近年では、ウール生地が薄くなり、カシミアでもベビーカシミアなどの最高品質の素材を採用したスーツやジャケットが世に並ぶようになった。服がよくなっているものの、お手入れへの関心は低いように感じる。当たり前のことであるが、ブラシをかけるだけでも服の輝きが違うのだ。なぜ、ブラシがけが必要なのかを、ブラシ職人の第一人者、石川和男さんに教えてもらったので紹介する。

習字用の上質な尾脇毛をさらに吟味してつくる

「さらい」という作業。毛の太さを均一にするため、ナイフを使って曲がった毛を抜いていく。
「さらい」という作業。毛の太さを均一にするため、ナイフを使って曲がった毛を抜いていく。

世間の服がドンドンよくなっていながら、ブラシが昔から変わらないのはおかしいと思いました。ウール生地が薄くなり、カシミアでもベビーカシミアなどの最高品質の素材が出てきました。豚毛は硬いため、繊細な生地を優しくなでるようにブラシをかける。それでは、生地の表面を触れているだけで、織り目に詰まったホコリは取れない。強く擦れば生地が傷む。1990年代半ばに、豚毛を素材にしたブラシの限界を感じ、時代に合う高級洋服ブラシをつくり始めました。 

毛の植え込みを数行終えた後、ハサミを使って目見当で毛の先端を整え、長さをそろえる。3~3.5cmの毛の長さが、当たりがやわらかく、コシが強い。
毛の植え込みを数行終えた後、ハサミを使って目見当で毛の先端を整え、長さをそろえる。3~3.5cmの毛の長さが、当たりがやわらかく、コシが強い。
ブラシのハンドルの穴に、0.3mmのステンレスの針金を使い、尾脇毛を埋め込む。
ブラシのハンドルの穴に、0.3mmのステンレスの針金を使い、尾脇毛を埋め込む。
テンポよく尾脇毛を植え込む。ハンドルの素材は桂。完成したブラシの上面には、屋久杉で覆い滑らかに研磨する。
テンポよく尾脇毛を植え込む。ハンドルの素材は桂。完成したブラシの上面には、屋久杉で覆い滑らかに研磨する。

ファッションの時代性に合ったブラシの毛を研究していくと、習字用の筆が究極の素材だと思いました。タヌキやテンなどの毛を使って、1本100万円ぐらいの超高級ブラシをつくることもできますが、現実的ではありません。筆の素材には、馬の尻尾の根元に生える「尾お脇わき毛げ」という稀少な毛があります。これをブラシの素材にすることにしました。毛の当たりがやわらかいうえ、コシがしっかりとしている。生地にブラシを強くかけられる最高の素材です。毛玉になったカシミアの生地も、ブラシをかけると繊維がほぐれていきます。

お気に入りのスーツやジャケットのお手入れに!

右/3色の尾脇毛を混ぜて製作した上ウス毛のブラシ・左/ビキューナ素材の服用に開発した羊毛のブラシ
右/3色の尾脇毛を混ぜて製作した上ウス毛のブラシ・左/ビキューナ素材の服用に開発した羊毛のブラシ

上質な仕立てのコートやスーツ、愛着のある味わい深いジャケットなど、クリーニングに出すと風合いが落ちることがあります。ブラシを使って生地のホコリを取り除くデイリーケアが、服にとって最もいいんです。(談・石川和男(ブラシ職人))

問い合わせ先

石川ブラシ

この記事の執筆者
名品の魅力を伝える「モノ語りマガジン」を手がける編集者集団です。メンズ・ラグジュアリーのモノ・コト・知識情報、服装のHow toや選ぶべきクルマ、味わうべき美食などの情報を提供します。
Faceboook へのリンク
Twitter へのリンク