリエナイフのブランド。これはそのハイエンドモデルで、20ミクロンの厚さで純銀がコートされている。写真は成田さんが3年使い続けた私物。シャトー・ラギオール シルバーコーティッド¥43,200(日本クリエイティブ〈ラギオール〉)
PROFILE
成田忠明(なりたた・だあき)
フレンチ・レストラン勤務を経て、1995年に独立。東京・六本木でワインバーを開く。2016年10月よりスペシャリティ・ワインショップ「ザ・ワインギャラリー」をオープン。本質的なワインの魅力を伝える活動を展開。特別なワインに興味のある方に向けたメールマガジンを毎週発行中。

玄人名品〜4「洋服のリメイクやカスタマイズを手がける専門店主人愛用のハサミ」

疲労感の少ない道具こそ名品たる物の条件

 私が服のリフォームを専門に行う店を立ち上げたのは、ヨーロッパのように上等な服を修理したり、トレンドに合わせて仕立て直したりして大切に着続ける行為、言い換えるなら本当にいいモノを大事に使い続ける文化を日本に根付かせたかったからである。そのためには、時に服を新しくつくるに等しい創造性と高い技術力が必要であると考え、自分なりに仕事のクオリティを上げる努力をし続けて来たつもりだ。

 この庄三郎のハサミもそんな過程で出合った道具であり、今では決して手放すことのできない相棒のような存在となっている。

 まず何よりその大きさがいい。自分が使っているのは全長28cmのものだが、この大きさで左手用の既製品は他にはない。また、とにかく切れ味が鋭く力がいらないので、圧倒的に疲れにくい。毎日の仕事をこなす上で、疲労感が少ない道具というのは職人にとってとても大切なこと。これこそ名品と呼ぶべき条件の筆頭に上げられるのではないか。また、使い込むほどにじんわりと手に馴染んでくる感触は、冷たい印象しかない刃物とは思えぬほどで、血の通った生きもののようにも感じられる。だからこそ、毎日でも使っていたいと思わせてくれるし、愛着も湧くのだろう。(談)

明治期に欧州から伝わった洋裁用の裁ちバサミ。そこに日本伝統の刀鍛冶の技が注入され、切れ味鋭い日本独自の裁ちバサミが誕生。庄三郎は伝統の技を受け継ぎ、大正9年に創業した老舗ブランド。品質の高さで厚い支持を受けている。写真は檀さん愛用の別注品。裁ちバサミ¥12,400(庄三郎)
PROFILE
檀 正也(だん・せいや)
2000年、福岡で洋服のリメイクなどを手がける「サルト」設立。2007年に東京に移り、’08年に原宿店、’09年に銀座店をオープン。日本に、高級服飾品を仕立て直すという文化を確立した立役者。

玄人名品〜5「自転車ツーキニスト御用達の電動アシスト・バイク」

名品は革新的な物の中からしか生まれない

 自宅から勤務先まで、毎日自転車で通い自転車ツーキニストの異名を持つ疋田智さん。そんな自転車の達人ともいえる疋田さんがすすめる自転車の名品は、意外にも電動アシスト自転車だった。「本来は体力勝負のスポーツ・ロードバイクなのに、楽ちんな電動アシスト付き(笑)。一見、矛盾した邪道の極みのように見える電動アシスト・ロードバイクですが、乗ってみるとアップダウンの多い東京のシティコミュートにぴったり。上り坂ではパワフルなアシスト、しかし、フラットな道ではアシストレスでハイスピードを実現。それが自然にシームレスに実現します。ものすごくアタマのいい自転車なのです」

 このヤマハ『YPJ-R』、電動アシスト付きとはいえモーターユニットが小さく、パッと見には普通のロードバイクのようで確かに違和感がない。それを実現しているのが、ヤマハが新開発したペダルのクランク軸をそのまま回す電動ユニット。従来のチェーンを引っ張るタイプに比べて圧倒的にユニット自体を小型化できるというメリットがある。さらに、美しい質感のアルミフレームを採用した上で、基本の部品に、SHIMANOの名品『105』シリーズを採用。通常のロードバイクとして見ても妥協のない仕上がりに名品の香りが漂う。「名品と呼べるモノは、機能的に優れていることはもちろんのこと、色、デザインなどの見た目も重要になってくる。いい道具は、常に革新の中から生まれてくるもの。この自転車も機能、デザイン、何より先見性という点において、これからの名品と呼べる逸材だと思っています」

「走る楽しみ」を追求し、電動アシスト自転車の新たな存在意義を模索しようと開発されたのが『YPJ-R』。従来の電動自転車のイメージを一新する機能美豊かなデザインで見る者を魅了。所有欲を満たしてくれる初めての電動アシスト自転車といえよう。ヤマハYPJ-R¥230,000(ヤマハ発動機株式会社お客様相談室〈ヤマハ〉)
PROFILE
疋田 智(ひきた・さとし)
勤務先である東京・赤坂のテレビ局まで毎日自転車で通う自転車ツーキニスト。NPO法人自転車活用推進研究会理事、学習院大学生涯学習センター非常勤講師として、都市交通における自転車の活用を提言している。

玄人名品〜6「革靴のリペア職人が開発したエプロン」

靴磨きという最高の時間をより快適なものに

 革靴のリペアを専門に扱う工房として、22年前にオープンした「ユニオンワークス」。その代表である中川一康さんに、靴に対する想いを伺うと次のような答えが返ってきた。「気に入った一足にブラシをかけてやるとき、磨き終わって鈍く光る一足を眺めているとき、最高の時間を過ごしていると実感します」

 そんな中川さんが、靴磨きという至福の時をさらに快適なものとするため、自らの工房で制作したのが、このオリジナルのエプロンだ。

 特筆すべき点はふたつ。ひとつは、椅子に座って膝ひざ上で磨くことを考慮し、膝下までしっかりカバーする着丈の長さを確保したこと。さらには、膝の上に重い靴を置いて作業しても、決してへたることがない、ハリのある丈夫な生地を採用したこと。ウエスト部にはひもがあり、結ぶと膝上の作業スペースがダブつかないという配慮もなされている。いずれも快適な靴磨きをする上では欠かせない要素で、「これがあれば、靴磨きの時間がさらに充実するはず」と語る。「どんな道具にも言えることですが、いい道具とは長い時間に亘って使用できる耐久性があること、また使い続けたいと思える質実剛健なデザインであることが大切だと思います」

 このエプロンにはそんな中川さんの想いが込められているようだ。

椅子に腰掛けた際にひざ下がほどよく隠れるくらいの着丈の長さがポイント。座ることでひざ上が靴磨きのスペースになり快適に作業ができる。シックなネイビーカラーも男の作業着として重宝しそうだ。キッチン用としても活用できる逸品。ユニオンワークス・オリジナルエプロン¥8,000(UNION WORKS 渋谷店〈ユニオン ワークス オリジナル〉)
PROFILE
中川一康(なかがわ・ひろやす)
「大切な一足を安心して任せられる修理店」を目ざし、1994年に世田谷に小さな修理工房を構える。’96年、渋谷へ移転し「ユニオンワークス渋谷」をオープン。以後、高級靴の修理にとどまらず、ケア用品の輸入やオリジナルシューズの販売をも手がけ、現在に至る。

玄人名品〜7「腕利き理容師が手がけたグルーミングアイテム」

すべては顧客のために、それが優れた道具となる

 現在、都内で7つのサロンを展開する「ザ・バーバー」。代表のヒロ・マツダさんは、卓越した技能者のみに贈られる「現代の名工」を受賞した腕利きの理容師である。そんなヒロ・マツダさんが日々の仕事で愛用しているのが、自ら開発に携わったオリジナル・レザーである。

「以前、お客様から顔を剃ってもらいたいけれど、肌が痛くなるのが困るという声をよく聞かされていました。理髪店で使う一枚刃のレザー(写真中)は、髭はよく剃れるけれども、どうしても肌を痛めてしまう。では、どうすればよいか。考えに考えて、肌に圧をかけずに安全に剃ることを目的とした、一般にも売られている2枚刃、3枚刃のレザー・ヘッドを活用することにしたのです。これで剃ると肌に負担がかからないから、痛みが出ない。その上で、ヘッドを顔の形や凹凸に合わせて回転させられるようにし、理容師が仕事をしやすいような工夫も施しました。どうすれば的確に、安全に髭剃りができるか。そのための技を道具の開発に注ぎ込んだのです」

 真に優れた道具、即ちプロにとっての名品とは「使う人間のためではなく、お客様のためにあるもの」だとマツダさん。「お客様が満足され、快適な時間を過ごせるような道具こそ真の名品」とも語ってくれた。

3本あるレザーのうち右の1本がヒロ・マツダさんが最初に開発したオリジナル。左はそれをもとにフェザー社が市販しているものになる。THE BARBERシェービングカップ¥10,000 左/フェザーFシステム¥22,000・中/フェザーアーティストクラブレザー 限定品¥6,000・右/THEBARBER オリジナルレザー¥18,000(ザ・バーバー オフィス〈ザ・バーバー〉) アルゲブルーヴィタルクリーム¥7,000(タルゴジャポン〈タルゴ〉)
PROFILE
ヒロ・マツダ(ひろ・まつだ)
ロンドン、パリへ留学してカット技法を学んだ後、第30回全国理容競技大会で優勝。卓越した技能を持つその道の第一人者として2005年には「現代の名工」を受賞。’06年「ザ・バーバー」を創業、現在都内に7店舗を展開している。

玄人名品〜8「世界の旅先で、創造力の発露となってくれるカメラ」

すべては顧客のために、それが優れた道具となる

 僕はカメラを使用するとき、いつも標準レンズしか使っておらず、望遠レンズやズームレンズは、ほとんど使わない。撮影したい対象に自ら歩いて寄ったり、または離れたりしながら撮影をしている。この撮影スタイルを僕は「自分ズーム」と呼んでいる。

 だから、近くに寄りたくても寄れない状況で時には撮影しなければならないし、逆にもっと離れて撮りたいけど、後ろに障害物があって離れられないから、その場所にとどまりながら撮った、ということもある。つまりは、その場に即した状況でしか撮影しないし、逆に言えばその事実がすべて写真に写る。それも写真の持っている面白さだと思うのだ。

 自然を相手にして撮影していると、このカメラには助けられることが多い。ニッコールのレンズを採用しているので、明るくて描写のやわらかい絵が撮れる。何より、中判カメラなのに折りたたみの蛇腹形式なので、コンパクトなサイズで持ち運びできるのがとても便利だ。フルメカニカルカメラ故に、電池が必要ないという機構も極地や寒冷地ではありがたい。

 機能性が高いのはもちろん、見た目も機械と呼ぶに相応しい存在感がある。機能に特化した物が、得てしてデザインの面から見ても優れていることは多いが、これはそのお手本のような存在。それもこのカメラが名品だと思える理由かもしれない。(談)

●プラウベル・マキナ『670』は、1983年に登場した露出計内蔵の6×7判のレンジファインダーカメラ。レンズ部は沈胴式で、折りたためばコンパクトに収納できる。レンズは「Nikkor 80㎜ F2.8」搭載で高画質を実現。120フィルムと220フィルムのいずれもが使用可能。中古カメラを扱う店で、現在も流通している。実勢価格はおよそ20万円前後。写真は石川さんが現在も使用している愛機。
PROFILE
石川直樹(いしかわ・なおき)
1977年東京生まれ。写真家。東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。人類学、民俗学などの領域に関心を持ち、辺境から都市まであらゆる場所を旅しながら、作品を発表し続けている。『CORONA』(青土社)により土門拳賞を受賞。

玄人名品〜9「自動車批評のスペシャリストが手放せない「七つ道具」」

道具で大事なのは機能性と耐久性。情緒の入り込む余地はない

 一台の車に乗って試乗記を書く。それを読んだ読者は何百万、時には数千万もの大金を叩いて車を購入する。だから、自動車批評にはそれ相応の覚悟が必要だと思うのだ。そんなわけで試乗記を書く際には、現場に必ず持って行く「七つ道具」がある。

 試乗とは時に数時間、与えられても数日間という短い期間の中で行われる。さらにはメルセデスの『Sクラス』にも乗れば、ポルシェの『911』にも乗ることになるので、極力、車同士の相対評価にならないよう常に感覚をリセットしておきたい。そのためにこれらの道具を駆使するわけだ。その意味で道具には、見た目が美しいとかこのブランドが好きだからという情緒が入り込む余地はない。また、壊れてもすぐに替えが利くありふれたものである必要がある。メジャーはステアリングセンターとシートのオフセットを見るために吊るして使えるスチール製の重量感のあるモノを、ノギスはステアリング径が適正かどうかを測るためにパーツを傷つけない樹脂製を、エアゲージは常にタイヤの状態を適正に保持したいので、狂いのない小型をと選んでいったら、ここに紹介したモノに行き着いた。

 プロが選ぶ道具とは、つまり単一機能に徹した揺るぎない品質のモノということになる。

 名品とは実はそういう品を指している言葉なのではないだろうか。

靴はソールが薄くて軽いトッズを愛用、¥63,000(トッズ・ジャパン〈トッズ〉)。サングラスは偏光グラスが必須、¥28,000(ミラリ ジャパン〈レイバン〉)。メジャーはスチール製を選ぶ、¥2,400(TJMデザイン〈Tajima〉)。ノギスは樹脂製を選択、¥750(新潟精機〈SK〉)。その他、プリズムは室内の色温度を見るために、エアゲージはこの10年来キャリブレーションの必要がないイタリア製。カセットレコーダーは試乗時の呟きを録音。これらは、すべて沢村さんの私物
PROFILE
沢村慎太朗(さわむら・しんたろう)
車の運動性とその構成要素に関する分析力において定評があり、自動車専門各誌において辛口の評論を展開している。著書に『スーパーカー誕生』(文春文庫)、『午前零時の自動車評論』※第1巻から第11巻まで刊行(文踊社)などがある。

玄人名品〜10「レーシングチームのメカニックが手放せないツール」

コンマ1秒を争うレースシーンにおける信頼度の高さ

 現在、国内で最も人気の高いモータースポーツと言っても過言ではないスーパーGT。中でも各メイクスが主にGT3カテゴリーの車両を用いて鎬ぎを削るGT300クラスは、レース毎に熾烈な戦いが繰り広げられ、特に盛り上がりを見せている。ここでチーフエンジニアを務める鈴木直哉さんは、サーキットのガレージにおいて、ポルシェと同じくドイツを代表する工具メーカー、ハゼットのツールセットを主に愛用しているという。「ハゼットのいいところは、ミラー系ツール(鏡面仕上げ)の代表格であるブランドのスナップオンなどとは対極にある質実剛健さにあると思います。特にスパナやメガネレンチは手に馴染みやすく、しっかり握れる点がとてもいい。表面が梨地なので手にしっくりとくる。

 だから、力が入れやすくて作業していても疲れにくいのです。さらに、ソケットレンチを含めて、それぞれの加工精度がとても高いので、ボルトやナットをなめることがない。とても信頼のおけるツールだと感じます」

 コンマ1秒をかけて争うレーシングカーのメンテナンスを担当するだけに、ツール選びには1点の妥協も許されないのだ。

写真左から、コンビネーションプライヤー¥4,610、コンビネーションレンチ19㎜¥3,070・17㎜¥2,760・12㎜¥2,200、3/8ソケットレンチ11㎜¥1,280・14 ㎜ ¥1,420・16 ㎜ ¥1,420・17 ㎜ ¥1,670・21 ㎜ ¥1,720・3/8エキステンションバー¥2,540・ユニバーサルジョイント¥4,860・ラチェットレンチ¥9,680・エキステンションバー¥3,680(シー・エス・シー〈ハゼット〉)
PROFILE
鈴木直哉(すずき・なおや)
エクセレンスインターナショナル所属のチーフエンジニア、メカニック。今期、第3戦(代替開催)では、ついに2位表彰台を獲得。普段は東京・世田谷にある「ポルシェ・センター世田谷」で、『911』をはじめ、市販車のメンテナンスを担当。

玄人名品〜11「洗車の達人が推奨するカーケアアイテム」

環境性能にも配慮した英国王室御用達

「世の中には、ボディを美しく保つためのカーケアアイテムが星の数ほどもありますが、このオートグリムの『スーパーレジンポリッシュ』が特に優れている点は、クリーナー効果と、ツヤ出し保護効果を、これ1本で高いレベルで実現できることにあります。これさえあれば、ボディの完璧なクリーニングと同時に、特殊配合のコンディショナーによって、塗装面に深いツヤを生み出す強固なコーティング皮膜を同時につくることが可能になるのです」

 そう話すのは、ホテルニューオータニのガーデンタワー内で洗車場を展開する「プレミアム・カーケア・ジャパン」のスタッフ田代直也さんだ。車好きならばよくご存じのように、英国製のオートグリムは、英国王室から2つのロイヤルワラントを授かるカーケア・ケミカル用品のトップブランドである。

 50種ものラインナップを誇るアイテム数の多さとともに、自動車のボディを完璧に保つための先進のテクノロジーを追求し続けていることが最大の特徴。環境保護の観点から生分解性クリーナーの開発をいち早く行うなど、環境への配慮でも最先端をいくことで知られる。

「ケミカルな製品にありがちな、鼻につくようないやなにおいがしないことも魅力で、爽やかな柑橘系の芳香によって、より快適な環境で洗車に向き合えるのもオートグリムの製品が優れている点だと思います」

通常の水洗いの後に、『スーパーレジンポリッシュ』をボディに定期的に塗布し拭き上げることで、塗装表面を長期にわたって美しい状態に保つことが可能になる。スーパーレジンポリッシュ 325ml¥2,600(プレミアム・カーケア・ジャパン〈オートグリム〉)
PROFILE
田代直也(たしろ・なおや)
ホテルニューオータニ・ガーデンタワー地下駐車場内にある洗車場「プレミアムカーウオッシュ」スタッフ。こちらではオートグリム製品を用いたプレミアム洗車などのサービスを提供。カーケアのことならどんな要望にも応えてくれる。

玄人名品〜12「魚の目利きたる寿司職人が愛用する包丁」

何よりも、慣れた道具でありさえすれば

 東京・渋谷にほど近い、神泉のマンションの一室にその鮨屋はある。存在を知らなければ店があることさえわからない。しかし、本物の鮨を食べたいと願う客が、夜ごと集う店として名高いのが「小笹」である。

 主人の佐々木茂樹さんは多くを語らない生粋の職人気質。自らが仕事で使う有次の包丁についても、「毎日通う築地の場内に店があったから、たまたま手にしただけのことです」と涼しげに答えるのみ。しかし、その研ぎ澄まされた柳刃包丁の姿を見れば、仕事で使う道具に対する真摯なまでの想いが、静かにではあるが確実に伝わってくるのだ。

佐々木さんが5年に亘って研ぎ続け、使い続けた白鋼純日本鋼本焼柳刃包丁。

「包丁は毎日研いで使うものなので、慣れがいちばん重要なんじゃないでしょうか。僕は鋼が比較的やわらかい有次の包丁にこの25年で慣れてしまった。だから、もうこれ以外に手を出す気にはなれない、ただそれだけなんです」

 佐々木さんにとって、道具は日々の仕事を真っ当にこなせるものであればそれでよく、「たまたま出合ったモノを日々手入れして大切に使っていれば、どんな道具でも愛着が湧いてくるし、自分が道具に慣れていく。包丁も同じで、自分なりの使い方をして毎日自分で研いでいれば、重さとか硬さとかにこちらが慣れるもの。それより何より、僕らはいい鮪さえあればそれでいいんです。いい鮪を、お客様の前で美しく切れる包丁があるなら、即ちそれがいい道具なんでしょうね」と語ってくれた。

刀鍛冶・藤原有次を祖とする京都の有次から独立し、大正7(1918)年に日本橋で創業した築地の有次は、400年以上の伝統と技に培われた切れ味鋭い包丁を製造、直売している。左から、白鋼純日本鋼本焼柳刃包丁270¥44,000・別打相出刃165¥18,500・特製薄刃195¥17,000(有次)。
PROFILE
佐々木茂樹(ささき・しげき)
先代の「下北沢 小笹寿司」で修業した後、1991年に神泉の地で「小笹」を開く。鮪をはじめとするネタのクオリティの高さは都内随一であり、実直にして真摯な仕事ぶりから予約が取りずらい店として知られる。

玄人名品〜13「釣り名人の作家が10年来、使い続ける渓流竿」

竿を振るとき、魚を寄せるときのバランスがいい

 竿に求めるポイントはいくつもあるが、これは軽くて持ち運びに便利だし、一日中振っていても疲れないので、渓流に行く際は必ず携行している。最近の竿はどれもカーボン製で軽くていいが、自分には竿全体の重量バランスがよく、この竿がいちばん合っている。だからこの10数年来、この長さの渓流竿はこれ1本だ。竿は手でモノを摑むように、常に手先の一部であってほしい。眼で見たモノをすっと手でキャッチできるように、竿も狙ったポイントに毎回仕掛けを正確に落とせることが大事。その意味でもこの竿は、自分の脳と竿先が直結している感覚がある。自分にとってのいい竿の条件を、すべて満たした名品だと思っている。(談)

写真の竿は、夢枕さんがこの10年来愛用し続けているDAIWAの渓流釣竿。『華厳』の中硬モデルで、長さが5.4mのもの。竿は毎年のように新製品が出るので同じモデルは廃番となっているが、現在、市販されている物の中では、DAIWA渓流竿『流覇 硬調』が最も近いモノとなる。DAIWA渓流竿 流覇 硬調60M¥56,500(グローブライド〈Daiwa〉)
PROFILE
夢枕 獏(ゆめまくら・ばく)
1977年に作家デビュー。代表作に『サイコダイバー』『闇狩り師』『餓狼伝』『陰陽師』など多数。『上弦の月を喰べる獅子』で日本SF大賞、『神々の山嶺』で柴田錬三郎賞、『大江戸釣客伝』で泉鏡花文学賞、舟橋聖一文学賞、吉川英治文学賞を受賞。

玄人名品〜14「名宿の主人が偏愛する万年筆」

使っているうちに愛着が増すのもいい道具の条件

「他のブランドにはないモダンさと、全体の雰囲気に妙な色気を感じたのがこれを手にしたきっかけです」

 湯河原にあるミシュラン2つ星の旅館「石葉」の主人・小松秀彦さんはその出合いをこのように語る。

「でも初めは、なんだかインク詰まりは起こすし、書き味もさえなかった(笑)。でも、こちらが扱いに慣れたせいか、使い続けていたら書き味も当初より数段よくなりました。実は、この辺りが手放せない理由なんですね。つきあいづらさを超えたところに愛が芽生えるとでも申しましょうか。ここに至って、自分らしい文字が書けるようになったので、私の中ではこれぞ名品と感じている次第です」

モンテグラッパは、イタリア・ベネト州バッサノ・デル・グラッパの地において1912年に設立されたブランド。「ライティング・ジュエル」筆記具の宝石とも称され、その優美なスタイルで歴代の著名人たちに愛用されて来た。モンテグラッパネロウーノ¥60,000(日本万年筆〈モンテグラッパ〉)
PROFILE
小松秀彦(こまつ・ひでひこ)
湯河原温泉にある旅館「石葉」の二代目主人。美意識の高さを随所に感じさせる洗練を極めた設えは、訪れる客人たちを魅了してやまない。ミシュラン2つ星に認定された美食も楽しみのひとつとなっている湯宿。

玄人名品〜15「最高のコーヒーを生み出す名人が愛するコーヒーポット」

機能性と美しさを両立した希有なるポット

 東京・世田谷を拠点とする「堀口珈琲」の主人・堀口俊英さんは、コーヒーのプロとして、独自の美意識を投影した道具選びにも定評がある。その好例がこのポットである。

「コーヒーポットは湯量を自在にコントロールでき、狙った一点に湯を注ぐことができるかどうかが重要です。即ち、自分の手の延長のように扱えること。しっかり握れる大きめの持ち手と、絶妙な角度で伸びる注ぎ口が、ポット内部の情報をしっかりと伝えてくれる。デザインの美しさは言うまでもありませんが、銅製なので使い込むほどに色合いが変化し、モノとしての味わいが増すのも重要なポイント。道具を使うことの醍醐味を感じられる逸品です」

金工技法のひとつである「鎚つい起き」によって銅器制作している新潟県燕市にある「玉川堂」は、1816年創業という老舗。茶筒や急須といった伝統的な銅器をはじめ、現代の暮らしに合わせた様々な銅器を、伝統の職人技によってつくり続けている。コーヒーポット 流線文(900ml)¥150,000・コーヒードリッパー いぶし銀¥35,000(玉川堂)
PROFILE
堀口俊英(ほりぐち・としひで)
1990年、東京・世田谷で「コーヒー工房ホリグチ」を創業。鮮度の高い生豆と個性の明確な深いローストを追求し、真のコーヒー好きたちから厚い支持を得る。現在は「堀口珈琲」として、世田谷、狛江、上原の3店舗を運営している。

玄人名品〜16「現代アートシーンを席巻する絵師が手放せない定規」

道具は手足の延長。至らないところは創意工夫する

 この定規は、鳥瞰図的な街並みや、建物の窓枠、林立する柱など、等間隔で平行線を引きたいときに重宝しています。目盛りをたとえば2.5mmなどに設定すると、定規を上下に動かすだけでそのピッチで固定されますので、何本もの平行線を割と楽に描けるんですね。ただ、それほど精度の高いものではないので、もっと細かい線を描きたいときなどは、筆の当て方を工夫するなどしないといけない。でも、道具の至らない部分、不便なところをどうにか往いなして描いていると、新たなテクニックが生まれたりして(笑)。そういうところが実はいい道具の要件なのかもしれない、などと思っております(談)。

ピッチマン『Quick Measure』は直線、直角線、平行線、分度器、テンプレート、クイックメジャー、サブスケールなど多目的な用途に使える万能定規。平行線を引く際は、真ん中の赤いダイヤルでピッチの長さを設定。定規を上下に動かすことで裏に付いたローラーが回転して、設定したピッチになると止まる仕組み。現在は廃番だが、ネットオークションなどに出品されることがある。
PROFILE
山口 晃(やまぐち・あきら)
東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻(油画)修士課程修了。時空を混在させ、緻密に描き込まれた街の鳥瞰図的な作品を筆頭に、ユーモアとシニカルさに満ちた作品で知られる。画集に『山口晃 大画面作品集』、著書に『ヘンな日本美術史』など。

玄人名品〜17「究極の靴磨きを実践する職人御用達のブラシ」

小判形のシンプルなデザインも名品たる所以

 上質な靴を愛着ある一足へと昇華させる靴磨き。この靴磨きに特化した専門店「ブリフトアッシュ」の長谷川裕也さんが、手放せないという逸品が江戸屋のブラシだ。

「小判形の持ち手がしっくり手に馴染み、高品質な毛がたっぷりと植えられているので、とにかく使い易いのです。磨きの各工程が的確に行えるし、日々、数えきれない靴を磨いても毛が抜けたりしないので、耐久性が高いことも素晴しい。愛用の道具とは、言い換えれば仕事の相棒。仕事を究めたければ自然と高品質な道具に行き着くし、そういうモノは不思議とシンプルで普遍的なんです。このブラシを見ていると、僕もこんな職人になりたいと思います」

江戸屋は享保3(1718)年、将軍家より現在の屋号を与えられ、江戸刷毛の専門店として創業。明治になってブラシなどの生産も始めたという老舗中の老舗。写真のブラシは、「ブリフトアッシュ」と江戸屋のコラボレーションで生まれたオリジナルの靴磨き用ブラシ。上に載せたブラシ/スエードブラシ¥5,600・左下/豚毛ブラシ¥8,000・中/馬毛ブラシ¥10,000・右上/山羊毛ブラシ¥12,000(ブリフトアッシュ青山〈ブリフトアッシュ〉)
PROFILE
長谷川裕也(はせがわ・ゆうや)
営業マンを経て、2004年、丸の内で靴磨きを始める。1年後に品川駅前の路上へと移って徐々に顧客を増やし、2008年、南青山に「ブリフトアッシュ」を開店。新たなる靴磨きのスタイルを模索し続けている。

玄人名品〜18「新進気鋭のシェフが 見出したカトラリー」

見た目の美しさが物語る機能性の高さ

東京・恵比寿にある「ゴロシタ.」は、吟味された最高の素材を、繊細な味わいでシンプルに提供してくれる希有なイタリアン。店主の長谷川慎さんが選ぶカトラリーもまた、端正にして料理の味わいと同様に切れ味が鋭い。

「サラディーニは、とにかく切れ味がすごい。肉を切る際に、刃をスッと入れるだけでストレスなく切れる。ですから、お客様が切ることではなく食べることに集中できる。料理人の側から言えば、肉の繊維を傷つけないので、素材本来の味を損なわないのが一番のポイントです。デザインもシャープでスタイリッシュだし、何よりその美しさが機能のよさを物語っている。よい道具とはこうあるべしという、お手本のような存在ですね」

イタリア・トスカーナ州の「刃物の街」として有名なスカルペリア。この地で、伝統とデザイン性を融合させたナイフづくりを行っているのがサラディーニだ。ステンレス鋼を鍛造加工した刃は切れ味とともに耐久性も高い。柄は水牛の角を加工した天然素材。サラディーニ ビステッカナイフ「レオナルド水牛角」各¥14,680(ファベル〈サラディーニ〉)
PROFILE
長谷川 慎(はせがわ・まこと)
リッツカールトン大阪、グランドハイアット東京などのレストラン勤務を経た後、2009年よりイタリアン「クリオーゾ」のシェフに就任。2014年、恵比寿に「ゴロシタ.」をオープン。オーナーシェフとなる。毎年、イタリアに渡り、食材、調理法の研究に余念がない。

玄人名品〜19「住宅建築の名手が必要に迫られ開発したゲージ」

デザインした結果を正確に見定めるための道具

 豊かで心地よい空間と、上質でシックな佇まいの住宅を手がけることで知られる建築家・中村好文さん。端正で美しい設計手法は、建築だけではなく家具にも発揮される。

「家具のデザインをする際、椅子の持ち手やテーブルの角の手触りを大切にしています。その角の丸みを数値としてきちんと把握するためにこの道具をつくりました。角を半径3㎜のアールでデザインしても、でき上がった物が本当にその丸みになっているかどうか、計測する道具がなかった。だから自分でつくることにしたんです」

 道具単体として見ても美しい。まさに用の美の見本。時に名品とは、その道のプロが仕事を完遂するための発想から生まれるものなのだろう。

「アール・ゲージ」は、文字どおりアール(曲線の半径)を測るための定規。家具などの曲面(凹凸両方のアール)に直接押し当てて曲線を測ることが可能。設計図で指示したアールが、実物において指示どおりになっているかを確認するときに用いる。また、実測図を作成する際にも使用可能という。工夫しだいで様々な使い方がありそう。アール・ゲージ¥1,800(レミングハウス)
PROFILE
中村好文(なかむら・よしふみ)
武蔵野美術大学建築学科卒業。1981年、自らの設計事務所・レミングハウス設立。’93年「一連の住宅作品」で第18回吉田五十八賞「特別賞」受賞。著書に『住宅巡礼』、『住宅読本』、『中村好文 普通の住宅、普通の別荘』、『中村好文 小屋から家へ』など。

玄人名品〜20「住宅建築の名手が必要に迫られ開発したゲージ」

デザインした結果を正確に見定めるための道具

 京都・花背にある美山荘は、地場の野草を主体とした「摘つみ草くさ料理」で知られ、美食家たちが密かに通う隠れ宿である。その四代目当主・中東久人さんは、山の幸を追い求めて日々山に入るという。その際に欠かせないのがフィールド・ブーツなのだ。

「山では夏冬ともに多種多様なシーンがあり、ふたつのブーツを使い分けています。特にカミックのブーツは保温性が高く、積雪の中でもつらい思いをすることがない。何より双方ともに色やデザインが山の風景に溶け込むので、履くことそのものが愉しみになる。いい仕事をするためには、その仕事に集中できる環境づくりが大事。その意識をサポートしてくれるモノが、いい道具の条件だと思います」

四季折々の山の幸を堪能できる料亭旅館として知られる美山荘。主人自ら毎朝、野山に入って食材を探すため、この2種類のフィールド・ブーツが欠かせないという。左・夏用/コロンビア ラディ2¥9,500(コロンビアスポーツウェアジャパン〈コロンビア〉) 右・冬用/カミック ハンター¥9,000(キャラバン〈カミック〉)
PROFILE
中東久人(なかひがし・ひさと)
1969年京都生まれ。アメリカ、フランスの大学でホテル経営を学び、パリのレストランなどでサービススタッフとして働く。24歳で帰国後、金沢の料亭で修業を積み、26歳で「美山荘」の四代目当主となる。

玄人名品〜21「音楽プロデューサーが将来の名品と語るスピーカー」

見た目の美しさが、優れた道具であることを物語る

 スタジオ業界以外ではあまり知られていないことかもしれないが、名品と呼ばれるスピーカーは確かに存在する。時代によってそれが異なるのは、その時代によって求められてきた音が違うこと、プロセスが違うこと、そして機械そのものが違うからだ。具体的に挙げるならアルテック『A5』、タンノイ『SRM』、オーラトーン、ヤマハ『NS-10M』、プロアック等。プロの道具に於おける名品はとにかく「わかりやすい」ということがキーワードになるだろう。言い換えるならば音が見える、ということ。見えるからその先にどう作業したらいいのかわかる。基本条件は飾り気が少なくバランスがいい、ということに尽きる。それでいてある程度以上は気持ちいい音。長い間聴いていて気持ちよく、そして疲れないことはプロの道具の必須条件だ。エンジニアはいろいろな音量でチェックするから、幅広い音量の中でバランスがいいということも大事かもしれない。

 アンフィオンは今の僕のレコーディングスタイルに対応すべく、エンジニアのGOHさんに教わり購入に至った。まだ世の中に多く出ていないので果たしてこれが名品として語り継がれるかどうかはわからない。ただ、現代の96kHzプロトゥールス録音に於いては圧倒的に音が速く、3Dで現代的な音がする。これを使った音楽家たちの中から名作が多数生まれれば、このスピーカーは将来名品として語り継がれるはずだ。

アンフィオンTwo18スピーカー/セット価格¥720,000・1台¥360,000※ともにスピーカーのみ(ミックスウェーブ〈アンフィオン〉)
PROFILE
松任谷正隆(まつとうや・まさたか)
1951年東京生まれ。20歳の頃、プロのスタジオプレイヤー活動を開始し、バンド「キャラメル・ママ」「ティン・パン・アレイ」に参加。その後アレンジャー、プロデューサーとして多くのアーティストの作品に携わる。モータージャーナリストとしての顔も持ち、長年にわたり「CARGRAPHIC TV」のキャスターを務めるなど、自他ともに認めるクルマ好き。

玄人名品〜22「野鳥カメラマンが手放せない双眼鏡」

遠くのものを正確に捉え短距離のものも的確に見える

 私は野鳥写真を撮ることを生業としているので、フィールドへ出るときはカメラだけでなく、双眼鏡も必須アイテム。野鳥撮影をするためには、その野鳥をよく知ることが一番の近道で、生態観察はとても重要だ。また、鳥が食べる植物や昆虫も撮るし、生息地の環境などを知ることも重要で、野鳥を取り巻く自然全体に気を配らないと良い撮影はできないと思っている。そんな私の強い味方で、いつも頼りにしている双眼鏡は、興和光学の『GENESIS 33 PROMINAR 8×33』。

 この双眼鏡は、まず解像力が良く、色収差が全くない。野鳥はちょっとした色の違いで、種類が違うことがあるので、自然そのままに見えることはとても大切だ。また、完全防水なことも大きな安心要素。そして、一番気に入っている点は、最短焦点距離が1.5mだということ。双眼鏡は遠くのものを近くに見るための道具だと思われるだろうが、私は近くのものを見るときにも使っている。トンボやチョウなどの細かいところを覗いたり、小さな花の形状を見たりと、毎日出番は多い。

 これを使い始めてから8年近くなるが、良い双眼鏡に出合えたものだと、いまだに嬉しくて、これからも大切に使っていこうと思っている。

洗練されたデザインの軽量、コンパクトボディに、超低分散特性を持つXDレンズを計4枚採用。夕暮れや日陰などの明るさが不十分な環境でも、確かな結像性能を発揮。色収差を極限まで排除した興和光学のフラッグシップモデルである。GENESIS33 PROMINAR 8×33¥150,000(興和光学〈Kowa〉)
PROFILE
叶内拓哉(かのうち・たくや)
1946年、東京生まれ。大学卒業後に9年にわたり造園業に従事。その後にカメラマンに転身。野鳥撮影の先駆的存在として知られるようになる。著書に『日本の鳥300 改訂版』など多数。

玄人名品〜23「ゲストリレーションズの支配人が制服に忍ばせているメモパッド」

手のひらサイズの上に、ポケット付きで何かと重宝

 ゲストリレーションズは、宿泊、宴会、レストラン利用など、ホテル内における、あらゆるお客様の案内係です。ホテル内にいらっしゃるすべてのゲストのご要望に、即座にスマートにお答えすることを何よりの責務としています。ですから、ゲストのご質問等には素早く対応しなければなりません。その際に大いに役立つのがこのメモパッドなのです。お客様のご意見、ご要望を即座にメモに取ったり、また横に付いたポケットには駐車券や小さなガイドマップ、外国人向けのタクシーカードなどを忍ばせておき、必要なときにすぐに取り出せるようしています。私にとってなくてはならない必需品です。これを手にしたのは15年ほど前。

 クレイン製ということで、上質な革を用いているので気に入りました。以来、これまで毎日使い続けていますが、未だに新品同様の使い心地でとても重宝しています。もちろん、手入れはしますが、質の高い物は長持ちしますし、使うほどに愛着が湧く。さりげないモノですが、機能美にあふれた名品だと思います(談)。

ジョッターとはハンディサイズのメモ紙を指す。クレインのジョッターカードホルダーは薄型でとにかくポケットなどに収納するのに便利。さっと取り出して素早くメモ書きができるのが特徴。本体にサイドポケットがあるので、チケットや駐車券などを収納することも可能。クレインのジョッターカードホルダーは、クレイン社のサイト(英語)にて$46.00で販売されている。サイズは約8.6×14.6cm。写真は小島さんの私物。
PROFILE
小島達也(こじま・たつや)
「パレスホテル東京」のゲストリレーションズ支配人。各部署との連携を図り、ゲストが快適なホテルライフを過ごせるよう日々尽力。ホテル総支配人の代行を務めることもあり、各国のVIPからの信頼も厚い。

※価格はすべて税抜です。※価格は2016年冬号掲載時の情報です。

この記事の執筆者
TEXT :
MEN'S Precious編集部 
BY :
MEN'S Precious2016年冬号 その道を究めた玄人愛用名品25より
名品の魅力を伝える「モノ語りマガジン」を手がける編集者集団です。メンズ・ラグジュアリーのモノ・コト・知識情報、服装のHow toや選ぶべきクルマ、味わうべき美食などの情報を提供します。
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クレジット :
撮影/戸田嘉昭・唐澤光也(パイルドライバー) スタイリスト/石川英治(tablerockstudio)構成・文/渡辺倫明