秋の旬の魚といえばサンマですが、不漁のニュースがここ数年続いています。実はサンマに限らず、日本の水産資源は長期にわたり減少中。水産物自給率は50%台なのです。

『Precious』10月号では、「世界で、日本で、『サステナブル・シーフード』から考える食の未来」と題し、限りある水産資源を持続可能にするための世界中の取り組みにフォーカス。現状に危機感を抱く世界の料理人や漁師たちのアクションをご紹介しています。

今回はその中から、サステナブル・シーフードに取り組む海外レストランの今についてお届けします。

■1:New York|Rosella

New Yorkのレストラン「Rosella」のホテての握り
 

ロングアイランドの先端、モントークで水揚げされたホタテの握り。フィンガーライムをのせて。SUSHIに長けた3人のシェフが2020年10月に開店。


遠方から運ばれてくる高額な魚介類ではなく、地元漁師がその日にとったものにこだわる。N.Y.で唯一、サステナブルな材料のみのおまかせSUSHIを提供。

新型コロナウイルス感染拡大前は、SUSHIレストランの景気過熱が目に余る状況だったというニューヨークシティ。豊洲直送の魚で握れば、いくらでも値がつく事態に一石を投じたのが、この店です。

ネタは「認証を得た養殖魚」を中心に、魚以外の材料もニューヨーク近郊か東海岸、遠くても西海岸までというこだわりぶり。食材の確保のためにメニューを絞り、事前予約・支払いを徹底しています。

これまで見向きもされなかった近海魚を握りのネタに使う試みにも意欲的です。

New York「Rosella」の経営メンバー
(C)Brian Boulo

Rosella(ロゼーラ)
https://www.rosellanyc.com/


■2:Sydney|Saint Peter

シドニーのレストラン「Saint Peter」で提供される「岩マゴチとそのすべての部分の炭火焼き」
 

「岩マゴチとそのすべての部分の炭火焼き」。黒みがかったソースは、「岩マゴチ」の骨や内臓などにブランデーや香味野菜を加えて煮詰めたもので、美味。


水揚げされた魚は水や氷につけずに乾燥熟成。そして [Fin to Scale](ヒレから鱗まで)の精神で一尾の魚を余すところなく使いきる。焼いた骨、内臓や魚卵を煮詰めたソースが斬新!

シドニー・パディントン地区に店を構える若手シェフ、ジョシュ・ナイランド氏はサステナブル・シーフードの扱いに長けたトップシェフ。

本来は肉に施すドライエイジングを魚にも応用し、水揚げからいっさい、水や氷につけずに調理します。魚のケアは調理上でも徹底していて、写真の「岩マゴチ」は焼く前に身を開き、皮目だけを炭火で焼くことで魚肉への負荷を最小限に。

調理を始めてから短時間でお客様にサーブすることも、おいしく食べてもらう配慮から。

シドニーの「Saint Peter」若手シェフ、ジョシュ・ナイランド
(C)Rob Palmer

Saint Peter(セント・ピーター)
https://www.saintpeter.com.au/


■3:London|BRAT

ロンドンのレストラン「BRAT」で提供される「ヴェルヴェット・クラブ・スープ」
 

身は少なくてもミソは濃い「ガザミ」を丸ごと活用。グリルした「ガザミ」を大胆に添えた、南仏ビスク風の「ヴェルヴェット・クラブ・スープ」。


扱うのは英国産の天然魚だけ。海洋生物学者の意見をもとに、自己基準で魚を選ぶ。地元で消費されてこなかった「ガザミ」を使うことも、英国漁師の活動支援のひとつ。

日本と比べて、シーフードの選択肢があまり豊富でないイギリスですが、最近は若手シェフたちがサステイナブルな魚介類を使ったメニューを提供し始めて話題に。

なかでも、ミシュラン一ッ星を冠するトモス・パリー氏の店は、魚は顔のわかる人から仕入れ、認証ラベルには頼らない主義。

写真の「ガザミ」は自国の領域でとれるのに、国内需要がないためにスペインやフランスに輸出していたもので、この料理はイギリスでは画期的なこと。小さな体に詰まったミソを味わうスープです。

ロンドンのBRATのシェフ
(C)Ben Mcmahon

BRAT(ブラット)
https://www.bratrestaurant.com/


■4:Copenhagen|Kødbyens fiskebar

コペンハーゲンのレストラン「Kødbyens fiskebar」で提供される「じゃがいもベースのサワーブレッドにのせた地エビ・マヨネーズ添え」
 

「じゃがいもベースのサワーブレッドにのせた地エビ・マヨネーズ添え」。地エビは鮮度の落ちが早いので、捕獲から仕入れ経路もすべて特別仕様で行われる。


日帰り漁業を営む漁師と連携し、地魚は鮮度と環境保護を最優先。地元民が大好きな「入り江エビ」は砂浜から歩いて海に入り、手網で捕獲。小さな殻をすべて手でむいたもの!

SDGsの先進国デンマークにおけるシーフード分野で先駆的な役割を担うこの店。毎日5~9種類の旬の地魚や貝類を生の状態で提供するほど鮮度には自信があります。

気鋭のシェフ、ジェーミー・リー氏は地元漁師の「日帰り漁業」でとれたものを基本に、仲買人などを通さずに直接仕入れ。

写真の「入り江エビ」と呼ばれる地エビは、捕獲から調理まですべての過程で手間がかかるだけに、贅沢を極めた初夏から夏の特別料理として知られる伝統的なひと皿です。

コペンハーゲンのレストランKødbyens fiskebar(クドビュンス・フィスケバー )のシェフ
(C)ALASTAIR PHILIP WIPER

Kodbyens fiskebar(クドビュンス・フィスケバー )
https://www.fiskebaren.dk 

PHOTO :
(C)Brian Boulo 、(C)Rob Palmer、(C)Ben Mcmahon、(C)ALASTAIR PHILIP WIPER
EDIT&WRITING :
藤田 優、喜多容子(Precious)
取材:Junko Takaku(N.Y.)、Yumi Sakauchi(Sydney)、Yuka Hasegawa(London)、くらもとさちこ(Copenhagen)  :