正しい敬語遣いが求められるのは、仕事の場面だけではありません。ついプライベートだからと油断して、いつもの自分が出てしまっては、思わぬところで自らの印象を下げてしまうことに……。

近所の人たちと良好な関係を保っておくためにも、仕事中と同じように、常に感じのいいふるまいや態度を心がけ、相手の立場に配慮した言葉がけをしたいものです。

そこで今回は、「近所づきあい」における敬語の使い方や言葉の選び方を、ビジネスマナー・敬語講師の井上明美さんに解説していただきます。きちんとした雰囲気を醸し出す、気の利いた表現方法を学んでいきましょう。

■1:「隣に引っ越してきたんで、よろしく」は×

隣に引っ越してきたんで、よろしく
隣に引っ越してきたんで、よろしく

引っ越してきたときのあいさつは、「隣に越してまいりました○○と申します。これからお世話になりますが、どうぞよろしくお願いいたします」が正解。

日常の場面でも近所の人と出会った際には「おはようございます」「こんにちは」「こんばんは」などの基本的なあいさつが大切です。相手や場面に応じたスマートな会話ができるようになれば、いろいろな人と円滑な人間関係を築くことができるはずです。

「(引っ越して)きたんで」は、普段のままの言い方ですね。「来た」は「まいりました」とします。名乗り、「今後何かとお世話になりますが……」とのひとことを添えます。

×:「隣に引っ越してきたんで、よろしく」
○:「隣に越してまいりました○○と申します。これからお世話になりますが、どうぞよろしくお願いいたします」

■2:「この間はどうも」も×

世話になったお礼を言うときは、正しくは「先日はお蔭さまで助かりました」や「先日はお世話になりまして、ありがとうございました」です。

「お蔭さまで」という言い方は、相手から世話になったことで物事がうまくいった際に用いるお礼の言葉です。

近所に住んでいると、荷物を預かってもらった、子どもが世話になった、近辺のことについて有益な情報を教えてもらったなど、いろいろ世話になることがあるものです。後日会ったら改めてきちんとお礼を言うのが礼儀です。

×:「この間はどうも」
○:「先日はお蔭さまで助かりました」

■3:「いつももらってばかりですみません」も×

いつももらってばかりですみません
いつももらってばかりですみません

お土産などをもらったときは、「いつもいただいてばかりで申し訳ありません」と言います。

「もらう」は、謙譲語「いただく」を使い、「いただいて」とします。「すみません」は、「申し訳ありません」とするとより丁寧です。

×:「いつももらってばかりですみません」
○:「いつもいただいてばかりで申し訳ありません」

■4:「もらい物が余ったので、よかったらどうぞ」も×

近所におすそわけをする際は、「いただき物ですが、よろしかったらどうぞ」がベスト。「たくさんいただいて食べきれないので、お手伝いいただけますか」でもよいでしょう。「もらい物」は「いただき物」に、「よかったら」は「よろしかったら」とします。

余ったからあげる、というような言い方は失礼になります。相手の好みや家族構成なども考えたうえで差し上げる、心くばりも大切です。

×:「もらい物が余ったので、よかったらどうぞ」
○:「いただき物ですが、よろしかったらどうぞ」

■5:「いつもうるさくてすみません」は△

家族や子どもの声など、騒音や迷惑を詫びたい時には「いつもうるさくしてしまい申し訳ありません」と言います。

「すみません」でも決して間違いではありませんが、「申し訳ありません」「申し訳ございません」が、より丁寧です。

△:「いつもうるさくてすみません」
○:「いつもうるさくしてしまい申し訳ありません」

■6:「おばあさんは元気ですか」は×

相手の家族への気遣いを述べるときには、「おばあ様(おばあちゃま)はお元気でいらっしゃいますか」が適切です。相手の具合ですから「元気は」「お元気」、「変わりない」は「お変わりありませんか」となります。

×:「おばあさんは元気ですか」
○:「おばあ様(おばあちゃま)はお元気でいらっしゃいますか」

■7:「相談したいことがあるんですが、いいですか」も×

相談したいことがあるんですが
相談したいことがあるんですが

相談ごとをもちかける際には、「ご相談を申し上げたいことがございまして、今お時間よろしいですか」が正しい言い方です。

「相談」は「ご相談」に、「あるんですが」は「ございまして」とし、「今(お時間)よろしいですか」「少々お時間をいただいてもよろしいですか」など、相手の都合を伺い、優先するのがマナーです。

×:「相談したいことがあるんですが、いいですか」
○:「ご相談を申し上げたいことがございまして、今お時間よろしいですか」

■8:「実はちょっとめんどくさいことになってて……」も×

正しくは、「実は少々面倒なことになっておりまして……」や「実は少々厄介な問題をかかえておりまして……」になります。「面倒くさい」は「面倒なこと」「厄介な問題」などに言い換えることができます。

また、難しいお願いなどの場合は、「大変申し上げにくいのですが」「折り入ってお願い・ご相談したい・申し上げたいことがございまして」などの言葉を添えるとより丁寧です。

×:「実はちょっとめんどくさいことになってて……」
○:「実は少々面倒なことになっておりまして……」

■9:「どうしたんですか」も×

何か相談を受けたときは、「どうなさったのですか」や「何かおありになったのですか」と聞きます。「どうした」は「どうなさった」、「何かあった」は「何かおありになった」とすれば、より丁寧な表現になります。

×:「どうしたんですか」
○:「どうなさったのですか」

■10:「しばらく留守にします」は△

しばらく留守にします
しばらく留守にします

帰省や旅行などに出かけるときは、「しばらく留守にいたしますので、どうぞよろしくお願いいたします」が正解です。

留守中なにかお世話になることがあるかもしれませんので、「どうぞよろしくお願いいたします」のひとことを添えるとよいでしょう。

△:「しばらく留守にします」
○:「しばらく留守にいたしますので、どうぞよろしくお願いいたします」

■11:「困ったことがあったら言ってください」も×

近所の人に声をかける場合は、「何かお困りのことがおありになりましたら、どうぞ何なりとおっしゃってくださいませ」に。

「何かあったら言ってください」という表現は、ビジネスのメールなどでもかなり使うことが多いと思いますが、尊敬語にすると「何かお困りのことがおありになりましたら、どうぞ~」という表現になります。

「あったら」のところを「ございましたら」とするのも丁寧語にはなっていますが、尊敬語にするのであれば「おありになりましたら」となります。

例えば「何かご質問がございましたら」などというときにも、「何かご質問がおありになりましたら」とするとより丁寧な尊敬表現になりますので、このフレーズは覚えておかれると便利なものです。

「言ってください」という意味の表現に「お申しつけください」という言葉もあります。また「おっしゃってください」以外に、「仰せつけください」という表現もあります。これは、何かあったら何なりと注文してください、自分に言いつけてください、という意味で、案外幅広く使える表現です。

ご近所とのつきあいは長く続くもの。ちょっとした場面でも、相手の身に立った丁寧なコミュニケーションを心がけ、よりよい関係を築いておきましょう。

×:「困ったことがあったら言ってください」
○:「何かお困りのことがおありになりましたら、どうぞ何なりとおっしゃってくださいませ」

井上明美さん
ビジネスマナー・敬語講師
(いのうえ あけみ)国語学者、故金田一春彦氏の元秘書。言葉の使い方や敬語の講師として、企業・学校などの教育研修の場で講義・指導を行う。長年の秘書経験に基づく、心くばりに重きを置いた実践的な指導内容には定評があり、話し方のほか、手紙の書き方に関する講演や執筆も多い。著書に『敬語使いこなしパーフェクトマニュアル』『最新 手紙・メールのマナーQ&A 事典』(ともに小学館)、『知らずにまちがえている敬語』(祥伝社新書)、『大和ことばで書く短い手紙・はがき・一筆箋』(日本文芸社)、『一生使える「敬語の基本」が身につく本』(大和出版)など多数。Webサイト「ALL About」では、「手紙の書き方」のガイドを務めている。
『敬語使いこなしパーフェクトマニュアル』井上明美・著 小学館刊
この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
WRITING :
小野寺るりこ